2話 さよなら、メアリー/ホラー

<あらすじ>


 メアリー・ブレイズロウは弁護士事務所で働く二十七歳。

 孤児であった彼女のもとに、死去した父親の相続のためにブレイズロウ屋敷へ向かってほしいという一報が入る。そこには双子の妹ローザがいて、メアリーを歓迎する。古臭いドレスや、時代遅れの風習に振り回されるメアリーは、次第に過去の記憶を取り戻していくのだが……。



<レビュー>


 メアリー・ブレイズロウは弁護士事務所で働く二十七歳。

 将来を誓い合った婚約者がいて、順風満帆である彼女にはひとつだけ。孤児であった以前の記憶がない。

 それはメアリーに小さな影を落としていた。


 事務所の人間も婚約者も優秀なメアリーに優しく、だからこそ過去の清算のために送り出してくれる。都会の人間である彼らは、メアリーが向かうべき試練とはまったく対照的に描かれているのだ。

 何故、自分だけが捨てられてしまったのか。妹とはうまくやっていけるのか。そんな不安を象徴するような大雨は予兆としてこれ以上ないだろう。このあたりは映画のような空気感さえある。

 そもそもメアリーには父親が生きていたということも驚きなのだから。


 そしてブレイズロウ屋敷につくと、彼女にそっくりの女性――ローザが歓迎した。

 すぐに帰るつもりだったメアリーが記憶が無いと知るや、屋敷に泊るように説得して、懐かしい屋敷の中を案内してくれる。

 屋敷の中は古き良き時代を思い起こさせる。時代遅れの古臭いドレスを着る「お遊び」に付き合わされるあたりから、次第にメアリーもその物珍しさにすっかり魅了されてしまった。

 ローザとの失われた時間を埋めるように、二人の時間を過ごすメアリー。


 さて、ここで重要になってくるのが執事のベンだ。

 この無口な老人はメアリーに鋭く視線を向けてくる。読者にとってもベンは不気味な存在であり、姉妹に乱暴を加えるのではないかとすら思えてくる。

 彼はまるで吸血鬼に従う醜男のようである。喋らないのに不気味だし、左利きだというのに左手は曲がったまま固定されているのもよくわからない。

 彼はメアリーが一人になるのを見計らうように現れる。ローザに守られることで、二人の絆は強くなっていく。

 メアリーに届くはずの婚約者からの手紙も事務所からの資料も、ある日暖炉で燃やされているのを発見してから、ベンの行動は常軌を逸していくのだ。


 だが意外なことに、ベンはメアリーを地下室に閉じ込めて出かけたある夜、町の暴漢に殺されてしまう。ローザはメアリーを助け、その一報にほっとしつつも「どうしてこんなことに……」と嘆き悲しむ姿には、本当に良かったと思わされる。

 ローザには従順に付き従っていたというのに、いったい何が彼を変えてしまったのか。

 ローザの口から語られる隠された真相には胸が痛くなる。

 あれほどの恐ろしい目にあいながら、ベンに同情できるメアリーも凄いが。


 身よりのないベンの葬儀を終えると、二人は本当の姉妹に戻った。


 さて、この屋敷での奇妙な出来事は、この先に向かって真相が明らかになる。

 当然のごとくネタバレであるので注意が必要だ。




<ネタバレ>


 メアリーはベンを疑っていて、ストーリーもまたメアリーの視線で進むが、実はここにはミステリーが隠されている。本作の中にばらまかれた伏線を拾っていくと、ベンにはすべての犯行は不可能だということがあきらかにされる。

 途端に信頼できない語り手へと姿を変えるメアリー。


 最後は婚約者の目線で話が進むのだが、彼には町の住人やベンからの手紙で真相が伝えられている。

 まずベンは無口なのではなく、かつてローザによって声を潰されていたのだ。ここらへんの隠蔽は……私は普通に見逃してしまった。他のレビューを見ると気付いている人も結構いてショックを受けた。


 ローザは記憶を亡くした姉を心配しているように見えて、自分の世界にメアリーを引きずり込んでいるのだ。どこが予兆のはじまりだったのか読者には見えない。

 メアリーに真に執着しているのはローザであり、その異様ともいえる執着のためにメアリーは引き離されることになったのだ。そして長い間、父親とその執事の元で監視下にあったのだ。


 最後にはメアリーは婚約者を拒絶。おそらく記憶は戻っているし、手紙をローザに燃やされたのにも気付いているというのに。

 そして二人の共同生活は本当の意味で幕を開けたのだ。


 この真相を知ってから読むと二度楽しめる。真相を知ってから初めて読んでもいろいろな伏線に気付くことができるので、思わず声があがることだろう。

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