第12話 最弱勇者と貧乏なマジシャン

「この広大な大都市!アルティカーナはその発展故に日夜新しい物が作られている!」


「つくられている!」


「当然色んな物が沢山できる!」


「できる!」


「するとどうなる!?」


「どーなる!?」


「旨いもの……美味しいものも増える!」


「ふえるー!」


「金は強くてニューゲーム!今日食った保存食みたいな味気のねぇ食いもんとは格がちがう旨ぇもん食わせてやんよ!」


「やったあぁぁぁあ!!!」


 美味しい匂いに騒がしい景色。立ち並ぶ屋台や建物に興奮が押さえきれない俺とマナーはいわゆる商店街に来ていた。


 目の前を埋め尽くす建物には食べ物は勿論、服や家具、雑貨等、実に多種多様な店があった。


 マナーのお目当ては勿論食べ物だ。はたして本当に旨いもの食べたときマナーはどんなリアクションをしてくれるのだろう。


「では早速だが何を食べたい?」


「肉!」


「よっしゃ、了解」


 しかしまぁこの辺の騒ぎようは前来たときと変わらない。また体力減って発狂しないか心配だ。


「了解?どーゆーいみ?」


 お、どういう意味を付け加えることを覚えたか。


「わかりましたって意味だ。さぁ行くぞ」


「うん!」


 そう言って俺達は美味しい肉料理を探して歩き出した。




 ◇




 しばらく歩いていると、人が集まっているところを見つけた。


 何やら大きな歓声が上がっている。


「何やってんだろ」


 俺は中で何が起こっているのか確かめるため、人混みを掻き分け…掻き分け…中に…


「くっ!ただの町人のくせして俺に30ダメージを食らわすとは……」


 入れなかった。


 カグラは解析レンズを起動して集まっている町人達を見回した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 町人



 level:3



 HP:320


 MP:54



 攻撃力:16


 筋力:23


 防御力:19


 魔力:12


 魔防:13


 素早さ:15


 技:11


 幸運:26



 武器:なし


 防具:布の服



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うぐぐ……シット!」


 全ステータスで3レベの町人に敗北した。まぁ俺もニートだったし?別に良いし?


 それからも色んな人に解析レンズを使ってみたが結果は変わらず。


 終にはちっさな男の子にまで負けてしまった。


 何一つ例外なく負けてしまった。


「ぐぬぬぬぬぬ……ベリーシット!!」


 マナーはレベルと装備がステータスを後押ししてるので負けていても仕方ないと半ば開き直って言えるが、いかんせん同性のガキんちょに負けるのは腹が立つ。


「くそっ……自分より才能のあるガキは嫌いだ!」


 最低の捨て台詞を吐く。


 憤怒の表情で男の子を睨み付けてると横からの視線に気づいた。


「え……カグラ……」


「……ハッ!?」



 そう言えば以前マナーは俺より才能があると口走っていたのを思い出す。


「カグラ…マナーのこと嫌いなの?」


 マナーの目に涙が溜まっていく。


 お、おまっ!お前感受性高過ぎだろ……


「ふぇ…うえぇぇぇぇぇぇぇえ」


 マナーの鳴き声が町人達の視線を集め、ざわざわと騒ぎ始めた。


 あーやっちまった…こうなると数時間は泣き続ける。


 慰めてやれば比較的すぐ泣き止んでくれるのだが、自分が泣かせた場合はそうはいかない。


 何とか泣き止んでもらおうと懸命にも話しかける。


「マ、マナー違うんださっきのは…」


「うえぇぇぇぇえん!」


 おぉ…ダメだ…声が届かない…


 取り敢えず俺はメニューからハンカチを取り出してマナーに謝り続けた。


 しかしマナーは泣き止まない。


 どうにかして泣き止ますことが出来ないかと頭を捻っていると、奥の方から誰かがマナーに声をかけた。


「ねぇねぇ、君さ、名前何て言うのかな?」


 声を掛けてきたのは女性だった。綺麗な青色の髪に大きなシルクハットと黒いマントを着ていて、目の下には月のマークとスペードのマークをつけている。髪型はショートに見えるが後ろで小さく纏めているようだ。


