第9話「空中バトル」


 ──怯むな! 斬れ斬れ斬れ斬れぇぇぇ!



 うおおおおおおおおおおおお!!!



 もの凄い勢いで突っ込んでいく近衛兵達。

 煌めく白刃が一斉にグラウスに向かっていく。


「討ち取れぇぇええ!!」


 一歩も引かない近衛兵たちだが、


『ぐぬぅう! 愚か者がぁぁぁ!!!』


 ブォン! と恐ろしい勢いで叩きつけられる2本の武器。

 聖剣の横薙ぎと、ハルバードの上段からの強打が兵士を襲う!


「は、はやい!」

「ひぃぃぃ!!」



「た、待避────!」



 指揮官の号令も虚しく、無慈悲な一撃が彼らを刈り取る。


 ──ドガァァァァン!


 王城を揺るがす大音響のあと、その下敷きになった兵らは多数の赤い染みと化して息絶える。


「な、なんて強さだ……」


 生き残りたちは、ただただ怯え。

 その異形に畏怖していた。


 そして、


 メキメキメキッ───!


「お、おい! と、塔が……。塔が崩れるぞ!」


 グラウスの全力。

 その床を打った衝撃が、ついに最上階を崩壊させた。


 ガラガラと音を立てて崩れていく最上階の床とその階下の構造物。


「ぎゃぁああ───ぶしゅ」

「ひけ、退けぇぇ!」


「そ、総員!」

 ───た、退避ぃぃぃぃ!!


 ジタバタと無様に逃げ惑う近衛兵たち。


「魔王だ! 魔王が出たぞ!」

「全軍に伝達ッ! 対魔王戦──用ぉぉお意!」


 崩れていく塔の中、ザラディンは瓦礫の上を器用にピョンピョンと飛び跳ねグラウスと向き合っていた。


『愚か者どもめ!……あとで粛清してくれるわ!』

「おいおい、鏡見てみなよ? 兵が味方するとでも思ってたのかい?……斬られて当然さー。そりゃそうなるって」


 ニコニコと笑うザラディン。

 その様子に腸が煮えくりかえるとばかり、グラウスは顔を凶悪に歪めた。


『ぐぐぐ、黙れ小娘がぁぁぁあ!──おのれぇぇえ、使えん兵どもめ!!』


「はははは、お前バカだったんだな」


 その声にグラウスは目を剥いて咆哮する。


『誰がバカだ! 舐めるな、ザラディン! 俺を誰だと思ってる! 俺は賢者だ。大賢者だ! 世界一の知性を持つ男だ!』

「あははは。とてもそんな風に見えないよ」


 飛びながらも二人は切り結ぶ。


 崩れ行く王城を背景に、煌めく剣の軌跡。


 激突し、飛び散る火花───。

 陽光を受けて輝く至高の武器たち。


 操るのは異形の大賢者と、赤い髪の美しい少女。


「どうしたんだい? さっきとあまり変わらないじゃないか」

『抜かせッ! あとで、しゃぶり尽くしてくれるわ!』


 ザラディンは猫のように、しなやかに瓦礫に中を舞い、地上に向かって墜ちながらもグラウスと剣を交える。


 いや、グラウスは既に背中の羽をはばたかせて空を舞っていた。


 その様や、なんたる───。


「おやおや。本当に化け物みたいだぞ? グラウス」

『黙れ、俺は勇者だ! そして、神だッ! 神になるんだ! その礎にザラディン──お前の体ぁぁああ、俺に寄越せぇぇえ!』


「あっはっは! 僕が欲しいのかい? 女の子を口説くにしては、ちょっと下品だぞ」


『ギギギギギ! いつまでも余裕ぶっていられるかな? 貴様の攻撃など、全く届いておらんわ!』


 ガキィィィイン! 


