第6話 パシャム大使は疲れるなぁ
ボンキュウボンの指導教官に、あれこれ真面目な指導を受けたショウ達一行は、呆然としたまま大使館へ帰った。
「ショウ王子、お帰りなさい。どうでしたか、いえ、勿論テストには合格されると信じていましたよ~」
大使館から転ぶのでは無いかと心配する勢いで階段を下りて出迎えてくれたパシャム大使に、合格できましたとショウは苦笑した。
「おお、それでは今宵はお祝いの宴会を……何か問題でも、起こったのですか?」
アスラン王の王子を面倒を見るのに必死なパシャム大使だったが、流石に外交官として、長年騙したり騙される世界に身を置いていた勘がビビビッと問題を察知した。
「いえ、何も問題ないです。あっ、それと今夜の宴会は遠慮します。明日からは大学へ通い始めますし、これから又手紙を何通か書かなくてはいけませんので」
連日の宴会は勘弁して欲しいと、ショウはパシャム大使を振り切って部屋に向かう。
ショウが部屋に行くのを愛想良く見送っていたパシャム大使は、姿が消えるとサッと顔を引き締めた
「ワンダー、シーガル、何があったのだ!」
豹変したパシャム大使に驚いたが、ワンダーは王子の指導教官が女性だったと憤懣をぶつけた。
「何だって! その上ショウ王子を、私の尊敬するアスラン王の王子を、会っていきなり抱き締めた? ゼナ! ゼナを呼べ! そんな不敬を許すなど……」
護衛のゼナの首でも斬り落としそうな怒りにプルプル震えているパシャム大使に、シーガルは護衛は控え室で待機していたと弁護した。
「護衛が控え室でサボっていた? 何の為の護衛ですか!」
あまりの怒りに、これでは本当にゼナの首を刎ねそうだと、ワンダーも口添えする。
「ゼナに落ち度はありません。彼はヘンダーソン学長に指示され、ショウ王子の命令に従っただけです。スチュワート王子の護衛も控え室で待機しているので、同じ対応を求められたのです」
パシャム大使は、秘密工作員にヘンダーソン学長を暗殺させようかと思う程の怒りを覚えたが、その前に不埒な女教授を暗殺するのが先だと考えた。
滞在中の部屋に用意された贅沢な部屋で、到着の報告を書いた手紙の何通かに、無事に聴講生として受け入れて貰ったと追伸を書き足したショウは、手紙をレッサ艦長に持って行きがてらユーカ号の皆に会いに行こうと階下に降りた。
「しまった! ワンダーとシーガルに口止めするの忘れていた」
パシャム大使の怒りの声が聞こえて来て、バギンズの件がバレたのだと悟った。
「パシャム大使、失礼します」
書斎に入ったショウは、怒りに震えるパシャム大使が護衛のゼナに怒りの矛先を向けているのを見た。
「これはショウ王子、お見苦しい所をお見せしました」
かなり絞られたのか、大きな身体が萎んで見えるゼナの姿を見て、ショウはふつふつと怒りが込み上げてくる。
「パシャム大使、ゼナは私の命令に従ったのです。その件で、貴方がゼナを責めるのはお門違いです」
大人しいと思っていたショウに怒られて、パシャム大使は青菜に塩のように萎れていった。
その様子を見て、ショウは慌てる。そんなにキツく叱ったつもりはなかったのだ。
一瞬、ワンダーも、シーガルも、やはりアスラン王の王子だと思ったが、あたふたとフォローしだしたショウに溜め息をつく。
結局、パロマ大学の事はショウの考えを通し、大使館の中ではパシャム大使の好きなようにする事になり、その夜は合格の宴会が開かれた。
「パシャム大使は、やはり狸親父だ! もう少しで、姪を許嫁に押し付けられるところだった」
いそいそと自分の機嫌をとるパシャム大使に、大使館付きの料理人のお勧め料理を取り分けてもらいながら、この状況は疲れるなぁと溜め息をつく。
やっと宴会が終わり、パシャム大使が満足するほどご馳走を詰め込んだショウは、少しお腹が苦しいなぁとシーガルとワンダーに愚痴りながら部屋へ向かった。
「ショウ王子、ありがとうございました」
廊下の角を曲がった途端、ゼナの恐ろしい顔を見て、ショウ達は少し後ろに下がった。
「ゼナ、今日は迷惑をかけたね。明日からも、宜しく頼みます」
ショウは、ゼナがちゃんと喋れるのだと微笑んで、部屋に入った。
ゼナは、ショウが部屋に入るまで見送っていたが、可愛い王子に胸がキュンとした。シーガルとワンダーは、恐ろしげなゼナが手を胸の前で握ってポッと頬を赤らめるのを見て、食べ過ぎたご馳走を吐きそうになった。
「護衛にも、気をつけなくては!」
ワンダーは、ショウの付き添いに選ばれたのは、数年前の祖父の悪巧みの報復では無いかと思うほど、前途多難な留学生活に軍人らしくなく溜め息をついた。
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