「……ぅえ?…マナー」


「そっか、マナーちゃんって言うのか。よし、僕の名前はリッカ。リッカ・アラマチルダ。貧乏な__」


 リッカと名乗った女性はシルクハットを取ってこう言って…



「__マジシャンさ!」



 シルクハットの中から何羽もの白い鳥をとばしみせた。



「……わあぁ!すごーい!!!」



 何秒かたってマナーが反応する。


 滅多に動かない表情は明るい笑みに染まり、その光景を眺めた。


 周りの町人からの歓声も一斉に上がっていく。


「…すげぇ」


 俺まで思わず魅入ってしまう。


 テレビ等ではよくみる光景だが、間近で見るのはこれが初めてだ。


 白い鳥は空に向かって飛び立っていく。


 するとリッカはカウントを始め、


「3ー2ー1ー……」


 0で指を鳴らした。


「うおっ!?」


 パチンという音と共に白い鳥は一斉に色とりどりの光を出して爆発した。


 端から順々に光を出していく。


 その光景はまるで花火を見ているようだった。


「うわあぁぁぁぁ!?鳥があぁぁぁぁあ!」


 しかし内心爆発何ぞに目を向けている暇など無かった。


 だって鳥が大爆発したんだぞ。穏やかでいられるか。


「と、とり……死んだ?」


 笑顔だったマナーの顔が蒼白に染まっていく。


 しかし、リッカの顔はずっと笑顔だった。


「まぁー驚くのも無理ないよね!鳥さん皆爆発しちゃったもんね!」


 リッカは笑顔で言う。


 やべぇめっちゃ良いやつかと思ってたら狂ってた。


 女の子がが鳥を嬉々として殺してる瞬間を目の当たりにしてしまった。


 逃げねば命が危ない!


 マナーを掴んで勢いよく走り出そうとするとリッカは俺の手を掴んで行かせまいとしてきた。


「あぁああ!!逃げなくて大丈夫さ!ちゃんと生きてるよ!」


「う、うるせぇ!引っ張っただけで俺の体力が残り3しかなくなるようなやつの言うことが信じられるか!」


「いやいやいや何いってるかわからないよ!あぁもう逃げるなって!せめてこの帽子の中に金を入れてけ!」


「誰が貴様なんぞに金をやるか!鳥さん殺しやがって!マナーが放心状態じゃねぇか!」


「……」


「あぁぁ!マナーの顔が初めて会った時見たいな顔に!!」


「よ、よくわからないけどどうしよう!?」


「あああああれだ!鳥が生きていることを証明しろ!」


「あ!そうだ!その手があったか!」


 するとリッカは唇に指を添え、何かを唱えるようにしてマントを翻す。


 そして満面の笑みで可愛らしく叫んだ。


「さぁさぁ出てこい!蘇れー!!」


 蘇れ?


 するとマントの中から何羽もの白い鳥が飛び出した。


「うわぁぁぁぁぁあ!」


 するとマナーがいきなり口を開けて驚いた。


「かかかかかぐらっ!とり!鳥が出てきた!!」


「そうだな!鳥さん生きてたな!」


「うん!」


 今度はマナーが満面の笑みで笑い返した。


「やっぱり泣いてるマナーより笑ってるマナーのほうが可愛いぞ!だからあんまり泣いてくれるな」


「えへへ…」


「よしよしよし!」


「…い、痛いよカグラ」


「…………チッ」


「なんださっきの舌打ちは。貧乏なマジシャンさん」


「うるさいなぁ……貧乏なのは余計だよ」


「自分で言ってて何を言うか」


「もう!そんなことどうでも良いからこの帽子にお金入れてよ!」


「あ、厚かましい……」


 俺がそう言うとリッカは顔を真っ赤にしながら俺の背中をバンバン叩いてきた。


「わぁぁぁあ!もう!どうしろって言うんだよ!君がお金をくれないと僕は今日野宿することになるんだよ!君はこんな華奢な女の子がこれから今日寝る公園を探すって言うのにそれを野放しにするって言うのかい!?」


