第7話 竜騎士の為の学校があるんだ!

 バギンズ教授に初対面で抱き締められたショウだったが、数学の指導は真っ当だった。


「ショウ様、ワンダーが学食の席をとっていますよ。早く行きましょう」


 ショウは黒板に書かれた問題を後少しで解けそうなのにと残念に思ったが、シーガルに急かされて学食へ向かう。


 今日習った数式、習ったような気がするけど、覚えていなかった。ショウは、美容師になりたかったから、授業中も女の子の髪の毛を眺めてばかりいた自分を少し反省した。


「一から勉強し直すしか無いな~」


 シーガルはショウ王子の言葉に、自信を無くしたのではと心配した。十歳でパロマ大学の聴講生は、キツいかもしれない。自分やワンダーが講義を理解して、ショウ王子に教えなくてはいけないのだが、此方も講義に付いて行くのが精一杯だったのだ。


「あっ、あそこにワンダーがいる」


 バギンズ教授が講義の終わりを告げるやいなや、ワンダーは学食へ急ぎ、食券を買って三人分の席を確保していた。のんびりとショウとシーガルはワンダーが取ってくれた席に付いたが、昼時の学食は殺気だっている。何故なら、早く食券を買わないと、名物の不味いサンドイッチしか無くなるからだ。


「他のメニューを、もっと多く販売すれば良いのにね。その方が学生達のニーズに応えられるし、学食も儲かるのに……」


「ショウ様は、やはり東南諸島の王子ですね。学食の儲けなんて、考えた事がありませんでした。あの不味いサンドイッチはパロマ大学の伝統ですよ」


 スチュワートが、おチビのショウの一人前のコメントを聞いてからかいながら、隣に座った。


「スチュワート王子は、伝統を重んじられるのですね。でも、あのサンドイッチは栄養学の教授が考案された物でしょ? 伝統と呼べるのかな? 栄養学的に優れている上に、美味しい物も出来ると思うのですが」


 他の食券が売り切れて、サンドイッチしか残って無いと食券売り場の小母さんに言われた学生達から悲鳴があがるのを見て、ショウは肩をすくめた。


「確かに、他の食券が少ないかもしれないなぁ」


 真っ当な食べ物にあぶれた学生達の半分はお昼を諦めたり、外で食べようと学食から出て行くのを見て、スチュワートも考え直す。 


「私もこんなに学生達が昼食に苦労しているとは知りませんでした」


「本当だね、奨学金を貰っている学生は、外で食べる余裕は無いから、サンドイッチか、我慢するしかなさそうだなぁ」 


 スチュワートとジェームスの言葉に、ショウは首を傾げる。


「ああ、私とジェームスは、竜騎士の学校のウエスティンと掛け持ちだから、昼はそちらで食べてくる事が多いんだ」


 ショウは竜騎士の学校と聞いて興味を持った。


「そうか、旧帝国の三国は、竜騎士が重視されるのですね。ウエスティンでは、どんな勉強をしてるのですか?」


 目を輝かして質問してくるショウに、スチュワートはもしかして竜騎士なのかと質問し返した。


「ええ、サンズのパートナーなんです。東南諸島には竜騎士が少ないので、自己流で乗っているのです。父上は跨がって飛べば良いとしか教えて下さらなかったし、サンズも若いから他の人を乗せて飛んだ経験が無いので、これで良いのか不安なんです」


 スチュワートは、自分の子供に竜に跨がって飛べば良いとしか教えなかったアスラン王に呆れてしまった。


「それでは、困りませんか? 他の竜との連隊飛行訓練とかはしないのですか」


 ショウは前に見た、イルバニア王国の竜騎士隊の一糸乱れぬ連隊飛行を思い出して溜め息をつく。

 

「東南諸島連合王国には、竜騎士が少ないのです。でも、一度ウエスティンに見学に行っても良いですか?」


 スチュワートはショウをウエスティンの練習に参加させてやりたかったが、父上達に聞いてみなければと言った。


「ショウ様、食事がさめますよ」


 話に熱中して、食事が進んでいなかったのをシーガルに注意されて、パクパク食べ出したショウに、又返事をしますとスチュワート達は席を立った。


「アスラン王は、ショウ様を跡取りにするのでしょうか?」


「さぁ、東南諸島連合王国では竜騎士である事は重要視されないみたいだからな。第六王子ということは、上に五人も王子達がいるって事だから、普通は無いだろう」


 二人は午後の講義の教室へ向かいながら、旧帝国三国とは考え方の違うショウともう少し話してみようと考える。



 ショウはバギンズ教授の講義が無い時は、他の気になる講義を受けて良いと許可を貰っていたので、時間表と睨めっこしていた。


「学長も大教室ならどれでも受講して良いと言われたし、バギンズ教授も受けたい講義が有るなら、少人数のでも頼んでみると言って下さったけど……この時間表では、わからないなぁ。しまった! スチュワート様達に、面白い講義を尋ねれば良かったんだ」


 ショウは時間表を手に持つと、昼食を食べ終わって、雑談している学生達に聞きに行く。


「お話し中、すみません。少しお聞きしたいのですが、大教室の講義で面白い講義ありますか? 聴講生なんですが、どの講義を取ったら良いのかわからなくて」


 雑談していた学生達は、突然、東南諸島の服を着たショウに話しかけられて驚いたが、子供の質問に親切に答えてくれた。


「君が何に興味が有るのかによって、面白いと思うかどうかは変わるけど、何人か名物の教授を教えてあげるよ。後は講義を受けてみて、受講するか決めたら良いと思う。私達も先輩からお勧めの講義を聞いたりもするけど、手当たり次第に出て、気に入った講義に受講届を出しているから」


 学生達はあれこれ話し合いながら、時間表に丸を付けてくれた。


「ありがとうございました、参考にさせてもらいます」


 ショウが仲間の所へ帰るのを見ながら、学生の一人が少し微妙な顔をした。


「しまったなぁ、アン・グレンジャー教授の講義に丸しちゃった。面白いけど、女性学は東南諸島の学生には鬼門だったのに……」


「あっ、私もアレックス教授の講義に丸を付けた。私は面白いと思ったけど、パロマ大学の教授が変人だと思われちゃうかも……」


「仕方無いよ。実際、面白い講義をする教授は変人が多いもの。後は彼等次第さ、変人じゃない真面目な教授の役に立つけど退屈な講義を受講するか、変人の教授の面白いけど、どこで役に立つのか少し疑問の残る講義を受講するか決めたら良いよ」


 議論好きの学生達は、役に立たないからこそ純粋な教養だとか、いや役に立ってこそ教養なのだとかわいわい言い合いだした。


 こうしてショウは、変人の教授達の講義を受講する事になった。

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