 確かに、ザラディンの刃はグラウスを狙うが、あの障壁に阻まれて通じない。

 それどころか、時折危うい一撃を貰いそうになっている。


 空中では、ザラディンが操るオーウェンが使っていた二刀と、グラウスが持つ聖剣とハルバードの激しい撃ち合いとなっていた。


 しかし、明らかにパワー負けしているのか、受け止めたザラディンの腕が引きちぎれそうだ。


「ぐッ!」

『ははははは! どうした、どうしたぁ! その細腕でいつまで耐えられるかな!』

 かなぁぁ!!


 嵩にかかって攻めたてるグラウス。

 それを必死の防戦のザラディン!


『ぐははぁ! どうしたぁぁ!?──ええ、おい? 魔王を討伐したんだろ?……やって見せろよ、ザラディぃぃぃン』


 ズガァァアン! と強烈な一撃。

 なんとか防ぎぎったものの、ザラディンは瓦礫に叩きつけられた。


「げほ……」

『おやまぁ、どうしたぁ? これは、本当に魔王を討伐したのか怪しくなってきたなぁ』


 ニタァ……と笑うグラウスに、


「ペッ───。そうさ……僕一人じゃ絶対に無理だった」

『ほざけ! オーウェンの名刀も俺に届いてないぞ!──ましてやカサンドラの銃などが魔王の障壁を貫けるわけねぇだろ!』


 いまだにグラウスの周りには障壁があり、全ての攻撃を防いでいる。








「いーや。貫いたよ。……あの二人は本当にすごかったんだ」








『黙れ! 女の銃士如きが魔王にかなうわけねぇんだよ!』

「ははは。お前はカサンドラの何を見ていたんだ?───彼女の何を知っている?」


 クルンと身を翻し、一際大きな瓦礫に着地するザラディン。


 そこでスクっと立ち上がった彼女は、シャキンと二刀を納めた。


『はっ、諦めたか。いいぞ、いいぞぉぉぉおお、今は殺さないでおいてやる───あとで散々嬲ってやるがなッ!』


 ザラディンを抱きすくめるように飛び掛かったグラウス。

 それをひらりと躱すと、ザラディンは彼を踏み台にしてさらに飛ぶ。


『俺を踏み台にぃ?!』


 ふふふ──……。


 そして、最上階崩壊とともに、ばら蒔かれて空中を舞っているカサンドラの20丁余の拳銃を見ると───。


 スチャキ!!


 それを順繰りに掴みとると、凄まじい速度で再装填していく。


『な?! ば、ばかな! せ、せせ、戦闘中にぃぃぃぃ!』


 さらに、胸に隠していた紙薬莢を左手で取り出すと、バリリと先端を噛み破る。

 サラッと軽く火皿に火薬を入れて閉塞、口に加えた槊杖かるかで残りの火薬と銃弾を押し込む。


「はのひょはもっほはやはっはへどね(彼女はもっと早かったけどね)」


 それをスチャキ! と、ホルスターへ──まずは一丁。


『ぐぬぅ! 弾切れの銃士なんぞ、ただの肉袋だぁぁ!』


 ザラディンを妨害するように剣を振るグラウスだが、

「はえはほまふよ(蠅が止まるよ)」


 ひらりと躱し、躱しざまにも再装填。


 スチャキ、2丁め。

 スチャキ、3丁め、スチャキ、スチャキ、スチャキ、スチャチャチャチャチャ───!


『ば!? な、舐めるなぁぁぁぁぁ!!』

「終わったよ」


 プッと槊杖かるかを吐き捨てると、二手に銃を構えて見せた。


『そんなもんが効くかぁぁぁぁぁああ!!』




「いーや。効くんだよ。これが…………」




 ニヤリ。


 その笑みを受けたグラウスは、

『やってみろぉぉぉぉぉぉおお!!!』


 ───もちろんさ。

 カ、キン……。






 バァァンッ!




 

 ッ…………!



 バリィィン────!!!!




 ぐ、


『ぐふ…………。ば、バカな?!』


「───効いただろ? 早めの銃弾」


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