第10話 将来の夢
「こちらは、土日は大学も休みなのは楽だね~。サンズとちょこっと、散歩しようかな」
呑気そうなショウに、シーガルはバギンズ教授の出した宿題は終わったのかと質問する。
「宿題? ああ、あれなら講義の間に解いたよ。えっ、シーガルは未だやってないの? ワンダーも?」
ショウは前世で一度習っているので、この前から数学を週に何回か受講している内に思い出して、スラスラと解けるようになっていた。
「もしかして、シーガルは数学が苦手なの?」
一緒に講義を受けていたら、内容を把握しているかどうかは自然と伝わってくる。
「私はどうも文系みたいです。基礎の数学なら付いていけますが、専門になると一寸辛いですね」
「私も基礎のクラスは理解できますが、応用編と、新しい公式の講義は難しいです。ショウ様は理解しているのに、恥ずかしくて言えませんでした」
「早く言ってくれたら、良かったのに。僕をパロマ大学に父上が留学させたのは、多分、僕の夢みたいな考えを諦めさせる為なんだ。地球って、知っている?」
「地球という言葉は聞いたことがありますが、それとショウ様の夢とは何でしょう?」
シーガルは、アスラン王がショウの夢を諦めさせる為にパロマ大学にわざわざ行かすとは思えなかった。
「ワンダーは、地球って知らない?」
海を航海するワンダーも、知っていると頷く。
「この世界はメロンの様に球形なんだよ。ほら、マストの帆だけ先に見えたりするのも球形だからだよ」
「それは、何度か見たことがあります。でも、それとショウ様の夢とは?」
ワンダーも理解不能だ。ショウは二人に地球の大きさの計算方法を話した。
「東南諸島にいた時に、地球の大きさをザッと計算してみたんだ。今ある地図の測量が正確なら、東南諸島からゴルチェ大陸には東航路が近い筈なんだよ」
ワンダーは、ショウの話に身を乗り出して聞く。
「八歳の時に、小船でサンズと冒険しようとしたんだけど、父上に嵐がきたらどうするつもりだったんだと怒られちゃった。で、小型船を手に入れたんだけど、前に嵐に遭って、軽いからクルクル舞っちゃうんだよね。新航路を見つける航海には、せめて中型船、出来れば大型船を手に入れなければなぁ」
軍艦乗りのワンダーは、新航路の発見と聞いて胸を踊らせる。
「地球という言葉は、知っていました! 東南諸島からゴルチェ大陸に、東航路が使えれば、とても交易も便利になります。是非、私もお供させて下さい」
「ワンダーの熱意は有り難いけど、中型船を手に入れるのが先決だし、地球の大きさや、地図の測量をし直さなきゃね」
ワンダーとシーガルは、ショウがこんな国家的発見を中型船の商船で行おうとしているのは無視する。
「確かに、ゴルチェ大陸の西海岸は未だ開発されていませんから、地図も詳しくはありません」
ワンダーは、新航路の夢の為に何でもする気だ。
「そうなんだよね。だから、ゴルチェ大陸の西海岸を正確に測量しなきゃね! それに、もう一つの夢もあるから、土木の基礎も学ばなきゃいけないんだ」
土木の基礎? ワンダーとシーガルは、飛躍したショウの思考回路が理解できない。
「何なんでしょう? 新航路の発見の為に、地球の大きさを計算したり、ゴルチェ大陸の西海岸を測量する必要があるのは理解できましたが、土木の基礎とは?」
シーガルの質問に、ショウは新航路を説明したのだから、ついでにこちらもと部屋から図面を引っ張り出してきた。
「二人とも、メーリングの港湾設備は知っているよね。僕はあれを見て、レイテにも船を横付けできる埠頭が有ればなぁと思ったんだ」
二人とも同じ事を考えた経験があったので、遠浅のレイテでは無理だと首を傾げる。
「でも、レイテは遠浅でしょ。で、埋め立て埠頭を考えたんだ」
フラナガン宰相の孫のシーガルは、いずれは文官として国に仕えたいと思っていたので、図面に熱中してショウにあれこれ質問する。
「この長四角は埋め立てる箇所ですか?」
「そう、でも埋め立てた箇所が地盤沈下したり、港に悪影響を与えるかもしれないから、そこら辺をパロマ大学で勉強しなきゃいけないんだ」
ショウとシーガルは熱中して埋め立て埠頭について話し合う。
そんな二人の様子を脇で見ていたワンダーは、アスラン王がショウの二つの巨大プロジェクトが実現可能か、パロマ大学で確認させるつもりだと悟った。
シーガルも、自分たちをショウの付き添いに選んだアスラン王の意図に気づいた。
ワンダーは従兄にあたるカリンを尊敬していたので衝撃を受けたが、新航路を発見する誘惑には勝てなかった。
もし、ショウが新航路を発見したら、後継者に指名されるかもしれない。でも、ゴルチェ大陸への東航路だ! 後継者問題など知った事か! と割り切る。それに、ワンダーは、可愛い妹がいるとほくそ笑む。
機嫌良く自分を見つめるワンダーに、ショウは悪い予感を感じたが、シーガルの熱心な質問に忘れてしまった。
「そろそろ、サンズのところに行かなきゃ」
立ち去るショウを、ワンダーとシーガルは見送る。
シーガルは、自分にも可愛い妹がいるとほくそ笑む。今度、手紙で髪の手入れを入念にするように書いて送ることにする。ショウが重度な髪フェチなのに、気づいていたからだ。
ワンダーとシーガルはお互いに考えている事を察して、ニヤッと笑った。ショウはサンズのもとへ向かいながら、背中がゾクゾクッとした。
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