「あぁーさっきの平手打ちでラッキーエンジェルぶっ壊れたーこれじゃあ華奢とは言えないなぁー」


「はぁぁあ!?言ってる意味がわからないって!何度も言ってるでしょ!」


「そんなこと言われてもねぇ説明すんのめんどくせぇし。つか金だったら周りの客からとれば良いだろ」


「……周り見てみなよ」


「あ……」


「そうだよ!君達のバカ騒ぎのせいで皆逃げちゃったよ!どうしてくれるんだい?」


「あぁ…これはまた…」


「唯でさえ貰えるお金も少ないって言うのに……」


 するとリッカはとたんに黙ってしまった。


「…………はぁ…もう良いよ……今日も野宿か……」


 ……ちょっと悪いことしたな。


 マナーがムッとした表情で俺を見ている。


「…カグラ酷い」


「…はぁ」


 俺はポケットの中からそれなりに価値のある宝石を差し出した。


 リッカはなにかに気づいたのか呆然とした表情で俺を見た。


「……え?」


「ほら、あ、あれだ…悪かったよ、客逃がしちまって…これ、慰謝料と特等席のステージ代だ」


「特…等席?」


「一番前でマジック見せてくれただろ?めちゃくちゃ凄かったぜ」


「あ…」


「良いもん見せてもらった。あざーす」


「…どういたしまして。でもこれ…良いの?凄く高そう…」


「良いんだよ。たくっ、アイテムのレア度とステータスが比例してねえっつうの…」


 その瞬間リッカは勢いよく立ち上がった。


「……ぃやぁったあぁぁぁぁああ!これで念願の宿泊まりだあぁぁああ!!!何週間ぶりだあぁぁぁああ!」


「うおっ」


「ありがと!ありがとう!!君のお陰だよ!もう感謝してもしきれないよ!わはー!」


「わはーって…ハハッ、喜びすぎだろ」


 奇声を上げてリッカが歓喜する。

 なんか喜び過ぎてて何か此方も嬉しくなってきた。


 おお…こいつ…よく見なくても可愛いな…


「そうだ!何か困っていることはないかい?僕にできることなら何でも力になってあげるよ!」


「え、まじ?」


「まじまじ」


「そうか…なら何か旨いものが食える店はないか?できれば肉のある」


「肉、ねぇ…あぁ!良い所があるよ!」


 へぇと言おうとしたところ、ずっと白い鳥と戯れてたマナーが反応した。


「本当!?」


「あぁ!僕が数年かけて飼い慣らした鳥たちがたったの数分で芸までするように!?」


 あ、ホントだ。マナーの周りでくるくる回ってる。


 そんな茶番を見ているとマナーが不機嫌な顔でリッカを見ていた。


「…聞いてる?」


「…え?あ、ごめんごめん半年のショックで何も聞いてなかったよ」


「半年のショックって…」


「まぁ良いのさ!そんなことより付いてきなよ。これから案内するよ?」


「どこに?」


「僕のオススメの料理店さ!」


「わーい!」


 そんな感じで俺達はリッカについていくことになった。




 ◇




 リッカがマジックを披露していた所から徒歩で10分ほど歩いた所に、それはあった。


「ここが僕の行きつけのお店、肉料理の《桜花》だよ!」


「何かカッコいい名前だな」


 リッカの行きつけのお店、肉料理の《桜花》はアルティカーナの端の方にたてられていた。


 えらい薄暗い場所にたてられてるもんだから、当然客も少ないんだろうなと思ったら普通に誰も居なかった。


「あ、今誰も人いないじゃんって思ったでしょ」


「誰もいないじゃん」


「ま、ほとんどここは僕だけの秘密の隠れ家みたいなもんだからねー。店主がいいやつでさぁ、いつものように野宿セットをもって公園に洒落込もうかと泣きながら思ってたところ何日か泊まらせてくれたんだよねー」


