第11話 最弱勇者と少女とシェイミー
シェイミーは思った。
マナーちゃん…思ったより強い…
◇
訓練とは名ばかりの、シェイミーの斬撃がマナーの頬をかする。
少し湿ったカタナ。しかし、本来赤く染まるはずのカタナはその刀身の淡い銀色を保っていた。
最初は避けることも叶わなかったマナーはたったの数時間でさシェイミーの斬撃を読みきっていた。
俺の目から見ると分かる。マナーはレベルは上がっていた。少し前とは大違いなほど。
しかし少しレベル上がったとしてもシェイミーには到底及ばず、そのステータスも貧弱な物であった。確かに、マナーの素早さは高い。俺なんかよりもずっと潜在能力があるんじゃないかと思う。
しかしそれでもシェイミーのほうが遥かに強かったし、素早さもマナーより数倍高い。
しかしマナーはその斬撃を見事に避けて見せたのだ。一度や二度じゃない。
おそらくマナーはこの数時間でシェイミーの斬撃の起動や、その癖を読んだのだろう。俺や他の人にはきっとできない頭脳戦がマナーの強さを物語っていた。
「マナーちゃんすごいね…」
シェイミーも若干呆然としていた。
それを見たとき、俺は悟った。
あぁ…わかったぞ…この世界…マナーが主人公なんだ……
性懲りもなくそんなことを考えていた俺だが、それでも全く悪い気分はしなかった。今の俺の中ではマナーが一番大切なんだ。素直にそう思えた俺は嬉しかった。マナーは俺の家族だ。まだ出会って3日位しかたってないけど。
素晴らしい才能を持ってるマナー。経験したことの無いことをそつなくこなせるマナー。
俺はこの瞬間心に決めた。マナーを誰よりも強い素晴らしい勇者にしよう。無表情な顔を表現豊かにして、誰よりも高い感受性を持った優しい子に育てよう。
もともと一度終わった人生だ。どうしてこうなったかは知らないが、運良く二度目の人生を手に入れることが出来た。一回目で失敗してきたこと、自分勝手に生きてきた人生をやり直そう。運良く出会った小さな子供を立派に育てて見せよう。魔王だって倒してやる。
俺が人生で初めてできた目標だ。
「な、なにブツブツ言ってるんですか……」
シェイミーが怪訝な目で俺を見てきた。
きっと今の俺はうずくまってマナーどうとか目標がどうとか言ってる変態に見えるのだろう。
「マナーすげぇぞー!」
「最強?」
「あぁ!お前なら最強になれるぞ!」
「わーい!」
そう言ったとき、シェイミーの声が聞こえた。
「__一悶着あったとはいえ、ほぼ初対面の年下に負けるわけには行けませんね」
その瞬間シェイミーのポニーテールが赤く燃え上がった。
身体中から空気を震撼させるほどの熱気が上がる。
おぉ……俺の体力が減ってく減ってく。
「少し本気で行きます」
その時、俺に向けられた攻撃じゃないと知っていても走馬灯が見えた。
これは…現世の記憶……現世?
「あ、現世に帰るって目標あったわ」
マナーどうしよ……連れていこうかな……日本。
◇
「……大丈夫でしょうかマナーちゃん」
大人げないことをしてしまいました……
このままでは一本取られてしまいそうだったのでつい本気で応戦してしまいした…
あれはお父さんが私に教えてくれた奥義。極力加減はしましたが本来人間にする技ではありません。
ごめんなさいお父さん。
「あ……マナーちゃん大丈夫?」
真っ黒に焦げた服を見ながらマナーちゃんは呆然としていました。
「…痛い…うぇぇ…うえぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ま、また泣かせちゃた…」
こうなってしまってはこれから数時間は鳴き始める。
カグラさんに頼もうと思ったけれど何か朝から感傷に浸って清々しい顔で目標がどうのとか人生がどうのとか言っちゃってるし、どうしたものか…
いろいろマナーちゃんを宥める方法考えてみたけど、私にはこれしか思い付かなかった。
「マナーちゃん。一旦訓練休憩してなんか美味しいもの食べにいこうか」
「…………や!カグラと行く!」
「えぇぇ……私もつれてってよ……」
マナーちゃんと仲良くなるにはまだまだ時間がいりそうです。
◇
事態は水面下で動き始める。
大きな闇がアルティカーナに進行を始めた。
巨大な剣を持った魔物は叫んだ。
「これから!アルティカーナに向かって進撃を開始する!やり残したことはないか!」
魔物は聞いた。巨大な魔物の大軍の応答が空気を震撼させる。
