第8話「魔王降臨」

 ────笑わせるな。

 お前ら臆病者は『魔王』を見てすらいないだろう?

 そりゃ……似ても似つかない、まがい物だよ……。


『やかましい! これが魔王だ! 俺が魔王だ! 非力な貴様など足元にも及ばんわ!』


 異形の姿に変貌したグラウスを見ても、ザラディンは変わらない。

 まったく動じず、彼女はヒュパンと刀を一振り───血振りしてみせると、十字に構えた。


 ───さぁ、かかってきな……と。


『生意気な小娘が! お前なんぞ、何人束になってもこの俺の相手ではないわッ』


 ブンッ!


 ハルバートを構えた、その腕の一振りだけで突風が巻き起こり、ザラディンの髪がサラサラとそよぐ。


「あはは、たしかに、力は強そうだ……。僕は見ての通り小さな女の子でね」

『そうだ! さっき、切り結んでわかったわ!───貴様はかつての最盛期に比べ、何倍も劣っている!』

「そうさ……。僕は力には自信がないんだ。───ま、お前ごときには負けないけどね」


『ほざけぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 床を踏み砕かんばかりの勢いで突進するグラウス。

 流れるような動作で振りあげられた二本の得物がザラディンを捉えんとする。


「あはは」


 ブォォォン! と風を切り、物凄い速度で聖剣とハルバードが迫りくる!


 これは、

 二本同時の勇者剣技『稲光』だッ?!


 だけど。


「───蠅が止まるよ」

 無頼剣豪流───。真、勇者剣技『二つ川流し』ッッ!



 キ、カィィィン!



 聖剣とハルバードの同時着弾を、同時に受け流しての───カウンター!


 ズバン、ズバン!


 と、二刀がグラウスの体に食い込む。

 

 が───。


「ち! 堅いな!」


 なにか障壁の様なものが発生し、僅かばかり肉に届かない。

 これでは致命傷には程遠いだろう。


『グハハハハハハハハハハ! 魔王は障壁を使ったというじゃないか? これがそうだろう!』


 グラウスは瓦礫を自らの頭に投げつけて見せると、当たるその直前にバシィン! と透明な膜が張ってソレを弾いてみせた。


「なるほど、ちょっと似てきたかもね」

『黙れ! これが魔王よ! そして俺が魔王だ! 見ろ! この力、この魔力───そして、この体を!!』


「ははは、そう言えば毒を盛られる前にそんな話をしたっけ」


 懐かしいね、とザラディンは目を細めた。


『そうとも、俺は大賢者だ! 魔王を再現して見せた』


 なるほど……。

 ザラディンは目を凝らして観察する。


 確かによくよく見れば、うっすらとだが透明な膜の様なものがグラウスの全体を覆っていた。


「うん。ちょっと堅そうだね」

『はははははは! 俺の勝ちだ──そして、いつまでも余裕でいられるかな』


 パチンとグラウスが指を弾いて見せると、最上階を覆っていた魔法の結界が消える気配がした。


「おや、お友達を呼ぶのかい?」

『もう貴様との戦いに拘る必要はない。その体、もらい受けるぞ』


 にわかに階下が騒がしくなる。

 多数の兵士の気配がここまで伝わってきた。


 そして、


「何の騒ぎだ!」

「陛下は無事か!」

「急げぇぇぇ!」


 ダダダダダ! と重々しい足音と共に最上階に踏み込んでくる近衛兵たち。

 そんな彼らの目には、変わり果てた最上階の姿と……ザラディンが。


 そして───、


「い、いたぞ! 赤い髪の暗殺者だ!」

「へ、陛下は無事か!?」

「ここで何があった!?」


 しかし…………。


「お、おい見ろ! 何だあの化け物は!」

「ひぃぃぃ! ば、化け物……?! ま、魔王だ!」


「「「「ま、魔王だぁぁぁぁ!!」」」」


 恐怖に慄く兵士たち。


 一部ではすでに戦意喪失している。

 ───いるのだが……さすがは最強兵団。


 中には当然ながら勇敢なものも多数いる。


「ひ、怯むな!」

「陛下のお膝元に魔王だと!?」


「そ、総員抜刀! 討ち取れぇぇぇえ!」


「「「おう!!」」」


 やにわに士気を回復した彼らは、一斉に抜刀し、

 ジャキジャキジャキジャキンッ! と白刃の剣山が生まれる。


 そして、指揮官が怒号を上げた。


「突撃ぃぃぃぃぃ!」

「「「「「うおぉぉぉぉおお!!」」」」」


 ガキンガキンガキン! と多数の剣がグラウスを狙う。


『ば、ばかな?! よ、よせ!……愚か者がぁぁ! 俺は大賢者王だ!』


 恐ろし気な唸り声をあげる巨魁に兵士は畏怖するが、それでも勇敢な近衛兵たち。


 負けじと、障壁を貫かんと斬り込む。


「化け物めぇ!!」

「くそ! なんて硬さだ。この障壁──伝承通りだぞ!」




「怯むな! 斬れ斬れ斬れ斬れぇぇぇぇ!」


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