第14話 サマースクールを受講しよう!

 ショウが夏休みを利用してゴルチェ大陸の東海岸線を測量したいと言い出したので、パシャム大使は頭を抱え込んだ。


「ゴルチェ大陸の東海岸は未開の地もありますので、王子様がいらっしゃる所では御座いませんよ。ましてや船ならいざ知らず、竜で飛んで行くなど……」


 カザリア王国の南端から、ゴルチェ大陸には竜で飛べない距離では無かったが、パシャム大使は竜など信用していなかった。


「何だかゴルチェ大陸には直ぐには行けそうにないね。一応、父上に手紙を書いたけど、王宮に居るかどうかも不明だもの」


 勢いをそがれたショウがくさっているのをシーガルは見かねて、サマースクールに参加してはどうですかと勧める。


「サマースクールかぁ。夏至以外の日は暇になったし、それも良いかも」


 せっかくパロマ大学に聴講生とはいえ留学しているのだからと、三人はサマースクールのパンフレットの講座を調べ出した。


「あっ、アレックス教授や、グレンジャー教授のサマースクールも有るんだね。一応、サマースクールの最終日になっているけど、アレックス教授はフォン・フォレストの家捜しから帰国されるのかな?」


 ショウは前世で使っていた漢字に似た真名が魔力を持っているのが気になってはいたが、アレックス教授に捕まるのは勘弁して欲しい。


「父上は魔力の濫用に気を付けろと言われたけど、東航路の発見の為には風の魔力を使って船の航行スピードをあげたいな。大海原で、水や食糧が無くなるのは悲惨だもの。真名で魔力を増幅出来ないかな? 竜心石の使い方をアレックス教授は知っているかな?」


 新航路発見の為には、魔力を使いたいとショウは考えて決意する。


「虎穴に入らずんば、虎児を得ず? アレックス教授に近づくのは嫌だけど、サマースクールを受けてみようかな」


 ひぇ~と、シーガルとワンダーは変人のアレックス教授のサマースクールを受講すると聞いて驚いた。


「何もサマースクールまで、アレックス教授に関わらなくても良いと思いますよ。それより、文学とか、歴史とかは如何ですか?」


「あっ、このゴルチェ大陸の文化論とか良さそうですよ。ゴルチェ大陸には変な信仰や、風習がありますから勉強しましょう」


 ワンダーは、サマースクールのプログラムにグレンジャー教授の講座が有るのを見つけて、ショウの気を他に逸らそうとした。女性学の講義はワンダーには苦痛だったので、早々に船の構造の講義を取っていたが、サマースクールは一日一講座なのでショウが受講したら付き合わされると恐れたのだ。


「本当だ、これは受講しようよ。僕はゴルチェ大陸の事を知らないから、勉強した方がいいよね」


 ここまではワンダーの思惑通りだったが、女性学を受講していたショウはサマースクールの内容まで聞いていた。


「今年のグレンジャー教授のテーマは『女性の就職』だったから、少し考えて行かなきゃね。後は、ゴルチェ大陸の文化論の講座と、アレックス教授の『ターシュ』? ターシュって、何処かで聞いた事があるけど……」


 東南諸島のショウは旧帝国の歴史も習っていたが、細かいエピソードはうろ覚えだった。


「ターシュ……ああ、リヒャルド皇太子を助けた鷹のターシュですよね。確か、カザリア王国の領土になっている地区でのエピソードだった筈です。魔力を持つ鷹で話せたという伝説が残ってます」


 歴史が好きなシーガルは、ターシュの伝説なら変人のアレックス教授の講座も受講しても良いかもと思ったが、ワンダーは女性学を受講する羽目になりそうでくさっていた。


「話せる鷹? そんなの伝説だろうし、今から五百年以上も昔の話だから信憑性無いと思いますよ」


「でも、竜も話せるよ。他にも魔力を持つ動物がいても不思議じゃないよ。ワンダー、もしかして女性学を受講したくないから、機嫌が悪いの? 別に強要しないよ」


 軍人として感情に左右されて物事を判断していると思われたくない。ワンダーはそんな事ありませんと答えてしまった。


「そうなの? でも、ワンダー、サマースクールには女性は家事をしていれば良いという保守派も参加するから、自分の正直な意見を述べたら良いんだよ。毎年、ディベートが盛り上がるみたいなんだ」


「えっ、女性学なのに、保守派が受講するのですか?」


 ワンダーもシーガルも驚いた。


「グレンジャー教授は毎年サマースクールで保守派と大討論になると笑ってらしたよ。受講している女学生達は少し緊張している子もいたんだ。で、聞いてみたら、去年、木っ端みじんに論破されたんだって。あちらは論客を送り込んでいるみたいだね。あまりに可哀想だったら、僕は保守派と論争する事になるかもね。女の子を苛めるのは、趣味じゃないもの」


 女性学なのだから、可哀想だとか言うのも変ではとワンダーは思ったが、女学生達と仲良くしている様子に少し焦った。


「元々、東南諸島の結婚制度に疑問を持っているショウ様が、グレンジャー教授の影響を受けてカザリア王国の女学生と結婚したいと言い出したら大変だ。王子には私の妹も嫁がせたらどうでしょうと、父上とお祖父様に手紙を書いたのに、変なフェミニズムを植え込まれて一夫一妻制度とかに走らないといいけど……」


 シーガルは土木や建築の講義の合間に女性学を一緒に受講していたので、女学生達と仲良く話すショウには恋愛感情が無いとわかっていた。だが、女学生達の何人かはショウがもう少し年が上ならと、残念に思っている子がいるのにも気づいていた。


「ショウ王子が十歳で良かった。これで十四歳ぐらいだったら、争奪戦が起こっていたよ。私の妹と結婚したら、義理の兄弟になるんだなぁ……」


 ショウの知らない所で着々と許嫁候補が増えているのだった。




「まぁ、これは素敵なティーセットだわ! ショウは趣味が良いわね」


 ミヤはショウが贈ったカザリア王国のティーセットの薄さに感動していたが、アスランは手紙の内容に眉を顰めた。


「全く彼奴は、次から次へと問題をおこすなぁ。どこの親が十歳の子供に、ゴルチェ大陸の、それも未開地域へ竜で旅させると思うのだ。船なら船長や乗組員がいるから、敵対的な部族に遭っても反撃できるが……まあ、サンズが彼奴に黙って攻撃を受けさせたりしないか……」


 アスランはニューパロマにはレグナム大尉がいたのを思い出して、竜が二頭いるなら攻撃を受けても逃げられるだろうと許可する事にした。


「一度、チビ助に会いに行ってみるか」


 ミヤが聞いたら怒りそうな事を考えながら、ショウが贈った極薄の高級茶器からお茶を飲んだ。

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