第31話 パロマ大学に行かせてみるか……

 ミヤはメーリングから帰国したショウが、少し背も伸びて日焼けしたからか、子供から少年へと成長したように思った。


「ミヤにお土産を買って来たんだ」


「まぁ、ありがとう」


 ミヤは髪フェチのショウらしい金細工の髪飾りのお土産に喜んだ。


「どお、似合うかしら」


 金細工のシンプルなのに繊細な髪飾りは、小柄なミヤにぴったりだった。


「良かった~、とても似合っているよ。メーリングの街で、この髪飾りを見た瞬間にミヤに似合うと思ったんだ。でも、僕は女の人にお土産なんて買うの初めてだから、少し心配だったけど喜んで貰えて嬉しいよ」


 ミヤは、自分の為にメーリングの街で、わざわざショウが探して来てくれた髪飾りを大事にしようと思った。


「おい、ショウ、人の奥さんを口説くな」


 ミヤの部屋に顔を出したアスラン王に、ショウはフランツへの書簡を使った件を報告した。


「やはり、イルバニア王国の官僚は、仕事が早いなぁ。ペリニョンの井戸使用料の不正に気付いた次の日には対応したか……シュミット国務次官を引っ張り出したのは、フランツだな。イルバニア王国は、竜騎士同士の連携プレーが官僚組織の中でもできているな」


 ショウは他にも父上と話したい事があった。


「父上、メーリングの港湾施設を見て、少しアイデアが浮かんだのです。ざっとした設計図を書いたのですが、見て貰えますか」


 アスランはミヤの横でクッションに寄りかかったまま、顎で持って来いと合図した。


「レイテは遠浅ですから、船を横付けする桟橋は無理でしょうに……」


 ミヤは何度となく、アスランとこの件は話し合っていた。ファミニーナ島のレイテとは反対側になら深い湾があったが、断崖絶壁で船を泊めても商館どころか運ぶ倉庫や道すらも付けるのが難しそうだった。


「彼奴だって、頭が付いているんだ。それぐらいはわかっただろう。何かアイデアが浮かんだと言ってたが……」


 バタバタとショウが離宮から両手で巻いた紙を抱えて帰って来た。ショウはミヤの机の上に巻いた紙を伸ばすのに手こずりながら広げた。四隅にミヤはペーパーウェイドや花瓶などを置くのを手伝ってやった。


 アスランは、それがレイテ港だと一目見て興味を失った。地図をただ大きい紙に拡大して書いたのだと、クッションに寄りかかったまま見る。


 ショウが初めてメーリングの立派な港湾施設を見て、レイテ港にも桟橋を造ろうと計画したのだろうが、遠浅なのまでは考えが及ばなかったのかと、アスランはがっかりしたのだ。


「ショウ? この長方形は何ですか?」


「ああ、其処を埋め立てして、埠頭にしたら良いかなと考えたんだ。レイテ港は遠浅だから、埋め立てるのは可能じゃないかな。此処から先なら大型船も碇泊してるぐらいだから、水深は大丈夫でしょう。基礎は岩で作って、泥で浅くしないようにしなきゃいけないよね?」


 二人の話を聞いて、アスランは起き上がって、熱心にショウの書いた埋め立て埠頭の図面を見つめる。


「北側から、橋を埋め立て埠頭まで付けるのか。なぜ南側ではなく……ああ、潮の流れだな。レイテ港には、北から南への潮の流れがある。出口を塞ぐと砂が堆積するからか。でも、橋でも潮の流れの邪魔にならないか?」


「橋桁を高くして、潮が流れるようにしたいと思います。この長方形の埋め立て埠頭から何本かの桟橋を出しても良いとおもうのですが、それだと荷を積み下ろしするクレーンが設置出来ないし……埋め立て埠頭の湾への影響も考えなくてはいけないし、未だアイデアを思い付くまま書いただけなのです」


 アスランも未だ荒削りのアイデアに過ぎないが、埋め立て埠頭は面白いと思った。ショウがもう少し考えてみますと、クルクルと紙を巻いて離宮に帰った後、アスランとミヤは実現可能なのか、埋め立て埠頭でレイテ港に泥や砂を堆積させる事にならないか調査させなくてはと話し合った。


「なぁ、ミヤ、ショウをパロマ大学に行かせてみようと思うんだ。新航路を見つけると彼奴なりに計算したりしているが、それに賭けてずっと東に航海に出すのは不安だ。パロマ大学で少し勉強してから、新航路の発見や、埋め立て埠頭をさせたい」


 ミヤは自分の手で育てたショウを旅立たすのを寂しく思ったが、アスランが跡継ぎとして鍛えたいと考えているなら従うしかないと頷く。


「そうですね、来年にはショウも十歳になるのですから、何時までも私の手の中に抱えてはいられないのですね。でも、外国の大学に留学だなんて、十歳なのに大丈夫でしょうか?」


「正式にパロマ大学に入学させるわけでは無いさ。聴講生として、数学や建築や土木の基礎知識だけ勉強させれば充分だ。基礎知識があれば、実行可能な計画かどうかの判断ができるようになるだろう。後は、技術者に任せば良いのだからな」


 ミヤは旧帝国三国は東南諸島の結婚制度に偏見を持っているので、若いショウが影響を受けないかとも心配した。


「そうだなぁ、彼奴はボンヤリだから言いくるめられるかもしれないな。パロマ大学に留学させる前に、許嫁の二、三人でも押し付けておくか。ショウは気が良い所があるから、可愛い女の子を棄てたり出来ないだろう。ララ以外にも候補は考えているのだろ?」


 許嫁の件は任せるとアスランが出て行ってから、ミヤは真剣に許嫁候補の長所と短所を考えた。もちろん、許嫁候補の女の子の長所短所ではなく、その親、祖父のをである。


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