第3話 懐かしい兄上達
ショウは許嫁のララに帰国の挨拶をすませて、ぼぉ~としたまま離宮に帰った。
「ララって、柔らかい」
髪フェチのショウだったが、女の子ってどこも柔らかいなぁと、思い出すだけでポッと頬が真っ赤になってしまう。
「おい、ショウ! さっきから話し掛けているのに無視して、何をぼおっとしているんだ」
ハッと我に返ったショウは、ナッシュが部屋の入口で声を掛けているのに気付いた。
「ナッシュ兄上! お久しぶりです」
背が高くなったショウに驚いたが、嬉しそうに飛びつかれて、ナッシュは人懐っこいのは変わってないなと笑う。
「おチビだったのに、背が伸びたな。帰国したと聞いて、訪ねて来たんだ」
ショウは、他の兄上達の消息をナッシュに教えて貰う。
「兄上達は、あまり変わらないなぁ。ラジックが結婚したのは、知っているだろ。リンクから中型船を貰って、商船隊に付いて行ってるよ。あっ、サリーム兄上には、お前がカザリア王国に行っているうちに子供が産まれた筈だ。名前は、え~と、バルデスだったかな? サリーム兄上も、相変わらずラシンドの商船隊に付いて行ってるが、あまり商売には向いてないかもな」
ショウは東航路を思い付いたのは、サリームが新規に商売ができたら良いと考えたからだったと思い出す。
「メーリングとの交易では、昔からの大商人が大型船で大きく儲けているから、サリーム兄上の中型船ではボチボチしか儲からないでしょう。僕のユーカ号も、ボチボチです。サリーム兄上は真面目だから、商売より文官の方が向いているのかも。父上は、サリーム兄上を後継者にされたら良いのにね」
ナッシュは、ショウが自分が後継者だと噂されているのを知らないのだと驚いた。
「いや、サリーム兄上では……」
サリームではカリンを押さえられないと言おうとしたナッシュは、そのカリンが顔を出したので口を噤む。
「カリン兄上!」
カリンは従兄弟のワンダーからの手紙で、ショウがゴルチェ大陸の西海岸の測量をしているのは、新航路を発見する為だと聞いて、興味を持って訪ねて来たのだ。
「ショウ、大きくなったなぁ。それに日焼けして、一人前の船乗りみたいだぞ。ナッシュもいたのか、丁度良い! 飲みに行こう!」
ショウは目でナッシュに、未だカリンは第一夫人を見つけて無いのかと質問して、そうだと頷かれた。
ショウは、自分達と飲み歩いている場合じゃないと、カリンに忠告したくなる。早く第一夫人を見つけなきゃ、帰宅拒否症が酷くなる一方だったからだ。
軍艦勤務で留守がちのカリンには六人の夫人がいるのに、それを取り仕切る第一夫人がいないので、夫人達の揉め事が絶えなかった。
高級料亭で酒を飲み交わしているカリンとナッシュを眺めながら、食べる専門のショウだ。カリンは前に少しの酒で酔いつぶれたショウを背負って帰る羽目になった事があるので、無理には酒を勧めない。
「ワンダーが、お前の事を褒めていたぞ。パロマ大学の聴講生の試験も、満点だったそうだな。それに、レッサ艦長や、ケリン艦長も、お前の風の魔力の強さについて感嘆しきりだったぞ」
カリンには軍艦関係は筒抜けだなと、ショウは苦笑する。
「それより、レッサ艦長が新造軍艦カドフェル号の艦長に任官された」
「へぇ~、レッサ艦長は優秀な艦長だから、新しい軍艦を任されたのですね。僕もお世話になったし、良かったです」
ふ~っと、大きな溜め息をついて、このボンヤリの末っ子に父上の後継者が勤まるのかと呆れる。
「それって、ショウの新航路の発見の為ですか?」
ナッシュの方がこういう方面は鋭いなと、カリンは頷く。
「えっ! 僕はユーカ号を売って、中型船で新航路を発見する航海に出ようと思っているのですが……そうかぁ、父上が先に東航路を発見した事にした方が良いのかな?」
二人は、ショウの天然ぶりに呆れかえる。
「お前は馬鹿か! なんで父上が新航路を発見する必要があるのだ。留守がちなのに、纏まりにくい東南諸島連合王国をガッチリ支配しておられるのだぞ。お前を後継者として、華々しく売り出す為じゃないか」
ショウは、茫然とした。
「まさか、僕は第六王子ですよ! カリン兄上は、どうかされていますよ」
パニックになったショウは、ぐるぐるの頭でどうにか後継者では無いと証明しようとする。
「え~と、そうだ! カリン兄上が、カドフェル号で新航路を発見するとかは?」
カリンとナッシュは悪足掻きをしているショウを笑って見ていたが、半泣きになってしまっているので宥めにかかる。
「父上の考えには、誰も逆らえない。お前になら力になってやろうと思えるから、良い人選だと思うぞ」
ショウは家庭が荒れているカリンが投げやりになって、こんな事を言い出したのだと思った。
「カリン兄上、第一夫人をゲットして、家庭の平和を取り戻して下さい。そうすれば、僕が後継者だなんて、馬鹿馬鹿しいと思えるようになります」
ナッシュはカリンに向かって、鬼門の家庭問題を持ち出したショウに、ひぇ~と内心で悲鳴をあげたが、ストレートな提案に考え出した。
「お前は知らないだろうが、第一夫人なんてそうそういないぞ。年をとって子供が産めなくなったから、第一夫人になるとか簡単なものでは無いのだ。あの妻達を纏めて、諍いをおこさないように導ける女性でなければ意味が無い。何人か祖父や伯父に紹介されて会ってみたが、誰も家の妻達に勝てそうな女性はいなかった……」
お酒がまわったのか、管を巻きだしたカリンをナッシュはまぁまぁと宥める。
「ショウ、子供にはわからないだろうが、女は怖いぞ~」
ナッシュはカリンに第一夫人の話題を振ってはいけないと、酒をがぶ飲みするのを止めながらショウを怒った。
「カリン兄上は、ミヤの娘のラビータ様にあった事はありますか? ララの母上ですが、第一夫人を希望してカジム伯父上の家を出て、実家に帰っていますよ。一、二度しか会った事はありませんが、綺麗でしっかりした方でした」
「ミヤの娘かぁ……会ってみるかなぁ」
日増しに激しくなる妻達の争いにウンザリしているカリンは、ほとほと困り果てていたので、ショウにラビータとの仲立ちを頼み込んだ。
ショウは、ミヤからラビータへと話を通して貰ったが、第一夫人を受けるかどうかは本人の気持ち次第ですよと、釘をさされた。
「カリン兄上、プライドを棄てて、困っている事を正直に話して援助を求めるのです。このままでは家に帰れなくなると訴えれば、きっとミヤの娘だから情に篤いはずです」
女性に情け無い姿を見せれるかと言うのを、懇々と言い聞かせたお陰か、ラビータはカリンの第一夫人になることを受け入れた。
「これで家庭が落ち着けば、カリン兄上も僕が後継者だなんて馬鹿馬鹿しいと思うようになるさ。かなり、神経を病んでいたんだなぁ」
ショウはユーカ号がレイテに帰港したら、カインズ船長と話し合って中型船に買い換えようと呑気な計画を立てる。
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