「へぇそれはそれは」


 するとリッカは俺が相槌をうっている間に店の中に入っていってしまった。


「店主さーん!!」


「おぉ!リッカちゃんじゃねぇの!久しぶりだなぁ!」


「いやぁあのときはお世話になりましたぁ」


 リッカはお礼を言っている。


 リッカにつられて俺達も入ってみることにした。


「おじゃましまー……あ!?」


「おうらっしゃい」


「あんた……あん時俺に入街許可証くれたホームレスじゃねぇか!」


「ホームレスじゃねぇよ!見た目だけで決めんなアホ!」


 赤い髪にオレンジのバンダナを被っている男、間違いなくアイツだ。


「何だ店主知り合いだったんだね」


「金に困り果ててたから予備の入街許可証を売ってたんだ」


「何で予備の入街許可証なんてもってんの」


「ちょっと手に入ったんでな」


「じゃあなんだ?あんたは彼処に住んでたホームレスじゃなくて物を売りにいってただけなのか」


「まぁな。ちゃんとこの店と言う家もある。赤字だがな」


「まぁこの様子だと今日も僕以外誰も来ていないみたいだね」


「言うなよなー」


 俺はそんなリッカと店主の会話を黙ってみていたがふと、マナーの方を向いてみるとマナーが何か残念な表情をしていた。


「同僚かと思ったのに」


 あぁホームレスのことね。


 て言うかマナー同僚って言葉知ってたんだ。


「ねぇ…えっと…」


「リッカだよ。覚えてね」


「肉!」


「いきなり何!」


「んじゃ俺はリッカのオススメを頼む」


「あぁ注文のことね。てか誰が呼び捨てにして良いと言った。店主!いつものー!」


「はいよ」


 いよいよもって楽しみだ。




 ◇




「うおぉぉお……」


 やって来た料理はステーキだった。


 凄く大きい肉を使っていて、とても旨そうな匂いがする。試しにナイフらしきものを使って切ってみると中から大量の肉汁が飛び出した。

 切り取った部分をフォークらしきもので突き刺して食べてみる。思った通りの濃い味と少しからい味付けに思わず溜め息を吐く。


「おぉ…旨い…めっちゃ旨いけど健康に悪そうな味…」


「何て失礼なことを」


「どうだい?旨いか?」


「ああ、すげぇ旨い。こんなの食ったの初めてだだけど健康に悪そう」


「何て失礼なことを」


「ん?どうだマナー旨いか?」


「硬い…」


「……使ったことないのか。武器はナイフなのに」


 使い慣れないナイフとフォークらしきものに苦戦するマナー。


 見かねた俺はナイフで細かく刻んでマナーに食わせてやった。


「ん、ほれ、切ったぞ」


「ありがとうカグラー」


 そして調子に乗った俺はこんなことを言った。


「ほら、あーん」


「……?」


「キモ」


「チッ」


 リッカにキモいって言われた。


「ほら、食べろ」


「……成る程」


 パクッと肉に噛みつく。


「…」


「お、どうだマナー?旨いか?」


 むしゃむしゃと食べているマナーに質問する。すると行儀よく口の中のものが無くなってから口を開けた。


「…………辛いぃぃ~」


 凄く不味い物を食べたような顔でマナーが言うので回りが静まり返った。


「……へぁ?」


「辛いカグラ~」


「は?辛い?」


「うん。味がね、何か…辛いの」

 

 するといち早く何に気づいたのか店主が口を挟んできた。


「うん?辛い物は使ってない筈だが……あぁ味が濃いって意味ね」


「……成る程、でもそんな辛いって言うほど濃くなかった気がするけど…」


 うんうんと頭を捻っているとマナーが答えを言ってくれた。


「今まで食べたのはもっと薄い味だった」


「あ、あぁ、つまりこんなにまともに味のついてるもの食ったことないからその味に舌がついていってない訳ね」




 マナーに美味しい物を食べさせたらどんなリアクションを取るか


 結果:美味しすぎて味がわからなかった。以上。




 ◇




「いやぁ食った食った」


 あのあとマナーが全部残した肉をリッカが歓喜しながら食べあげて店から出ていった。


 しかしマナーが贅沢なものが食べられないのには驚いた。味覚を戻していかないといけないな。


「はぁ…」


 リッカは肉を食うとはうってかわってとても落ち込んでいた。


 何と何らかの事情で知っている宿が何処も満員立ったのだ。


 仕方がないので俺が要塞に泊めてやるって言うと更に落ち込んだ。


 そりゃあんな軍事施設に泊まりたくないわな。



 外はもう夜ですっかり暗くなっていた。


 街の人も皆帰ってしまったのか誰も人が居なかった。


 だけど何か違和感ある。


 まるで人が消えてしまったかのような光景に若干ビビりながら要塞に向かっていると大きな音が聞こえてきた。


 数々の銃声音に、恐らく魔法を使ったのであろう凄まじい爆音と目に刺さるような光に驚いていると前の方から知っている人物が走ってきた。


「お、今何やってんだシェイミー?」


 するとシェイミーは怒った表情を見せて言った。


「そっちこそ何やってんですか!?街の人は皆避難しましたよ!貴方も冒険者なら手を貸してください!!」


「え、何が起こってるんだ!?」


 するとシェイミーは驚くべき事を言い張った。










「戦争ですよ!!!」


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