第11話「汚名返上!」


 ……──これで全員。


 ズウゥゥゥン! 


 凄まじい落下音のあと、砂煙をあげてグラウスの巨体が崩れた城の中ほどに、半分ぐらい埋もれていた。


 もうもうと立ち込める瓦礫由来の埃の中───。


 周囲には負傷者のうめきと、慌てて参集した近衛兵が集まっている。

 剣だけでなく、槍を持った兵もいることから、おそらく外からも応援が到着しているのだろう。


 少々安物くさい鎧が目立つものは、普段はただの市民をやっている予備役の兵らしい。


 彼らは王都封鎖から王城守備にシフトが変わって以来この近辺に詰めていた。

 そこに起こったのがこの騒ぎ。

 物凄い轟音と、その後に起こった激しい空中戦を否応なしに見ていた。


 そして、今に至るのだが──────。


 彼らの目前には、

 二手に銃を構えた赤い髪の少女が佇んでいた。


 その真下には異形の巨魁がいる。

 そう。件の化け物────魔王だ。


「ば、化け物が……死んだ?」

「ま、魔王……を滅ぼした──」

「だ、大賢者王でもなく……。た、ただの少女が!?」



「「赤い髪の暗殺者────」」



 ザワザワと周囲が騒がしくなってきた頃。

 ザラディンは天を仰ぎ、額に浮いた汗を拭った。


 ふー…………。


 そこにガチャガチャガチャと降ってくる多数の拳銃。


「お、女の銃使い……」

「連撃……?! あれじゃぁ、まるで『卑怯者』のカサン──」



 グォォオオオオオオオ!!!



 しかし、ここで一転。

 死に絶えたと思ったグラウスが起き上がる。


 見ればシュウシュウと白煙を立てて、傷が治り始めているせじゃないか。


 口には、瓦礫で押しつぶされたらしい近衛兵。そのはらわたがぶら下がっていた。

 ベリアスと同じ、人の肉を喰らっての強制回復らしい────……。


「ひぃぃぃぃぃ!」

「い、生き返ったぁぁぁ!!」

「魔王だ! 魔王が復活したんだ!!」




『ぐああああああああああ!!!!! ザラディぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃン!』




 ブチブチブチと肉を喰らう度に、折れた羽がピンと張っていく。


 さらには、

 シュウシュウと噴き出す煙のあとに、目が────。


「…………しつこい奴だな。女に嫌われるぜ。ちなみに、」


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……────。


 キラリと聖剣が陽光に煌き、まるで狙ったかのようにザラディンの手に降ってくる。

 それを見もしないでパシリと受け取ると、


「──も、嫌いだよ」


 ズバン! と一閃……。


 ビクリと震えたグラウスの体。

 直後、頭部がズズズと滑り動き……。



 ドズゥゥゥン!



「今度こそ死んだかな?」


 事態についていけない近衛兵に、予備役の兵達。


 それらを完璧に無視して、ザラディンはヒョイっとグラウスの首を持ち上げる。




 剣を携え、魔王の首を持つその姿。




 その姿──────。


 兵士たちも、街の人々も、誰もが目にしたことのある有名な銅像……。


 『裏切り者にら死を────』……そう語りかけるあの像に。



 そう、あの像・・・に───。



 皮肉にも、王の功績を称えるそれ・・に、あまりにも酷似していた。



「え……英雄──」

「英雄だ────」

「魔王を討伐した英雄だ!」

「勇者、……ゆうしゃ!」


 そして、彼らは聞いていた。

 魔王こと、あのグラウスがいまわの際に叫んだ名前を───。



「「「勇者ザラディン!!!!」」」



 そこで初めて気づいたとでも言うように、ザラディンが兵士たちに向き直る。


 その美しい少女の姿で、ニコリと微笑む。

 赤い髪で三白眼。

 スッキリとした鼻立ちの美少女──。


「はは、久しぶりにその呼ばれ方をしたね」


「ザラディン!」

「ザラディン!」

「ザラディン!!」


「ザラディン、ザラディン!」

 

 ザラディン! ザラディン! ザラディン! ザラディン!


 そこで、ついに事切れたらしいグラウスがシュウウぅぅ───と煙に包まれ、元の大きさになる。


 首は魔王から大賢者の顔に────。


 そして、


「み、見ろ!」

「あ、あれは陛下……?」

「だ、大賢者王が魔王だって?!」


「「「「魔王を勇者が討った!!!」」」」


 うおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 兵士たちの間でどよめきが広がっていく。


「あらまぁ? お前、魔王になっちゃったよ?」


 肩をすくめながら、


「いや、……なりたかったんだっけ?」


 ポイッと、生首を放り投げると聖剣を地面に突き立て、散らばった銃を回収していく。


「おい、見ろよ!」

「銃だ! 銃使いだ! 女の銃使いだ!!」

「見たぞ! あれは……あの銃捌きはカサンドラだ!」


 昔と言っても14年前。


 まだ、人々の記憶が風化するにはチト足りない。


 当然、有名に過ぎるカサンドラの姿や戦う姿を見たことがあるものも多い。

 王城勤めの近衛兵なら、なおさらだ。


「カサンドラ、カサンドラ!」

「連撃のカサンドラ!!」

「勇者カサンドラ!!」


「勇者、ゆうしゃ!」


 勇者カサンドラ!

 連撃のカサンドラ!!!


 そして当然ながら、

 

「俺は見たぞ! 空での戦いで彼女は、あの名刀で魔王と斬り合っていた!」

「ああ見た! 俺も稽古を受けたことがある!」

「あぁ!! あれは、あれは────無頼剣豪流!!」


「そうだ! 無頼の剣豪オーウェンだ!」


 オーウェン、オーウェン、オーウェン!!


「「「勇者オーウェンだ!!」」」


 勇者、勇者、勇者、勇者、勇者!

 ゆうしゃ、ゆうしゃ、ゆうしゃ!


 勇者カサンドラ! 勇者オーウェン!

 勇者オーウェン! 勇者カサンドラ!



 うおおおおおおおおおおおおおお!!!


 …………。



 ああ……聞いているか?


 カサンドラ……。

 オーウェン……。


 あぁ……見ているか?


 連撃。

 無頼の剣豪。


 ああ……感じているか?


 僕の親友……。

 僕の師匠……。


「勇者だ! 勇者が魔王を倒すため生まれ変わった!!」

「赤い髪の勇者!」


「勇者ザラディンとカサンドラ、そしてオーウェンは魔王を討ったんだ!!」



 うおおおおおおおおおおおおおお!!!!



 諸手をあげて歓迎する兵士。


 歓喜、

 歓呼、

 歓声、


 その声に、一筋の涙を流すザラディン。

 それにどんな意味があるのか……。


「こいつ! 魔王のクセに今まで俺たちを騙していやがった!」

「どうりで……! この野郎! 何が『卑怯者』の3人だ!!」

「一番卑怯なのは、てめぇじゃねーか!」

「5人の『英雄』? はッ! うそくせえ」


「俺は知ってるぞ! 聖女と言われるアイツは人食いだ!」

「俺も知ってるぞ! 拳闘王と言われるアイツは女殺しだ!」


「俺も」「俺も」「俺も!!」


 次々に並べられる罵詈雑言。

 グラウスの首は蹴り転がされ、唾を吐かれ、槍に突き刺され───。






 ────王都に晒された。

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