第22話 出発準備
許嫁全員をカザリア王国のスチュワート皇太子の結婚式に連れて行く事になってしまったショウは、毎日を忙しく過ごしていた。ダンスの練習もしていたが、新航路の件でカリンと話し合ったり、サンズ島の開発についてメルトに相談しなければいけない。
「メルト伯父上、中古の大型艦しか空いて無いのです。もう少し待って頂ければ、新造の中型艦が出来上がるのですが……」
メルトは早く航海に出たいので、古くても構わないと返事をした。
「サンズ島とへの資材や人員を運搬するのだから、大型艦の方が良いだろう。で、何という艦なのだ」
前のめりに聞いてくるメルトに、ショウはアップは迫力あって怖いと後ろに下がる。
「エルトリア号です」
グッと拳を握ったメルトに、もしかして殴られるのではとショウは一瞬怯えたが、どうやら喜んでいるみたいだ。
「本当にわかりにくいよ。でも、これでサンズ島の開発は任せて大丈夫そうだね」
士官や乗組員達は自分で手配すると言うメルトに、後は任せる事にしてカリンとの打ち合わせに行く。
「ゴルチェ大陸からの逆の海流が、どの範囲か調べる必要がありますね。帰りはこの海流に乗ると航海の日数を短縮できますから、足の遅い商船は助かると思います。あと、調査していない海域にも、島が有るかもしれませんね」
海図を見ながら、カリンと細かい所まで話し合う。
「何度かペナン島とゴルチェ大陸の往復になるだろう。ところで、サンズ島の開発はメルト伯父上に任せたのだなぁ。あの方に任せっきりは拙いぞ。ガチガチの軍人だから、酒場はおろか宿泊施設など作りそうにないからな。水場の確保や、食糧に関しては任せても良いが、時々は私の艦に乗ってチェックしに行った方が良いぞ」
「カリン兄上に、ガチガチの軍人と呼ばれるメルト伯父上って……。確かに、宿泊施設や酒場なども必要ですね。今度、視察に行ったら、メルト伯父上に言ってみます」
ショウは有り難くカリンの忠告に従う事にした。
此処までの打ち合わせは順調だったのでショウは兄上に感謝していたが、終わり間際にややこしい事を言い出した。
「ショウは、カザリア王国の皇太子の結婚式に許嫁全員を連れて行くんだってなぁ。お前は勇気が有るなぁ。私は恐ろしくて、そんな事できない。まぁ、外国で許嫁同士が喧嘩しないように、上手く立ち回るんだな」
ショウは慌ててカリンに、父上にララだけで良いと変更するようにと一緒に頼んで下さいと頼んだ。
「馬鹿な! もう、ロジーナもメリッサも一緒に行くと思っているのに、そんな今更留守番などさせたら、恨み殺されるぞ。私はそんな恐ろしい事に関わるのは御免だ」
嵐の海を航海するのもびびらないカリンだが、女の揉め事の恐ろしさは身に染みている。
「僕はどうすれば良いのでしょう……」
捨てられた子犬のようなショウに、カリンはアドバイスする。
「早く第一夫人を見つけることだな。男には女同士の揉め事を解決するのは無理だ。こちらを立てれば、あちらが立たずで、手の施しようがない。しっかりした第一夫人に、家庭内の事は任せておけば良い」
「ラビータが来る前は、帰宅拒否症だった兄上の言葉は実感が籠もっていたなぁ。第一夫人を見つけなきゃいけないみたいだけど、何処で見つけたら良いものかわからないよ」
どっと疲れたショウは、ハッサンとゴルチェ大陸西海岸の開発について話し合う気分になれなかった。
「サンズと海水浴でもしよう! ララに会いたいけど……ララに会ったら、ロジーナや、メリッサも訪問しなくちゃいけない。何故か、バレちゃうんだよね~。ロジーナや、メリッサを、密偵として採用すれば有能なのかも、フラナガン宰相に提案してみようかなぁ……」
サンズとのんびり海水浴をしながら、父上が王宮を抜け出す気持ちが少し理解できたショウだった。
『ショウ? 私には理解できないけど、ロジーナや、メリッサが嫌いなの?』
ショウの考えを読んだサンズからの質問に、頭を振る。
『いや、嫌いじゃないから、ややこしいんだ。ロジーナには驚かされたけど、天使のような女の子なんて現実には居ないよね~。彼女なりに努力してるのにも気付いたし、あの演技力には中身を知ってても騙されちゃうしね。メリッサも知的セクシーだし、話していると刺激になるんだ。でも、ロジーナや、メリッサに会っていると、どうしてもララに悪い気になるんだ』
発情期に良い遺伝子を持っている騎竜と交尾飛行するだけの竜には、複雑な思春期のショウの悩みは理解しにくい。
『早くショウが性的に成熟してくれたら、私も発情期になるんだけどね。東南諸島にはメリルしか騎竜がいないから、カザリア王国かイルバニア王国の騎竜と交尾飛行したいな』
『ローラン王国にも騎竜がいるだろ? 何故、除外するんだ?』
ショウは旧帝国三国には騎竜が多いから、どの国でも一緒じゃないかと不思議に思った。
『アレクセイや、ナリシスの騎竜は、カザリア王国の竜だよ。ローラン王国には騎竜は少ないし、竜騎士も年寄りばかりだからパスだなぁ』
竜同士の情報交換の凄さに驚いた。
『だって、東南諸島には交尾飛行が可能な騎竜が居ないんだもの。ニューパロマで他の竜に色々と質問したんだよ。私には重要な問題だからね』
『御免ね、本当は絆の竜騎士の僕が、気遣いしなくちゃいけない問題なんだね』
『ショウは自分の恋愛で手一杯だから、自力で交尾飛行相手を探すよ。それに、もうすぐ弟が産まれるから嬉しいし』
ショウは一瞬また後宮で父上の夫人が王子を産むのかなと勘違いしかけたが、サンズの弟だと気づいた。
『え~! いつの間にメリルは交尾飛行を? 相手の騎竜は?』
驚くショウにサンズは本当に鈍いなぁと笑う。
『ユリアンの騎竜カイトと交尾飛行したんだ。もうすぐ卵が産まれるよ。卵が孵るまでレイテにいたいなぁ』
ショウも、卵も孵りたての子竜も見たことが無かったので、絶対に見たいと叫んだ。
『ユングフラウでドレスを作るとかで、元々早めに出帆予定なのだから子竜を見てからにしたいな。いつ頃、卵を産むの? 子竜が孵るのはいつ?』
『卵はもうすぐ産まれるよ。孵るのは、二週間後ぐらいかな?』
だったら子竜を見れると、ショウはサンズの首に飛びついた。巨大な竜はショウが飛びついたぐらいでは、ビクともしないが、大袈裟に驚いた振りをして翼をバサバサしてふざける。
ショウ達はふざけあっていたが、浜で見ていた漁師は竜に襲われているのではと恐怖を覚えた。
「なるほど、父上が遠出されないのは、メリルが妊娠中だからかな? うん? 卵でも妊娠って言うのかな? 早く子竜が見たいなぁ」
ショウは許嫁達を連れて外国へ行く事で精神的に疲れていたが、メリルが子竜を産むと聞いて少し浮上した。
次の日は、ハッサンや、サリームを訪ねて、ゴルチェ大陸西海岸の開発の件や、レイテ港の埋め立て埠頭の件の打ち合わせをする。
「ララに会いに行こう!」
ショウはくよくよ悩んでいてもら仕方無いと割り切った。
「会いたい相手と、会いたい時に会おう! それで、文句言われても仕方ないよ!」
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