「それでは行くぞ!今こそ人間達に復讐をするときだ!」
この
しかし、そのなかに何一つとして、魔物の束ねる国は存在しなかった。
その昔、世界を支配していた大国、ベルシードは魔物の国であった。
高い知能に、凄まじい身体能力。一部は特殊な力まで持ち合わせていた。
そう、この世界はもともと魔物の支配していた世界だったのだ。
人間達はその強力な力を持った魔物達に怯え、その大半は奴隷として扱われていた。
人間待遇ではない重労働のせいでその数は日に日に減っていった。
しかし人間は諦めなかった。
いつ死ぬかもわからない極限の世界の中で、人間達はある強力な大魔法を発明した。
その魔法は、形成を逆転するのには十分な力があった。
そして、人間達はその大魔法を使用し、魔物達を駆逐していった。
そうして、世界は人間達が支配する世界となった。
◇
シェイミーが宿と言い張る要塞に泊まって、一日目の朝がたっていた。
昨日と同じ、少し狭いコンクリートの部屋で俺は考え事をしている。
_______いやいやいや、何転生して四日目にして自分に見切りつけてんだよ。諦めんの早いだろ。
「このままじゃずっと幼女の紐じゃねぇか」
「?カグラ、どうしたの」
やべぇよ。幼女マナーに心配されちまってるよ。異世界転生で幼女を守るのは最強の勇者様しかいねぇだろうが。
くそ、何だかんだ言って俺の読んだネット小説ではみんな強かったぞこん畜生。
何で俺だけこんな弱いんだよ!
大体なんだこれは。まずこの世界に来た時点でおかしいんだよ。
神様もなんも出て来ねぇじゃねぇか。神様の失敗で転生した訳じゃねぇのかよ。
つかだったら俺は神様の失敗とか関係なしに運命で軽トラに轢き殺されたのかよ。
かわいそすぎるだろ。店出た瞬間ドーンとかかわいそすぎるだろ。
死んで転生だったら赤ちゃんからだろ。そうじゃなかったらパソコンに吸い込まれたりするだろ!
しかし、俺は今こうして生きている。それは紛れもない事実だ。
「ああああああ!!!ここはどこだ!この世界はなんだ!俺は一体どこにいったんだ!」
「カカカカグラ!?どうしたの!?」
「カグラさんがおかしくなった……?いや、元からちょっと……」
「うおおおおお!何で俺はスライムより弱いんだあぁぁぁぁあ!!!うおおおおお!」
「カグラアァァァァァア!!!」
「グハァ!?マ、マナー……俺は、一体……」
「うえぇぇぇぇぇぇぇ……」
マナーの涙混じりの叫び声(物理)に俺は正気を取り戻した。マナーはいつも無表情だった顔を悲しみに染めている。
いかん、冷静になれ、俺。めっちゃ腹痛い肋骨折れたかも。
……そうだ。冷静に考えればわかるはずだ。いいか、俺は軽トラに轢き殺された。
でも俺はその時何か買ったものがあるだろう。そうだ。《自由な世界》をプレイするための専用ソフトだ。
俺は転生した時、《自由な世界》にはいってしまった。って自分で考察してただろう。
きっとこの世界が《自由な世界》なのは間違いないだろう。メニューのシステムも存在する町や国も《自由な世界》にそっくりだ。
だが、一つだけ《自由な世界》とは違った所があった。
マナーのいた町だ。
あんな町、俺はゲームの中で見たことはない。
主人公が迷いこんだ世界で元の世界に戻りためにはどうすればいい?
そう、その世界の謎を解くことだ。もしくは、元凶を倒したり最初っから異世界から現世に帰る為にすることが指定されていたりするかもしれない。
恐らく俺は前者なのだろう。
この世界の謎……そもそも《自由な世界》が俺にとってただのゲームだったときから謎なのだ。
大きすぎる大陸。多すぎる武器やクエスト。
そんな世界の謎を解き明かすには……痛い、痛い、頭突き食らった所に頭を押し付けないで。
「びえぇぇぇぇぇぇえ…かぐらぁ…かぐらぁ…」
「マナー…」
マナーの泣き声で思考が止まった。
いつだってマナーが最優先だ。抱きついてくれるのはすっげぇ嬉しいけどいつも身長的に頭突きする形になるからマナーが泣いてるんだったら先ずはマナーを泣き止ませないと俺の身が持たん。
「カグラさん…何があったか知らないですけど、マナーちゃんを泣かしてしまうのは止めてください。まぁ、私が言うのも何ですけどね」
「す、すいませんシェイミーさん···」
シェイミーの威圧が俺の体力を減らす。最強の人間の子供は威圧で体力を減らすのか…
あぁダブルアタックはやばい。俺の体力が減る速度が約二倍に!
