第11話 ウエスティンで飛行練習
ショウがパロマ大学での聴講生の暮らしに慣れた頃、スチュワートから、ウエスティンの見学と竜に乗る練習に参加しませんかと提案があった。
「申し訳ない、返事が遅くなって。見習い竜騎士の試験だったから」
スチュワートは今までの水色の予科生の制服から、濃紺に金モールが付いた見習い竜騎士の制服を着て、パロマ大学でショウに話しかけてきた。
「見習い竜騎士? 試験に合格されたのですね、おめでとうございます」
そういえば、この二週間ほどスチュワートに会わなかったのは、見習い竜騎士の試験だったからかとショウは納得した。
「実は、僕には予科生と、見習い竜騎士と、竜騎士の区別がつかないのです。パートナーと絆の竜騎士は竜との関係ですよね、見習い竜騎士は試験に合格してなるのですか?」
スチュワートは竜に関して無知なショウに呆れたが、東南諸島には竜が少ないのだから育成システムも無いのだと思い直した。
「他の国の竜騎士の育成システムは知りませんが、カザリア王国では竜騎士の素質がありそうな家系の子供は十歳でウエスティンに入学します。ウエスティンでは竜に接したり、武術を学びますね。学問はパロマ大学のプレスクールで学びますし、大学に合格したらウエスティンと掛け持ちになります」
ショウは、自分と同じ十歳でウエスティンに入学するのかと、少し憧れを持つ。
「見習い竜騎士になれば、一応は大人扱いになるので、それぞれ自分の進路に合わせて実習をしながら、大学で勉強して、ウエスティンで騎竜訓練を受けます。って、偉そうに言ってますが、秋から正式に訓練が始まるので、服は見習い竜騎士ですが、未だ騎竜訓練も受けてないのですよ」
スチュワートの気取らない気性は、カザリア王国の皇太子としても好ましくショウには思えた。
「では、お言葉に甘えて、一度ウエスティンに見学に行かせて頂きます」
もうすぐ夏休みになるからと、ショウ達はスチュワートに案内されてウエスティンに向かった。
ウエスティンは、王宮の近くにあり、竜好きなショウはわくわくする。
「うわぁ~、沢山の竜がいるんですねぇ」
ショウは父上のメリルと、自分のサンズ、王宮付きの竜騎士の竜、大使館付き武官のレグナムのリトス以外ぐらいしか日頃、竜に接することがなかった。
集団の竜を見たのは、イルバニア王国で竜騎士隊だけだったので、ウエスティンの竜舎に駆け寄って喜ぶ。
「これから、予科生達の騎竜訓練があります。見学されますか?」
スチュワートの言葉に「もちろん!」とショウは返事をする。
十歳から入学するウエスティンの予科生達が、竜で空を飛ぶのをショウはうっとりと眺める。
「良いなぁ!」
「ショウ様のパートナーの竜を連れて来れば良かったですね。そうしたら、練習に参加できたのに」
スチュワートは嬉しそうに飛行する竜を見学しているショウを見て、練習に参加させてあげたくなった。
「えっ、今日も練習させて貰って良いのですか?」
ショウはさっきから同じ年頃の予科生達が竜に乗る練習をしているのを見て、羨ましく感じていたのだ。
「でも、竜がいなくては練習出来ませんね」
スチュワートが言ったと同時に、ショウは『サンズ!』と叫んだ。
「ここは東南諸島連合王国の大使館から離れてますから、竜を呼ぶのは無理でしょう」
ショウが練習したい気持ちはわかったが、竜を遠くから呼び寄せるのは無理だとスチュワートは肩を竦める。
しかし、空から竜にしては小柄なサンズが舞い降りた。
『ショウ~』
『サンズ、来てくれたんだね』
サンズに駆け寄るショウを、唖然としてスチュワートは見た。こんな遠くまで竜を呼び寄せることが出来るだなんて、ショウの魔力の強さに驚いたのだ。
「これで練習に参加できますね」
自分がどんな事をしたのかも知らずに、無邪気に喜んでいるショウを、複雑な気持ちでスチュワートは、予科生の指導教官に引き合わせる。
