4話 「オレはホラー映画に転生してしまった!」/ホラー

<あらすじ>


 友人達とガラスレイクにキャンプに出かけたある日のこと、「オレ」は唐突に前世の記憶を思い出した。オレは生前、B級ホラー映画やZ級映画が好物だった日本人、堀田英二だったってことに!



<レビュー>


 どこかで見たような導入から始まるトンチキB級ホラー転生はっじまっるよー!


 どう見てもあきらかにクリスタルレイクなのだが、ガラスレイクだ。

 ここはガラスレイクだ。いいね?


 沼に足をとられてスッ転んで頭を打った主人公は唐突に自分の前世を思い出した。

 しかも今転生しているキャラクターは、中盤に死ぬ!


 それより今レイク(湖)って言ったところだろ! なんで沼があるんだよ!


 ……と読者が突っ込む間もなく、前世を思い出した堀田英二の怒濤のツッコミがもはややばい。読者の代理人と名乗ってもいいほど、山と積まれたB級ホラーやZ級に対する「あるある」に対して、前世を思い出した(二度)英二によるキレッキレのツッコミが炸裂する。

 当然のごとく殺されるカップル、一作目なのにホッケーマスクで出てくる殺人鬼、シリーズの何作目を参考にしたのかわからない武器。

 あきらかにそれっぽいのに何故か違う世界……そう……ここは、英二が生前好んで見ていたB級ホラーの中。


 英二も現実に帰還しようとしているフシがあり、「それ転生じゃなくて転移じゃないの?」と若干思わなくもない。

 気になるところといえばそれくらいだが、そのほかの細かいことはどうでもよくなるほど先へ先へと進めてくれる。


 ジェイソンモドキとの死闘(ステゴロ)に勝った英二は、ハイスクールでは惨劇からの生き残りとしてちょっとしたヒーローになる。本来のヒロインともちょっといい感じになり、これでハッピーエンド……なわけはなかった。

 今度は学内で新聞記者をしている女の子に連れられ、ついていった先が悪霊の家。

 再びはじまる惨劇と脱出。

 親友のマイクと美人のヒロインとともにハロウィンに参加しようとすれば殺人鬼。

 そしてフレディ・クルーガーめいた奴は「その現実こそがお前にとっての悪夢のようなもの」とか言ってくる。そりゃそうだけど、お前に言われたくないナンバーワン。

 海に行けば幽霊ザメに襲われ、可愛くもない殺人鬼の魂が入った人形が送られ、車で出かければ蝋人形の館かヤバい科学者にぶち当たる始末。

 おいやめろ! これ以上はやばいぞ!


 ところで英二の親友設定のマイク。あきらかに漫画にした時に適当な作画で描かれそうなレベルでやばい。一人だけ浮きまくって英二にまでツッコミされている。だがそんなんでも英二の(転生先での)親友という設定がされているのである。

 このマイクだが、毎回フラグをおっ立てては画面外で殺されたと見せかけて最後には生き残っているという「実は生きてる」鉄板ネタを毎回やってくる。英二も毎回それっぽい別れを演出するので、完全に狙ってやっている。


 そしてもうひとつ。

 英二は現実に戻るために色々と調査するのだが、時折妙なことが起きる。

 町の向こう側に行けなかったり、真っ白な場所が延々と続いていたり、町中の(特に本来映画に出てこない)人々はぺらぺらの紙でできていたりと、まあB級ホラーならそれもアリなのかと思わせて、これがのちのち重要な伏線になっていたりする。

 本来無かった行動を主人公がすることで進むのがこういうストーリーの王道だが、それだけではない空気を感じる。

 以下はネタバレで解説するので、みたくない人は飛ばしてもらいたい。




<ネタバレ>


 ここからはギャグホラー一直線だった空気が好きな人にはちょっと微妙かもしれない。

 実際同じようなレビューをしている人がいたが、私は好きだったので紹介しよう。


 最終話に至るとちょっと空気が変わる。

 英二が眩しさで目を覚ますと、誰もいない映画館に一人で座っていた。

 もしかして現実に帰ってきたのかとあたりを見回すと、ジェイソンマスク(本物)の男が座っている。思わず驚くと、そいつはマスクを取った。

 マイクだった。

 脅かすなよ、という「オレ」に、マイクは唐突に真相を語っていく。

 英二はホラー映画に転生や転移したわけではなく、「ホラー映画に転移した人」という登場人物の一人にすぎないということを語っていく。

 英二には元々帰るべき世界も存在しない。永遠に繰り返すだけだと。


 驚く「オレ」は走り回り、ついにページの端に到達し、読者によってめくられたページに挟まれ……。


 という、ここにきて急にホラーに立ち返ったあげく、タイトルにカギ括弧がついていた理由まであきらかにされるという作りの本作。


 ……もしかしてこの最後で創作であることが明かされる構造自体が「B級ホラーにありがちな展開なのか?」と思わなくもない。そうであるなら、見事に作者の術中にはまってしまったと言えよう。

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