第2話 ララの思惑、ミミの思惑
翌朝、ショウは目覚めると、ララに会いに行こうとベッドから飛び降りた。他の王子達がいなくなった離宮の侍従達は、ショウの御用に応えようと注視していたので、目覚めと同時に朝食や、着替えと取り囲まれてしまい、ゴルチェ大陸で自由に過ごしていたので窮屈に感じる。
「カジム伯父上、カザリア王国から帰国いたしました」
朝食を終えると、ショウはララに会いに行ったが、先ずは伯父に挨拶しなければいけないのがもどかしい。カジムは三年振りのショウが身長が伸びただけでなく、子供から少年へと成長しているのに驚き喜んだ。
「ショウ、大きくなって……私の息子が、ゴルチェ大陸の西海岸などという未開の土地にいると聞いて、毎日心配していたのだ」
娘ばかりで息子に恵まれなかったカジムにガバッと抱きしめられが、以前は腹で窒息しそうだったけど、背が伸びたお陰で窒息は免れるようになった。
ショウは、父上の兄上だけど、全くタイプが違うと、過剰な愛情に驚く。ショウは、父上に抱き締められた事なんて無いと、昨夜ベッドに運んでもらった事も知らず、内心で愚痴る。
ショウはカジムの質問に答えながらも、ララに会いたくて気もそぞろだ。
透かし彫りの衝立の後ろで、ミミは長い航海で日焼けして、背も高くなったショウを盗み見して、幼い胸をキュンとさせる。
「ショウ様、姉上の許婚だけど、素敵になったわ」
「ミミ、こんな所で盗み見ですか、お行儀が悪いですよ」
第一夫人のユーアンに見つかって、メッと叱られて家の奥へと連れて行かれながら、ミミは自分もショウとお話ししたいとお願いした。
「まぁ、ショウ王子は、長い留学からやっと帰国されたばかりですよ。許嫁のララと、ゆっくり話をさせてあげなさい」
ミミは唇を尖らせて拗ねる。
「ユーアン、父上は私もショウ王子と結婚させると、アスラン王に言われたのよ。だから、私もショウ王子の許嫁といえるわ。ねぇ、お願い~! 姉上ばかりズルいわ」
末っ子のミミにはユーアンも甘かったが、夫のカジムが迂闊な事を娘に話した事には腹を立てた。
「ショウ王子は後継者として、沢山の夫人を娶らなくてはいけません。前は後ろ盾の無い第六王子だったから、父上はこの屋敷で親子のように暮らそうと思われたのです。だから、ララと一緒に貴女も嫁にと言われたのでしょう。でも、事情は変わりました。今は、宰相や、軍務大臣、他の王族の姫君が、ショウ王子の許嫁になろうと争っています。貴女が参戦する余地はありません」
ミミはユーアンの理屈は間違っていると思った。
「他の夫人が沢山いるなら、余計に私もショウ王子に嫁がなくてはいけないわ。姉上は本ばかり読んでおられるから、少し浮き世離れした所がおありだもの。他のしっかりした姫君に、隅っこに押しやられてしまうわ。私が一緒なら、二人でショウ様を虜にしてみせるわ」
ユーアンは十一歳の小娘の意見など無視しようとしたが、確かにララは王族の姫君にしては手練手管が下手だと、痛い所を突かれたと舌打ちする。
本当は王族の姫君にしては恋愛テクニックの下手なララぐらいの方が、おっとり系のショウ王子にはお似合いなのだけど、他の王族の姫君達は肉食系だから、結婚前に押し倒しかねないと危惧する。
ユーアンは自分に娘を託して、第一夫人になる為に一旦実家に帰ったラビータに、ララがショウ王子の後宮で遅れをとっていると聞かせられないので、悩んでいたのだ。
「一度、父上と話してみましょう」
ミミは父上が第一夫人のユーアンの考えに従うのを知っていたので、ご機嫌を損ねないように今日の所はショウと話をするのは諦めた。
やっとカジムから解放されたショウは、十四歳になって眩しいぐらい綺麗になったララと庭でキスをする。
「ララ、会いたかったよ」
「ショウ様、私も……」
二人はラブラブ視線を絡み合わせて、庭を散策しながら、乳母の目を盗んではキスを繰り返す。乳母はわざと足が痛いとかブツブツ言って、赤ちゃんの時からお世話しているララが相思相愛の許嫁のショウと甘い時間が過ごせるように、遅れながら付いていく。
「あれが、僕達が初めて会った日にララが実験していた紫陽花だね。本当だ、赤と青に咲き分けているね」
ミミが聞いたらロマンチックでは無い話題だと呆れただろうが、ララは酸性とアルカリ性の物を紫陽花の根元に埋めて花の色を変える実験の結果をショウに見せる。
「初めて会った日から、ショウ様のことが好きだったけど、今はもっと好きよ」
二人で、あの日ショウが妻を食べさせていく自信が無いと言った事や、本さえ読めれば良いと言った事を思い出して、笑い合っているのを遠くからミミは羨ましく眺める。
「姉上はズルいわ! 乳母も、しっかり見張らなきゃ駄目じゃない。あ~! またキスしてる!」
「ミミ! 覗き見は駄目ですよ!」
つる薔薇のアーチの陰から盗み見していたのをユーアンに見つかって、ズルズルと家の中に引きずられるように連れて行かれながら、絶対にショウとキスしようと決意したミミだった。
ショウは綺麗に成長した許嫁に夢中で気づかなかったが、ミミがユーアンに引っ張られて行くのを見たララは、妹の悪い癖を思い出した。
ミミは、昔から姉の物を欲しがった。ララは、お人形や、帯や、ネックレスや、指輪なら、いくらでもミミにあげても良かったが、ショウを譲る気は無い。
ララはショウに海へ行きましょうと、庭から海岸へと降りる階段へと案内した。足の悪い乳母をまいて、ショウともう少し親密な関係になろうと決意したララだった。
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