「東南諸島連合王国のショウと言います。今日は、ウエスティンで騎竜訓練に参加させてもらいます」
小柄なショウにペコリと頭を下げられ、指導教官は「良いのですか?」と目でスチュワートに確認する。
「ショウ様に騎竜訓練をしてくれ」
指導教官は、サンズとショウに予科生と同じように真っ直ぐに飛ぶ所から練習させる。
『サンズ、他の竜と間隔をあけて飛ぶんだよ』
サンズも、他の竜と等間隔で飛んだりした事はなかったので、張り切る。
『わかった!』
スチュワートと指導教官は、予科生達が竜を等間隔に飛ばせるのも苦労しているのに、ショウがキチンと飛ばせているのに感嘆する。
「基礎は出来ているようですね」
スチュワートは、先程も東南諸島連合王国の大使館からサンズを呼び寄せたショウの魔力の強さに驚いていたので、竜をコントロールするのが上手いのだろうと思う。
「今は、サンズとパートナーだと言っていたが、きっと絆を結ぶだろう。もう少し、難しい騎竜訓練に参加させてみて下さい」
ショウと同じ年齢の予科生と飛ばせたが、それでは物足りないだろうと、スチュワートは上の学年の予科生の訓練に参加させることにする。
「今度は、等間隔に真っ直ぐ飛ぶだけではなく、右旋回しなさい! そして、次は左旋回! 見本をよく見ておきなさい」
自分より年上の予科生達と一緒に騎竜訓練するのは、ショウにとって挑戦だ。
ショウは、上級生達の見本を見て、竜同士が接触しないようにするには、タイミングと等間隔を保つのが重要だと気づいた。
『サンズ、他の竜と接触しないように気をつけてね!』
『ショウを落としたりしないよ』
ウエスティンの予科生達は、バランスを崩した場合に備えて命綱を鞍に付けていた。ショウも、初めて命綱をつけたのだが、サンズは少し不満に思っていたのだ。
『それはわかっているけど、今回はウエスティンのルールに従わないといけないんだ。それに、サンズとだけ飛ぶんじゃないからね』
そうサンズを宥めているうちから、ショウ達の前の組が右旋回している途中に竜同士が接触しかけて、乗っていた予科生がバランスを崩して命綱が役に立った。
鞍から落ちかけている予科生を、指導教官が竜に乗って素早く鞍に戻す。
「ショウ様、やめておきますか?」
怖くなったのなら、やめても良いですよと、揶揄うスチュワートに「したいです!」とショウは言い切った。
ショウ達の組は、前の組よりも上手い予科生が選ばれていた。下手な予科生と接触事故でも起こしたら大変だと、指導教官は配慮したのだ。
「先頭が右旋回したら、タイミングを合わせて右旋回して下さい。なるべく、竜同士を離しておくように」
見本の三頭は、綺麗な三角形の飛行形態を保っていたが、慣れないショウが接触するよりは、離れて飛ぶ方がマシだと指導教官は指示する。
ショウは、先頭の竜が右旋回しだしたのにジャストタイミングでサンズを旋回させた。
「上手い!」
スチュワートは、予科生の時、初めて騎竜訓練を受けた時にこんなに上手く旋回できなかったのを思い出す。
ショウは、サンズと訓練場に降りて、指導教官とスチュワートにお礼を言う。
「騎竜訓練を受けさせて下さり、ありがとうございます」
「ショウ王子は、竜の乗り方が上手ですね。サンズは未だ若いから人を乗せるのに慣れてないでしょうに」
指導教官は一目でサンズが未だ成長しきっていない若竜だと見抜いて、未熟な竜を乗りこなしているショウに驚いた。
「きっと父王がご指導されたのですね。ショウ王子は予科生の練習は必要ないです」
予科生達との練習を終えたショウに指導教官は合格点をくれた。
ショウは教官の誤解を訂正することはしなかったが、父上の指導は竜に跨がって飛べだけだったなと苦笑した。
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