愚者と賢者
第1話「王都戒厳令」
ザワザワ……。
ざわざわ……。
どこまでも途切れない人並み。
しかし、それはタダの喧噪というには、少し様相が違うようだ
「な、なんだよ!? どうして入れないんだ?」
門前に響き渡る抗議の声。
それは男一人の物ではなく、そこかしこで同じようなやり取りが繰り返されているものらしい。
そう。
王都の門前には長蛇の列ができていた。
ここは、堀と高い城壁に囲まれた王都は城塞都市。
門を潜らねば何者も通過できない構造だ。
それゆえに、商品を運び込もうとする商人や、出稼ぎから帰った労働者───それにただの観光客やらでごった返していた。
「どうしてもこうしてもない! 我らが『英雄』、そして国王を狙う不届き者が現れたんだ! そいつを逮捕するまでは王都に出入りは
「ふざけんなよッ。俺はここの住人だ! グンマ通りの13番地に住んで──あだッ! あだだだッ! な、何しやがる!!」
「うるさいッ! 帰れ帰れ!」
「だーかーらー! 家が、ここだっつってんの!」
ギャイのギャイのと門前は大騒ぎだ。
家に帰れない帰宅難民やら、生鮮食品を取り扱う商人からすれば死活問題。
遠方から来た観光客とて、納得がいかないだろう。
なんせ、王国最大の都市で国民の締め出しが行われているのだ。
不満を持つなと言うのが無理と言うもの。
時間が経つにつれ混乱はさらに続き、王都に多数ある門のうち、いくつかでは暴動が起きていた。
粗暴な冒険者や、肉体労働者が黙って言うことを聞くはずもなし!
それは門内も同様だ。
外に出る分には比較的チェックは緩いものの、出れば最後───市街に入ることはできなくなる。
最初は門前に詰めかけていた市内の民は、ついに衛兵たちの詰所や、巡回の兵にまで口々に責め立て始めた。
「なんなんだよ! いい加減にしろよ!」
「そうだ、そうだッ!」
「大賢者王は何を考えているッ」
「王をだせ、王を!」
わーわーわー!!
「「王をだせ!」」
「「説明しろ!」」
「「「王を!」」」
───大賢者王を!!!
わーわーわー!!
そして、ついには混乱は王城にまで迫る。
「陛下──暴徒が集まってきております!」
王城の執務室内で仕事をしていた大賢者に、近衛兵団長が報告に来た。
「そうか……捨て置け」
しかし、興味もなさそうに一言いうと、膨大な資料を読みふける。
その際も、団長にはチラリとも視線を向けない。
「し、しかし、陛下! 今にも城の門を破壊せん勢いです」
食い下がる団長だったが、大賢者はそれでもろくに反応しない。
「うるさい……仕事中だ。そんなことは貴様らの裁量でやるがよい」
ここまで来ると完全に丸投げだ。
しかし、命令のうち──戒厳令が解除されたわけではない。
当然、独断で解除することもできない。
近衛兵団長といえど、扱える権力は限られているのだ。
良い方法は門の解放か、王が自ら民に語りかけることだろうが、それはかなわない。
そもそも、王に動く気がないのだ。
ならば、門を開放することも王に目通りしてもらい民衆を宥めることも出来ない──。
今もって、王都の門を開放することは厳禁とされていた。
(───いったい何をお考えなのだ?)
近衛兵団長は苦々しい思いを抱えつつも、一礼して執務室をあとにするしかできなかった。
身にすぎる重責と現状に不満ありありの近衛兵団長は肩を怒らせながら、最低限の礼節をもって王のもとから去る。
「…………失礼しますッ」
バン!
少々乱暴に門を閉める音がしたものの、大賢者は反応しない。
山と積まれた報告書に、文献を漁る。
そして、時折宙を眺めて物思いに耽る。
「みんな逝ったか…………ベリアス、エルラン、ゴドワン、メルシア───」
そして、
「───カサンドラ、オーウェン…………」
軽く首を振る大賢者は、まだ老齢と言われるような歳でもないというのに、随分と老け込んで見えた。
「…………………………ザラディン───」
パサリ、と報告書が一枚おち、そこには明確に書かれていた。
赤髪の暗殺者。
赤い髪、三白眼、スッキリとした鼻に、整った容姿────。
二刀を
「帰って来たんだな……あの地から。──カサンドラとオーウェンと、三人一緒に……」
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