第23話 メーリングを目指そう!
ユーカ号は帆に風を受けて、順調に大海原を航行していた。周りには数隻の大中小の商船が軍艦のスマートさとは比べるのが気の毒になるようなずんぐりとした船体に、東南諸島の香辛料や、色鮮やかな絹、米、ゴムの樹液などを満載にして航行している。
「それにしてもカインズ船長が、アリの息子の商船隊に参加するとは思わなかったなぁ」
ショウはのんびりと竜のサンズに寄っかかって、帆に風を送りながら考え事をしていた。メーリングまでの初航海を考えていたカインズ船長に、ハッサンから伯父のリンクの商船隊に参加しないかとの申し出を伝えた時を、思い出して苦笑する。
「リンクの商船隊に、参加だって! 絶対に嫌だ! と、言うと思っただろう。港で噂を聞いて、参加できたら楽だなぁと考えていたんだ」
ショウは、船を期日詐欺でアリに騙し取られた恨みがあるカインズ船長の言葉に驚いた。
「アリは恨んでいるが、息子のリンクとは関係無いさ。それに騙された俺も、馬鹿だったしな。東南諸島で商売するなら、騙したり騙されたりは日常茶飯事だ。いつまでも気にしていたら、商売にならないさ。それに、ユーカ号は外洋は初航海だから、商船隊に入った方が嵐や海賊にあった時に安全だ」
カインズ船長の割り切った考え方を唖然として聞いたショウは、自国の国民性の逞しさに笑いが込み上げてくる。
「ショウ様、リンクの船が旗信号で来て欲しいと言ってやがるです」
カインズ船長の丁寧語は聞いていて笑ってしまうのだが、船長として言葉使いを覚えようとしているのだと我慢するショウだ。
「カインズ船長、ですを付けたら丁寧語だと勘違いしてるなぁ。まぁ、練習あるのみだね、ちょっと行って来るよ」
ショウがサンズで商船隊の旗船ルルーシュ号の大きなデッキに舞い降りるのを遠目で眺めながら、風の魔力持ちが居なくなったので帆がパンパンじゃなくなったと嘆く。
「チッ、また過積載の遅れてる船の手助けでも、言いつけるつもりだぜ! 欲の皮を突っ張らした奴の尻を、うちの王子様に拭かせるんじゃないぜ」
乗組員達も風の魔力持ちのショウが居ないと、帆の角度調整とかに忙しくなるので、ぶ~ぶ~文句を言う。
「おい、てめ~ら! サボってないで、帆を張り直せ!」
潮焼けしたゴツい顔のカインズ船長に怒鳴りあげられて、乗組員達は飛び上がってマストに登りながら、口の中でぶつぶつ早くショウが帰って来ないかなと愚痴を言う。
「ショウ王子様、少し遅れている船を手助けして頂きたくて……」
ヤッパリ、その話だったのかと、ショウはハッサンの伯父リンクの満面の笑顔を眺める。
リンクは、風の魔力持ちは前に一度乗せた事があったが、竜騎士なのは便利だと笑いが止まらない。
商船隊で遅れがちな船に、竜で回って貰えるのだ。次回も一緒に航海して貰えれば、差押えられた財産も取り返すのが早くなると、取らぬ狸の皮算用をする。
ショウの持ち船のユーカ号を商船隊に参加させてくれた甥のハッサンに感謝しながら、何時もの半分の日程でメーリングに着きそうだと笑いが止まらないリンクだ。
「ああ~、お腹ペコペコ」
ショウが夕方に帰って来た時には、遅れていた数隻の商船も追いつき、夜は基本は縮帆してバラけない為の準備も終わっていた。
「これが商船隊の、まどろっこしい所なんだ。夜は固まってノロノロだから、ゆっくり休めるのは良いが、ユーカ号みたいな小型船には不利だぜ」
ずんぐりとした船体の大型船に満載されている荷物を売った時の儲けを考えると、悔しくて歯を軋らせるカインズ船長にこれからさと、声をかけて夕食を大口でパクついた。
「かっらい! 水、水!」
王宮育ちのショウは、東南諸島の香辛料たっぷりの激辛料理に悲鳴をあげる。乗組員達は船上だからさほど香辛料が入ってないのになぁと、大騒ぎするショウを笑ったが、カインズ船長は料理当番をどやしつける。
「前にも言っただろ! ショウ王子の分は、香辛料を入れる前に別に取っておけよ。風の魔力を使うと、腹が減るんだぜ」
ショウはカインズ船長に、少しずつなら食べれるから大丈夫だと、あまり当番を怒らないようにとりなした。
「空腹は一番の調味料と言うけど、調味料が多すぎるんだよ」
ショウがぼちぼち食べている姿に、ハムスターがヒマワリの種をかじっているみたいだと、ゴツい顔なのに小動物好きのカインズ船長は胸がキュンとする。
「船長、またルルーシュ号から灯りの信号が来ましたぜ。ショウ王子様を、夕食に招待したいそうですぜ」
辛い料理に閉口していたショウは、大商人のリンクの旗船なら料理人も乗せているだろうと、腰も軽くルルーシュ号にサンズと向かう。
風の魔力持ちであり、竜騎士のショウの能力が商船隊にどれほど有益か確認したリンクは、魔力を使うと空腹になるというのを使って、好意を引き寄せようとしていた。
「さすがルルーシュ号ですね。料理人を乗せているんですかぁ」
王宮育ちのハッサンとよく食事をする伯父のリンクは、王族達が庶民と違い薄味を好むのを熟知している。
ショウも、食べ物で釣るつもりだとわかっているけど、美味しさに食べるのが止まらない。
九歳にしても小柄なショウが、大人の3倍もたいらげるのに 少し呆れたリンクだが、遅れていた数隻を風の魔力で追いつかせたから空腹なのだろうと考え直す。
途中の島で商売や食糧や水を積み込んでいる間に、ショウは島民から水牛を買ってサンズに食事をさせ、商船隊は一路メーリングを目指す。
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