第13話 夏至祭どころじゃないよ~

 パロマ大学が夏休みになっても、ショウは忙しかった。


 夏至の正午に北回帰線で太陽光の差し込む角度が直角になるのを確認して、竜に乗って数パーン離れた土地で素早く計測をしなくてはいけないのだが、そもそも北回帰線が正しいのか検証しなくてはいけなかった。


「確か、エジプトか何処かの数学者が夏至に井戸に太陽が真ん丸に映るのを見て、ロバで離れた場所まで移動して井戸には太陽が三分の二しか映ってなかった事から、地球の大きさを計算したんだよね」


 ショウは女の子の髪ばかり見ずに、もっと真面目に授業を受けていたら良かったと思ったが、仕方ないと諦めて北回帰線の検証にサンズで向かおうと考えていた。


「夏至の日は、僕とレグナム大尉とに別れて計測した方が良いと思うんだ。ワンダーは計測に慣れているから、北回帰線上で正午に太陽が南中した時に太陽光が地面に90°か確認して下さい。僕とシーガルは北回帰線の同経度の数パーン離れた場所で計測します。そして、その観測点の距離を測れば、地球の大きさは計算できるはず……」


 ワンダーは地図を見て、北回帰線がカザリア王国の南端の孤島に通っているのを確認した。


「この同経度で測量するのですね。でも、計測点間の距離を、海上と地上とが有るので正確に計測できるでしょうか?

 いっそ、ゴルチェ大陸なら北回帰線と南に降りれば陸上ですから……ああ、でもこれは拙いかもしれないな」


 ワンダーは地図の国境線を見て、小国が乱立するゴルチェ大陸では国と国を跨いでしまうと諦めた。


「う~ん? 太陽光の角度なら、夏至でなくても良いのでは? そうだ、北回帰線で無くても、良い!」


 ハッと、ショウはバギンズ教授が楽しい夏休みをと言いつつ、笑っていたのを思い出した。


「しまった! バギンズ教授は僕がいつになったら気付くのか笑っていたんだ!ワンダー、シーガル、別に夏至や、北回帰線で無くても計測して地球の大きさは計算できるよ。90°でなくても、関係ないもの……」

 

 ショウは自分の記憶が混同していたのに気づいた。夏至の正午に北回帰線の井戸に太陽が真ん丸に映るのに、同じ経度の北回帰線じゃない井戸には真ん丸に映らないのは、地球が球体だとの証明のエピソードだったのだ。


「球体だと立証した人が地球の大きさまで計算したから、夏至じゃないと駄目だと思い込んでいた。馬鹿だなぁ、東南諸島では冬至にわざわざ南回帰線で計測したんだ」


 ショウが自分のボンヤリさ加減に脱力していると、ワンダーと、シーガルは、では何故バギンズ教授は夏至の日に北回帰線で測量する宿題を出されたのでしょうと尋ねた。


「多分、何時でも、何処でも、良いと気付くのを期待されたのだろう。それと、理論上で考えている事を実際に目で確認させたかったのかな……夏至は太陽が南中した時は、太陽光は地上に対して90°で差すからね~」


 ショウは力が抜けたように椅子に座った。


「何だか、新航路を見つけるなんて、無理な気持ちになってきたけど……やるしかないよね!」


 落ち込んでいても仕方ないと、ショウとレグナム大尉とでサッサと計測して、観測点間の距離を測り、ショウは地球の大きさを計算して出した。


「前に僕が計算した大きさと、少し誤差があったな。一人で移動する誤差と、海と陸上とが混ざっていたから距離がアバウトだったからかも」


 自分の勘違いに落ち込んでいたショウだったが、誤差はあったものの、これなら東南諸島からは東に航海した方がゴルチェ大陸には近いと確信した。ショウは計測の結果と、計算式をレポートに書いた。


「後は、この地図の正確さが問題なんだよね。夏休みだし、地形を測量して地図を作ってみようかな? 少しだけでも、地図の正確さの検証になるかな」


 ショウは、日本列島を歩いて計測して、地図を作った人がいたのを思い出す。


「カザリア王国やイルバニア王国は、東南諸島からの交易船も多いし、地図も正確だと思いますよ。でも、ゴルチェ大陸は北部と東岸部は訪れる船も多いですが、南部と西岸部の地図は信用できませんね」


「東南諸島から東航路で着くのは、その曖昧な西岸部なんだよね~ゴルチェ大陸の内陸部は、未だ行った人が居ない地域も多いみたいだね。一応は海岸沿いは、船で計測されて地図も書かれているけど……」


 北部や東岸部は国の国境線も書かれているが、南部や東岸部は海岸線のみで白紙に近かった。


「海岸線も、地図によって微妙に違いますね」


 他の地図と比べるてみると、確かに何カ所か違いを見つけ出した。


「ねぇ、ワンダー? ゴルチェ大陸への東航路だけど、赤道直下を東へ航海するのは、暑くて水の補給も大変だよね。北回帰線上は少し楽だけど距離が遠くなるし、近さから言えば南回帰線の辺りが一番だけど、それでも途中で水や食糧を補給出来なかったら大変だよね」


 ショウは、おもむろに地図の真ん中を切った。


「何をされるのですか?」


 シーガルとワンダーが、突然に地図を切ったショウに驚きの声をあげた。


「何をされるのですか、地図は高価な物なのに!」


 ショウは地球の大きさを地図の縮尺に合わせて計算して、地図の端と端の間に白い紙を挟んだ。


「これで考えやすくなった」


 ワンダーはショウが地図の真ん中で切って、白い紙の上に地球の大きさに合わせて張り直した見慣れない地図の白い部分を真剣に見つめる。


「こうして地図を見ると、ゴルチェ大陸には東航路が近いのがわかりますね。東南諸島連合王国の最東島ペナンからなら、航行可能です。でも、途中は未知の海域ですから、補給が出来ないと想定しなくてはいけませんね。航海の始めから、水と食糧の制限をすれば、たどり着けないわけではない距離だとは思いますが、ゴルチェ大陸には砂漠があると聞きますから、そこに到着すると困りますね」


 ワンダーや、シーガルは、見慣れない地図を見ながら、熱心に検討しだした。


「この地図では、北半球がポカンと空白だなぁ。南は東南諸島が延々と旧帝国大陸から、大東洋に散らばりながら南半球に伸びているし、ゴルチェ大陸もあるけど……」


 北半球の空白部分が気になったショウだが、先ずはゴルチェ大陸の地図が必要だと気持ちを切り替える。


「夏休みだし、ゴルチェ大陸の東海岸線を測量してみようよ」


 ワンダーとシーガルは乗り気だったが、レグナム大尉はアスラン王の許可を取らなくては駄目ですと引き止めた。


 この王子様は目を離すと、ゴルチェ大陸に飛んで行ってしまいそうだ。まるでアスラン王のようだと、レグナム大尉はサンズから監視の目を外さない。


「え~、父上の許可を取っていたら、夏休みが半分過ぎちゃうよ~あっ、船でレイテまで往復するより、竜なら早いよね! ひとっ飛びレイテに帰ろうかな」

 

 いくら竜でも四日はかかりますと、レグナム大尉は慌ててショウを止めるのだった。

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