第5話 バギンズ教授?
ショウのパロマ大学の初日はスチュワートの施設案内で終わったが、不味いサンドイッチで他の事は全て忘れてしまった。
大使館に帰ると、帰国するレッサ艦長に手紙を言付けようと、ミヤ、母上、弟のマルシェ、妹のマリリン、そして許嫁のララにはパロマ大学の不味いサンドイッチの件を面白可笑しく書いた。
「父上にはどうしよう? 報告はパシャム大使から行くだろうけど、一応書いておこうかな。読むかどうか、わからないけどね」
親の心子知らずのショウは、パロマ大学に留学させられたのは新航路の発見とか、埋め立て埠頭などという夢物語だとわからせる為だと考えていた。
傲慢なアスランだが、彼なりに子供には愛情を感じている。王女達は甘やかして育てたが、王子達には厳しく接するので、ショウは第六王子など忘れているのだろうと思うのも仕方無い。
「シーガル、ワンダーも、家族への手紙を書いた? レッサ艦長に届けて貰うつもりだから、早めに書いてね」
シーガルとワンダーは、大使館に帰ったショウが部屋に籠もったのは明日のテストの為に勉強する為だと思っていたのに、何通もの手紙を持っているのに驚いた。
「ショウ様、明日のテスト勉強は良いのですか?」
シーガルはテストで東南諸島連合王国の王子を落とす事は無いだろうなんて、ショウが甘い考えを持っているのではと懸念を覚えた。
「国にいる時に、テスト範囲を家庭教師におさらいさせられたから大丈夫だよ。それに落ちたら又チャレンジすれば良いだけだし。シーガルとワンダーも復習して来たんでしょ」
呑気な言葉に、シーガルとワンダーはテストに落ちるなんて許されないと気張っていた肩の力が抜けた。
「まぁ、私達も国で復習して来ましたけどね。でも、落ちるのは嫌ですから、本を読み返しているのです」
「そうかぁ、パドマ号も乗組員達を休ませたり、食糧や水の積み込みがあるし、商船隊を引き連れて帰国するから当分は出航しないよね。又、手紙書かなきゃいけないかも……」
ワンダーは、その手紙にテストに落ちたとアスラン王に書く羽目になっても知らないぞと、呑気な王子に呆れたが、無事に三人揃って合格した。
「ショウ王子、ワンダー君、シーガル君、それぞれ優秀な学生をパロマ大学にお迎えできて嬉しいです。ショウ王子は数学を勉強したいと希望されているだけあって満点でした。明日からバギンズ教授の講義を受けても良いですよ。後の授業は
頑張って勉強して下さいとヘイワード学長に励まされた瞬間、少しショウは違和感を感じた。
「
ヘイワード学長は秘書を呼び入れて、ショウ達に時間表やら、バギンズ教授の研究室などを説明するように指示した。
ショウは大学の事務室で時間表を渡されて、大教室の講義は好きに受けて良いと許可された。
「あと、その護衛ですが、教室内には入室できません。スチュワート王子にも護衛が付いていますが、控え室で待機していますので、ショウ王子もそれに従って下さい」
ショウは元々護衛など必要無いと思っていたので、秘書に「はい」と返事をしたが、ワンダーとシーガルは困惑したし、護衛のゼナは納得できないと唸った。
「ゼナ、明日からは控え室で待っていてね。スチュワート王子の護衛もいるから、退屈しないよね」
恐ろしい顔の護衛に言い聞かせているショウに秘書は、美女と野獣と思わず口に出しそうになったが、王子なのだから美少年と野獣、調教師と野獣だなと内心で訂正した。
「バギンズ教授の講義は、週に三回しか無いのですね。後はどうしようかなぁ」
時間表を見てシーガルとワンダーに相談しているショウに、秘書は、指導教官バギンズ教授に挨拶に行って相談した方が良いとアドバイスする。
「これからはバギンズ教授の指導に従った方が良いですからね。ただバギンズ教授は……まぁ、会えばわかりますから、変な先入観を持たない方が、上手くいくかもしれませんね」
ショウは奥歯に物が挟まったような秘書の言葉に、嫌な予感がしたが、教えられたバギンズ教授の研究室へと向かう。
「何だかヘイワード学長といい、秘書といい、バギンズ教授って何か曰わくがありそうだね。でも、数学の論文を読んで、凄く立派な方だと思ったから指導教官をお願いしたんだけど……」
シーガルも、ワンダーも、ショウと同じくバギンズ教授は何か癖が有るのだろうと感じて警戒する。
「偏屈な教授なのか? でも、二人の言い方は、偏屈な教授といった感じには取れなかった」
シーガルが首を傾げているのに、ワンダーも同意する。
「マッド数学者なら仕方無いけど、彼方の趣味だと困るぞ。パロマ大学には男同士の恋愛をする変態がいると聞いているし、ショウ王子を護らないと!」
二人がぶつぶつ小声で話し合っているのも構わず、ショウは渡された構内図を見ながら進む。
「あれ? どこだろう?」
入り組んだ大学で道に迷ったショウから、構内図を受け取り、「こちらですよ」と、ワンダーがバギンズ教授の研究室へとショウを先導した。
「バギンズ教授、今度聴講生としてお世話になるショウです」
書類に埋もれた教授室には、黒板一杯に数式を書いている小柄な教授がいた。ノックに入室を許可する返事があったのに、数式を書く手を止めなかったバギンズ教授だったが、キリの良い所まで書いたのかチョークを置くと、パンパンと手を叩いてチョークの粉を辺りに散らす。
「まぁ、なんて可愛い子なのかしら」
振り向いてショウを見た途端、バギンズ教授はハグした。入り口に箱が山積みで、中に入れなかったワンダーとシーガルは変態教授から王子を守ろうと、箱を投げ捨てて救出に向かった。
「え~、バギンズ教授は女性だったのですか?」
振り向いてもショウは小柄な人だと思ったが、髪が短いので男だと思い込んでいたが、ハグされて胸がボヨンと当たって真っ赤になって飛び退いた。
「あら、東南諸島の王子なのにウブね」
ヘザー・フォン・バギンズ・クレメンスは、ゆっくりと眼鏡を外し、教授の黒いローブの下から括っていた見事な赤毛を引っ張り出した。
ショウは、凄い迫力の女の人が自分の僕の指導教官なのかと驚いた。
いきなりハグされて、目をパチクリする。
綺麗な赤毛に唖然としているショウよりも、東南諸島の常識が身に付いているワンダーとシーガルの方が衝撃を感じていた。
「冗談だろ! 女の教授に習うなんて!」ワンダーは叫びたい衝動を抑えるのに必死だった。
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