__もう残り9しか残ってねぇじゃねぇか!やべぇ!死ぬ!
「マナー、悪い…いきなり怒鳴ったりして………だからもうちょっと優しくな?」
「かぐらぁ……」
少し落ち着いてきたのか、抱き締める力が弱くなり余裕が出来た俺はマナーの頭を優しく撫でた。
風呂に入って綺麗になった金色の髪の毛は鮮やかに光を反射して美しく輝く。
ちなみにマナーは夜9時に寝た。夜になると眠たくなるとかマナー大好き。
「ごめんマナー。ごめんな」
「うぅ···ぐすっ」
俺を抱き締める力が強くなる。また死ぬほど痛くなってきたが、ぐっと堪えて抱き締め返した。
小さいマナーは抱き締めやすい。
と、こんなことをしているとシェイミーが変な表情で俺たちを見てきた。
「はぁ、本当に二人は会って四日しかたってないんでしょうか…」
「「たってない」」
「……そうですか」
シェイミーはまた何か変な表情になって俺たちを見てきた。
何かおかしいこと言っただろうか。ふむ…
「じゃあマナー、これから一緒に美味しい物でも食べに行こうか」
「うん!」
「う~ん……」
何だか釈然としないシェイミーの表情を横目に見て俺はラッキーエンジェルを装備し直しながら外に出ていった。
◇
二人が訓練所から出ていった後も、シェイミーは釈然としない表情をしていた。
「う~ん…」
実際にはなんも考えていない。ただ、どこか納得できないのだろう。
出会って四日しかたっていない二人の絆に嫉妬でも称賛でもない何かがあるようだ。
「まぁ、いっか……そんなことより」
シェイミーの顔が途端に真剣な表情になる。
それにあわせるかのように大きな警報が鳴り響いた。
すると、奥の方から顔に大きな傷をおった軍人がシェイミーに向かって歩いてきた。
「シェイミー様」
「はい。わかっています。命知らずがこの要塞に攻め込みに来たようですね」
「今は総大将が不在ですがどうしましょう」
「何のために副将がいるんですか?貴方が命令すれば良いじゃないですか」
皮肉混じりにシェイミーは言う。
マナー達といるときとは全く違う軍人の顔に場の空気が引き締まる。
「わかりました。大将が到着するまで持ちこたえて見せましょう」
「そうですか。では、私も行きますか」
「は?シェイミー様もお出になるのですか?」
「大将の娘ですから。一人だけ要請の中で避難するなんて父の流儀に反します」
「で、ですが……」
「大丈夫です。私だって伊達に訓練してきてませんよ。それに、私はこの要塞の強さをよく知っています。私が出ずとも勝てるでしょう」
「しかし、敵の戦力などまだ良くわかっていません。わかっているのは敵が魔物ということくらいですし……大将がどこにいるかもまだわかっていないんですよ!」
「あれ、きいていなかったんですか?私は父の仕事でここにきたんですよ?」
「そ、それが、どうしたんですか?」
「父が来れば、必ず形成は変わります。私が父の仕事の関係でここにやって来たのなら、少なくともこの都市の中に父は居るので、要塞で戦いなんかが始まったら嫌でもきずいて応援に来てくれるでしょう」
「そうだったんですか。部下からはシェイミー様がいらっしゃったとしか聞いておりませんでした」
「私はそれよりも父がちゃんと応援に駆けつけてくれるかが心配ですよ」
「それもそうですね」
「じゃあ、私は民間人を一時避難させておきますので、必要になったら呼んでください」
男は感嘆する。流石は最強の人間の娘といったところか。おおよそまだ成人にもなっていないはずの少女の動きはすでに軍人だった。これから起こる戦いについての推測。恐らくこの少女にはずっと先の未来が見えているのだろう。
男はこれから何処までも成長していく天才にある種の恐怖を覚えながら指令室に入っていった。
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