第3話 兄上達との暮らし
ショウは五歳になり、後宮を出て王子達が住まう離宮に移った。
「何だか男ばかり……」
若い王子達の住まう離宮には女官ではなく、侍従が勤めている。今までの後宮の綺麗なお姉様達に囲まれた生活が懐かしくて、泣きたくなるショウだった。
「今日から、此処で暮らすショウですよ。色々と教えてあげて下さいね」
ミヤに手を引かれて兄上達との暮らしが始まる離宮に来たショウは、優しく迎え入れて貰えた。
どうやらライバルとは思われて無いみたいで、ショウは一安心する。王位を巡る戦いなんて嫌だったからだ。
第一王子のサリームは十三歳で、離宮でのショウの大先輩になるから、あれこれと面倒をみてくれる。
幼い弟の勉強を見てやろうとしたサリームは、ショウが字が書けないと言うのに驚いた。
「ショウは字が未だ書けないのか」
後宮に母親がいる王子や王女は、勉強を小さな時からするのが普通で、少しサリームはショウに呆れてしまった。
第二王子のカリン、第三王子のハッサンは、少しサリームがショウの世話をやくのが面白くない。
「ショウを取り込もうとしているのか」
「ぼんやりしているが、風の魔力持ちだからな」
東南諸島連合王国では、帆船を操るのに便利な風の魔力持ちは重宝される。だが、風の魔力持ちが一番重要なのではなく、貿易や為替などで金を稼ぐ能力で、サリーム、カリン、ハッサンはアスランの後継者に選ばれる為、役に立つ人材を確保しようとしていたのだ。
ナッシュとラジックは風の魔力持ちとはいえ、字も書けない馬鹿な弟に呆れたが、サリームに従うのに慣れているので、新入りのショウあれこれ教えてくれた。
自分たちが使っていた簡単な本をショウにくれたり、読み書きだけでなく、離宮の勢力図まで教える。
「サリーム兄上は第一王子だけど、カリン兄上とハッサン兄上の母親の方が力が強いんだ。だから、あの三人は微妙なんだ」
「カリン兄上の祖父はザハーン軍務大臣なんだ!」
ナッシュの一押しは、カリンらしいとショウは感じる。
「東南諸島連合王国では、軍人なんか人気ないよ。やはり、大商人アリの後ろ盾があるハッサン兄上が良いと思うよ」
ラジックは、ハッサン押しだと、ショウはこんな子どもの時から権力争いがあるのかと驚く。
ナッシュとラジックの母親も大した家柄の出では無いのか、後宮には居なかった。二人がカリンやハッサンを自分にも支持するように勧めたのは、きっと外戚の影響だと感じる。
「カリン兄上やハッサン兄上も悪くないけど、サリーム兄上の方が優しくて面倒見が良いから、僕は好きだな」
「まあね、サリーム兄上は良いよね」
「優しいからね!」
カリンとハッサンも、サリームに対抗して弟達の支持を得ようとしていたが、十三歳と十二歳十歳の頃の一年、三年の差は結構大きい。
この時点では、まだ後継者争いも激しくなく、年長者であり、賢く、優しいサリームが離宮を穏やかにおさめていた。
ショウは、九歳のナッシュと八歳のラジックと一緒に、家庭教師と武官とに鍛えられた。
アスランは王子達の報告をミヤから受けて驚いてしまった。
「何故、字を教えなかったんだ?」
ショウと同じく母親が後宮を出たナッシュとラジックには、五歳になるまでに簡単な文字を教えていたのにと疑問を持った。
「そうですねぇ、離宮で字は習えば良いと思ったからですわ。これから、ショウは苦労しますでしょ。せめて五歳までは、楽しく暮らさせてあげたいと思ったのです」
アスランは第一夫人のミヤを信頼していたが、ショウの件だけは見込み違いでは無いのかと疑問を持った。
「風の魔力を持っているからといって、跡取りには指名しないぞ」
「まぁ、では優等生のサリームが海千山千の大商人達と渡り合えるのでしょうかねぇ。プライドの高いカリンが、旧帝国の人達と交渉できるとは思えませんわ。まして、ハッサンはお祖父様と一緒で、目先の利益ばかり考えそうですもの。ナッシュとラジックは部下としては良いですけど、王の器ではありませんわ」
王子達を扱き下ろされたけど、アスランも同意見だったので異議は無かった。
「出来の良い第一夫人を見つければ、サリームとカリンとハッサンにも見込みは有るがな。ミヤみたいな賢い女性を、口説き落とせるかどうかだな……まさか、ショウは……」
母親が後宮を去った王女や王子達は、女官達に甘やかされる傾向にある。ナッシュとラジックもよく遊んで貰ってはいたが、ショウは常に四、五人に囲まれてチヤホヤされていた。
「ショウは、天性の女タラシですわよ。私も抱っこしていると、手放したく無くなって困りましたもの。あの瞳に見つめられると、つい甘やかしてしまいましたわ」
「女タラシは良いが、馬鹿では仕方無いぞ」
普段は手厳しいミヤの甘い態度に、アスランは呆れて文句をつける。
「何故、そんなにショウの事を悪く言うのですか」
ミヤに聞かれて、アスランは嫉妬しているのだと気づいて苦笑する。
「それは、ミヤがショウのことを褒めるからだよ。未だ、金貨の一枚も稼いで無いのに、狡いじゃないか」
必死でミヤを口説き落としたのに、けっこう手厳しくビシビシやりこめられているアスランは、何の努力もしないで愛されているショウに嫉妬していたのだ。
「アスラン様みたいに、一年も国に帰って来ない王様にどう優しく接すれば良いのでしょうね。こちらの苦労も、考えて貰いたいですわ」
ショウが産まれたのもミヤからの手紙で知った有り様だったのをチクリと皮肉で返されて、アスランは自分を見捨てないでいてくれるだけで充分だと思った。
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