第12話 どうにか元手を搔き集めなきゃ

 ショウはサリームの悪口を聞いて腹を立てたが、今の自分では何の力にもならないと落ち込んだ。

「結局は、お金が必要なんだよね」

 一番手っ取り早いのは母上が嫁いだ大商人のラシンドに元手の出資を頼む事だとはわかっていたが、それだけはしたくないと余り高くないプライドしか持たないショウだが却下する。

「ケーレブ島のチーズを買う元手があれば、少しずつお金を貯めれるのになぁ」

 この前にハッサンのお使いをさせられたので、チーズの値段は知っている。

「チーズ一塊が、十マークって高いのかなぁ」

 ショウは王宮育ちで、物価も知らない自分にガッカリする。

「ミヤに聞けば、わかるだろうけど……」

 王子が、チーズ売りをしたり、かき氷屋をするのは拙いかもと、ショウはミヤに止められるのを恐れた。

「ハッサン兄上の祖父から船を貰うなんて嫌だから、コツコツ小銭を貯めるしか無いよ」

 アスランとミヤが知ったら呆気にとられる計画を、ショウは立てた。ミヤはショウが独立する時の為の資金をきちんと用意していたし、自分が育てた王子が路頭に迷う事など許すつもりは無かった。ただミヤの考える船とショウが思う船とは、鯨と金魚ほどの違いがあったので、用意できるか軽率には口に出来なかったのだ。

 王子が乗る船なのだから、荒波にも耐える立派な物をミヤは考えていて、その船を運航させるには熟練の船長と乗組員が必要で簡単には用意出来ない。船も高価だが、信頼できる船長は高給取りだし、プライドも高かったので、大商人が押さえてしまっている。遣り手のミヤといえども難しく感じるので、軽々しく口にしない。

 ミヤはどうしても育てたショウを贔屓にしてしまうが、アスラン王の第一夫人として他の王子達と金銭面では公平に扱おうとして悩んでいた。既に独立したサリーム王子とカリン王子にも、王族に相応しい立派な屋敷を与えたが、彼等には程度の差はあれ後ろ盾が付いている。

「ショウには後ろ盾が無いから、屋敷とは別に船も用意してあげたいけど……」

 他の王子達と不公平に優遇するのは、ミヤの第一夫人としての矜持に反する。

「ショウは覇気も野心も無いのに、変なプライドは高いのよねぇ」

 兄上達に良いようにこき使われるのは平気みたいなのに、母親のルビィが嫁いだ大商人ラシンドに援助を求めようとはしないプライドの高さに溜め息を付きながらも、そういうショウを愛おしく感じるミヤだった。

「私の娘を、ショウの第一夫人にしたいぐらいだわ。あの娘なら、ショウをチャンと食べさせていってくれるでしょう」

 ミヤは一度目の結婚で産んだ娘のラビータが自分の気性を引き継いでいるので、第一夫人に向いていると考えている。

「ショウとは年齢が離れ過ぎているかしら? 十五歳年上の第一夫人がいない訳ではないけど、本当ならサリームとが年齢的には良いのよね……」

 こればかりは親が口出すことではないと、ミヤは思案する。

 しっかりしているラビータは、アスラン王の兄のカジムに嫁いでいた。二十歳近くも年上の王族に嫁いだのは、第一夫人狙いのラビータの意向を、元夫の第一夫人が汲んで選んだのだろうとミヤは考えた。

 カジムの第一夫人のユーアンは出来の良さが評判だったのだ。持参金を増やしてくれるのも確かだし、第一夫人を目指しているラビータには勉強にもなるだろうと、バルディアが考慮して決めたのだとミヤは感謝していた。

「あの娘は、女の子を二人産んでいたわね。う~ん、ララとショウを結婚させても良いわね。ラビータの夫のカジム様は王様には向いて無かったけど、第一夫人のユーアン様のお陰か蓄財は長けていらっしゃるし、後ろ盾の無いショウにとって、伯父上の援助は有益だわ。ショウは髪の毛の綺麗な娘が好きだから、ララには念入りに手入れをさせなくては!」


 ショウは自分の知らない所で許嫁が決まっているとは考えもせず、元手をコツコツ貯めようと、あろうことか侍従達や女官達の用を足して駄賃を貰っていた。

「王子様に、御用を頼むなんて」

 最初は遠慮していた女官達も、王宮をそう自由に出入りできない不便さに負けて、気楽なショウの雰囲気に用事を頼むようになった。

「はい、頼まれた香料と紅」

 ショウは、お使いのお陰で物の値段に詳しくなった。頼まれた品物とお釣りを渡すと、女官は十チームお駄賃に渡した。

「ありがとうございます。本当に十チームで良いのですか?」

 王子様を使い走りにさせて、たったの十チームのお駄賃で良いのかと女官は気にしたが、ニッコリ営業スマイルで良いと言われると何となくそれでOKな気持ちになる。

「死神が言っていたモテモテって、こういう事なのかなぁ? それとも僕が未だ子供だからかなぁ?」

 女官達にモテモテのショウは、大人になって女難と思う程のモテモテになるとは知らずに、駄賃を貯める為に竜のサンズと王宮を抜け出す毎日を送っていた。

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