第12話「そして伝説へ──」
噂が広まるのは早い。
崩壊した王城。
その現場がザワザワと騒がしいまま、予備役の兵らはすぐに街へ言いふらしに行く。
それは同時に起こった銅像の破壊と王城の崩壊───。
そして、大賢者王の命令で街を一時封鎖していたことから、国内の……とりわけ王都に溜まっていた不満に火をつけてしまい、あっという間に国中に広まってしまった。
聖女や、拳闘王の悪事も外に漏れるに至っては、聖騎士に神殿騎士が大事にしまっていた無頼の剣豪オーウェンの耳が見つかってしまい、彼らの名声はあっと言う間に地に墜ちたという。
そして、王城で見事な剣技と銃捌きを見せた赤髪の少女の戦いっぷりから推測されたことがある。
奇しくも、近衛兵たちは14年前にオーウェンとカサンドラのことを見知っているものが多かった。
それゆえにザラディンの戦い方から容易に想像できてしまったのだろう。
つまり、彼らの働きがあってこそ、14年前に魔王を討伐できたのではないかと言う話。
噂であっても、大賢者が化け物になったところは誰もが見ているし、子供を食べる聖女の噂は近衛兵の中では有名だ。
そもそも、拳闘王はもとから評判が悪い。
だから、人々は彼らが貶めていたザラディンたち三人のことを再び思い出し、再評価した。
それは、
噂から研究へ。
詩から書籍へ。
市民の間にまことしやかに囁かれて、あっという間に真実のごとき話へと昇華された。
そして、
王都にある銅像は作り直される。
凛々しい姿の無頼の剣豪オーウェンと、美しき銃士の連撃のカサンドラ……。
さらに、最強の勇者───ザラディンの銅像が建つことになった。
それは徐々に広まり、賛成する街などの各地に建つことになった。
その銅像にはプレートが一つ。
『真の勇者たちに捧ぐ────』
しかし、なぜか時折、ザラディンの顔だけは鋭利な刃物で切り取られる事があった。
憤る街の人々。
それは、心無い人間の仕業だと言われていたが、訳知り顔の噂好きは「もしかすると、ザラディンは英雄や勇者と呼ばれたくないんじゃないか?」等と噂し合った。
ところで、
グラウスを仕留めたあと、王城で兵士に囲まれていたザラディンはどうしたのか?
諸手をあげて歓喜する兵士たち。彼らがフと気付いた時にはザラディンの姿はどこにもなかったという。
二刀も、
20丁余の銃も、
聖剣もなく────。
そこには、ボロボロのローブが残っているだけだった。
「残り0人……」
その一言だけ、
大勢いた兵士の耳に聞こえたという。
小さな呟きを最後に、真の英雄を知った国は歓声に包まれた。
大賢者王が死去したため、急遽のことではあるが引退した昔の王が担ぎ出され──かつての国のごとく治めるとともに、
彼の王の提案で各地から代表を募り、議員による政治───共和制に移行することになった。
後日。
美しい剣を腰に佩き、背に二刀を担い、体中に拳銃を身に着けた、赤い髪で三白眼。スッキリとした鼻立ちの美しい少女が各地で目撃される。
彼女は、オーウェンやカサンドラの一族の生き残りを丹念に探し回り、そこで何かを話し、去っていったという。
不名誉な扱いを受けていた彼ら一族も徐々に元の生活に戻って行き、王国は新しい歴史を刻み始めた。
そして、
辺境の地、戦乱の地で、虐げられた人々がいるところには赤い髪の少女が現れて不義理を滅していくという戦場伝説のようなものがたったのは後年の話────……。
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