5話 DIVE GATE/SF

<あらすじ>


 それぞれ四章になる連作短編。

 とあるVRMMORPG「エル・マディーネ」、とある乙女系ゲーム「ヴァンパイア・プリンセス」、とある異能学園RPG「天神学園」、とある異世界「ファンタジーアース」。

 そこで起きる騒動を描いた小説。



<レビュー>


 異なるVRMMOの世界での不正やウィルスに巻き込まれる主人公たちを描いた連作。


 第一章ではVRMMORPG「エル・マディーネ」の世界で、ひょんなことから謎のアイテム「無銘の剣」を手に入れた主人公ヒロの活躍が描かれる。

 やっていたゲームの世界に転生してしまった!――という、一時期流行った設定の世界観を楽しむゲーム。オープニングでの転生方法が複数種類用意されていて、更にプロフィールでは大喜利状態な転生方法、ちょっと読んでみたい。

 ヒロは元々のプレイヤーが新規アバターでゲームを始めた状態なので、知識だけなら本当に転生チートめいているところも見所。加えて「無銘の剣」は圧倒的な強さで、チートの象徴でもある。

 新米ヒーラー・ナナシとともに、ゲームの主な目的である「エル・マディーネの塔」へと登ることになったのだが、無銘の剣は弄られた不正アイテムということが発覚する。


 第二章は「ヴァンパイア・プリンセス」というゲーム。

 これもまた「ヴァンパイア・プリンセスというゲームの悪役令嬢に転生した」という設定を持つVRMMOなのだが、本来攻略対象のはずの吸血男子たちが奇妙な病に冒され、霧になって消えてしまうという現象が起こり始める。

 本章での主人公アマネは、新たなイベントだと思っていたくらいだが、実は違うということに気付き、NPCである「本来の主人公」とともに病の原因を探っていくのがストーリーだ。

 こちらはグラフィックに影響を与えるウィルスがまき散らされており、ある行動をすると姿が消えてしまうというものだった。


 ……とまあ、次の三章までVRMMOの世界でのバグや不正を描いた作品なのだが、四章になると突然毛色が変わる。

 ゲームとはまったく関係の無い中世ファンタジーの世界が描かれ、それまではバグの話だったのが、主人公サキが「世界の果て」へ行く話になっている。

 「世界の果て」は永遠にたどり着けない場所であり、サキの幼馴染みが姿を消した場所だ。

 幼馴染みは、「この世界の名はファンタジーアース。世界の果てに真実がある」という謎めいた言葉を残して世界の果てで姿を消したのだ。

 サキは一人の旅人と協力し、世界の果てを目指す。


 そしてたどり着いた「世界の果て」で、二人は永遠とも思える黒い闇へと落ちていく。旅人は苦肉の策と称して謎の扉を開き、その先にあったのは……。


 まあ、毛色が違うと言いつつ実は……というのは容易に想像できる。だがVRMMOといいつつ、ファンタジーアースに住む人々にはゲーム的要素は一切見られない。ここに気付くかどうかだろう。


 では、その真相は……ネタバレで。




<ネタバレ1>


 五章では再び「エル・マディーネ」プレイヤーのヒロに視点が戻ってくる。

 ただしゲームをプレイするわけではなく、現実世界での日常が描かれている。


 だがあるときから奇妙なものを見始めた彼は、それがエル・マディーネの世界にいる魔物だということに気が付く。やがて普通の人々が黒い塊になって消えるという現象まで起こり始め、やがてあの「無銘の剣」事件で新米ヒーラーとして行動をともにしたナナシと出会う。


 「世界の本当の姿を見ろ」というナナシは、本当に裏の主人公といっていい。


 実はこの一連の作品では、ナナシという名の少女が裏の主人公として存在している。すべての世界で見た目が違うのだが、名前だけは同じ。

 ナナシは常に主人公を支えるサポート役のような立場にあり、たとえばエル・マディーネでは新米のヒーラーとして出てくる。二章では「ヴァンパイア・プリンセスの本来の主人公」の立ち位置。当然アマネは最初NPCかと思っていた。


 そして現実世界はエル・マディーネに浸食されるが、同時刻、アマネもまたヴァンパイア・プリンセスの世界と現実が融合しつつあるのを見てしまう。


 ゲームだと思っていた世界は実在していたのだ。

 しかしここでもう一つどんでん返しが待っている。


 もうここまで来たら最後までネタバレして見てやるという人だけ先に進んでほしい。




<ネタバレ2>


 目覚めた主人公たちがいたのは火星だ。

 主人公たちが現実だと思っていたのは、実は2050年という設定をされた仮想世界「ダイヴゲート」に過ぎず、現実では世界人口の八割が仮想世界で生きていると知らされる。まさかのここにきてのマトリックス展開。(別に機械が支配しているわけではないが)

 残りの一割は火星の管理者、残りの一割は生まれた時から無理矢理仮想世界で生かされることに反対した人々である。


 ファンタジーアースもまた「ファンタジー的なテコ入れがされた中世、または世間一般が考える中世ファンタジー」を作るために構築された仮想空間だが、どうもそこで暮らす内にそれが現実だと人々は思い込んでしまっていた世界だった。代替わりがされれば起こってくる問題だろう。


 こうして最後のバグが、ダイヴゲートそのものへのハッキングだと明かされる。

 仮想世界で生きることを由としない勢力が、新型ウイルスをまき散らした結果、記憶の欠落と世界の崩壊が起こり、一旦意識を全て収束したうえで再構築がなされることになったのが真相だ。

 ナナシは協力を要請し、本当の体を動かすことへのケアも行うと言う。もちろん誰しもが受け止めきれるはずもなく、アマネが叫んだのは仕方のないことだろう。


 ナナシは火星で生まれた管理者側の人間だが、おそらく機能の限界を感じつつあったのではなかろうか。何しろ起こすことに積極的だ。火星内部にもこういう人間がちょいちょいいるのかもしれない。

 本当の世界では体がうまく動かない、というのは昨今の転移転生チートの蔓延るところに現実を突きつけてくる。


 だけどきっとこれは福音なのだ。

 本当の姿で、本当の意味で、世界を歩くことへの。

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