第26話 領事館でくたくた
「チッ、やはり大型船から荷下しかぁ」
メーリングの港湾管理人から、桟橋の使用順番を聞かされたカインズ船長は腐った。
「船長、殺生ですぜぇ~。俺が来るのを待っている可愛い子ちゃんが、他の船乗りに取られてしまうよ」
ショウが呆れたことに乗組員達は、港に小船で出張して来た娼婦達を乗船させてくれと、カインズ船長に懇願しだす。
「馬鹿やろう! 荷物を下ろすまでは航海中だ。それに、俺の船に娼婦なんか乗せないぞ。荷物を下ろしてから、交代で一日づつ陸に行かせてやる。あんな出張娼婦なんて、婆ばかりだぜ!」
ショウは遠目なのに何故カインズが年配ばかりだとわかったのかと、不思議そうに見つめる。
そんな質問に答えたくないカインズ船長は、荷下ろしの段取りをしなくてはと、わざとらしく大声で言いながらショウから離れた。
「船長、ルルーシュ号から伝言です! 一番に荷下ろして良いそうです!」
「やったぁ!」
カインズが了解の旗信号を送る前から、乗組員達ははしゃぎだした。
「多分、ショウ王子様のお陰で、助かった船の御礼のつもりだろう。それにしても、ありがたい。早く荷下ろし出来れば、売買も早く出来る」
ショウは商船隊の旗船のルルーシュ号に、サンズに乗って御礼を言いに行った。
「ショウ王子様の力添えで、無事に全船がメーリングに着いたのですから当然ですよ。それに航行日程も余裕ができましたし、風の魔力のお陰です。メーリングに滞在中に、私の商館をご訪問下さい。港湾施設などをご案内いたします」
リンクは、ショウ王子がもう少し年が上なら、綺麗な芸妓でも紹介するところだが、九歳では少し早すぎるので、案内を買って出た。
笑顔全開のリンクに、ショウは少し引いてしまったが、何度もメーリングに来た事がある人に、興味を持っている港湾施設を案内して貰えるのはありがたかった。
「是非、案内して下さい」
リンクは、黒目勝ちの瞳で見つめるショウに胸を鷲掴みにされる。
リンクはショウの可愛いさに父性本能全開になって、メーリングでの注意点をあれこれ教える。
「ごめん、リンクさんの話が長くて……」
ショウがユーカ号に帰った時には、小型船だということや、メーリングの最新港湾設備のお陰もあり、積み荷は粗方下ろされていた。
「いや、商船隊の旗船に御礼を言って来たのだから仕方ないさ」
カインズも荷下ろしが終わって、サッサと商談に入れると上機嫌だ。ショウは自分が東南諸島の気質を余り持って無いのか、商談や値段の駆け引きに興味が持てないのに少し引け目を感じていたが、カインズ船長は王子様なんだから当然だとやる気満々だ。
「ショウ王子様、ようこそメーリングへ。私はメーリングで領事を任命されていますタジンと申します。さぁ、領事館へお越し下さい」
小船からエッチラと船の梯子をよじ登って、タジン領事がショウを迎えに来た。アスラン王みたいに商館に居座られては、警備もちゃんとできないと、初めてメーリングに到着した瞬間から、王子として領事館で過ごす癖をつけたいと出迎えに来たのだ。
「タジン領事、出迎えありがとう。早速で悪いのですが、サンズの食事を用意して欲しいのです」
タジンは情報としてショウ王子が竜騎士だと知っていたが、メーリングに着くなり餌を要求されるとは思ってなかった。
「竜で領事館まで一緒に行きませんか?」
小太りのタジン領事がエッチラ船の船腹の階段を降りて小船に乗るのは大変だろうと、ショウは親切で提案したのだが、滅相も無いと断られてしまう。迎えに出向いたタジン領事より、先に領事館に着くのも間抜けだとショウは、少しユーカ号で時間を過ごしてから向かった。
「何で、皆は竜に乗るのを嫌がるのだろう? この食事シーンのせいかな……」
タジン領事はショウ王子の要求で、丸々と太った牛を領事館の裏庭に用意してくれた。
『凄~く、美味しい牛だったよ~』
牛一頭丸かじりを見て、心なしか青ざめているタジン領事に、ショウはサンズが美味しかったと礼を言っていると伝える。
「それは、良かったです。イルバニア王国は農業王国ですから、牛にも出荷前には穀物を与えるので、脂肪がのっているのでしょう。ところで、竜はどのぐらいの間隔で食事を取るのでしょうか?」
「そんなに見たくないなら、僕に付き合わなければ良いのですよ」
ショウは、父上から竜騎士は自分のパートナーの竜の食事を管理しなくてはいけないと教えられていたので、食欲不振になろうとサンズの牛丸かじりを見守っていたが、領事には関係ないだろうと言った。
「いえ、ショウ王子様が竜の食事を見守られるなら、私もお付き合い致します」
初日の竜の食事の見学から、ずっとタジン領事はショウに付きまとう。船の生活では、風呂とかは不自由だったし、ベッドだって小さかったが、領事館での至れり尽くせり過ぎる生活に、ショウは何故か馴染めず疲れる。
どうもタジン領事は王宮での生活をゴージャスに考えすぎているみたいで、ショウには常に2、3人の召使いを付き添わせて、御用を申し付けられるのを待つように指示を出していた。
「ふぅ~、疲れる~」
ショウはタジン領事の親切の押し売りに辟易としていたのだが、相手は好意でしているだけに、邪険に出来ずにペースを乱された。
「父上が、領事館に居着かない理由がわかったよ~。僕もカインズ船長達とユーカ号に泊まろうかなぁ~」
ユーカ号の乗組員達は交代で陸に上がり、娼館に籠もったり、私費で買って持ち込んだ香辛料を密売したり、酒場でどんちゃん騒ぎをしたりと、各々楽しんでいる。
「そうだ! リンクさんを訪ねてみよう」
一日中、タジン領事に御用はありませんかと側に付き添われて、ショウは精神的にくたくただ。領事としての仕事は、無いのかな? と怪しむ。
タジン領事は、畏怖しているアスラン王の末っ子の王子を全力接待することに必死で、相手のショウが鬱陶しく感じてるとは考えもしない。ましてや、ショウ王子が領事としての能力を疑っていると知ったら、これほど尽くしているのにと、泣き崩れてしまっただろう。
「サリーム王子、カリン王子、ハッサン王子、ナッシュ王子、ラジック王子、それぞれ優れた点をお持ちの王子だったが……何故だろう? ショウ王子に尽くしたくて仕方ない」
タジン領事は優秀な外交官だったので、自分がショウ王子に入れあげているのを不思議に思う。
「そうだ! 雰囲気が全然違うから気付かなかったが、ショウ王子はアスラン王の能力を一番引き継いでいらっしゃるのだ。だから、アスラン王をお慕いしている私は、ショウ王子に惹き寄せられるのだ。アスラン王に領事館に滞在して頂いて、心より御奉仕したい!」
タジン領事はショウがリンクを訪ねに行って留守の間に、少し冷静に自分の行動を分析したのだが、帰ってくると飼い犬が御主人様に尻尾を振って喜びを表すように付きまとうのだった。
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