第6話「無頼の剣豪オーウェン」
──復讐に来た。
そういって二人の前に敢然と立つ赤い髪の少女。
「ザ……」
「ザラディン……なのか」
言葉に出し、言ってしまってから、ようやく思い至ったとばかりに、ブワリと嫌な汗をかく二人。
「はははッ、鈍いなぁ。ベリアスはもう少し勘が良かったよ。……とんだ雑魚になっていたけどな───さぁ、」
ニタリと笑い、少女が剣をゆっくりと持ち上げる。
「───
「な、舐めるなぁぁ!」
その言葉と同時にエルランが斬りかかる。
だが、
「遅いッ」
キャィイン、と剣が
その瞬間ゾッとするような殺気を感じた彼は、思わず無様にしりもちをついて後退する。
「何しているエルラン! 立てッ」
その隙をカバーしたのは、聖騎士ゴドワン。
ブン!! と大振りの一撃だが、そこには遠心力と相まって、恐ろしい衝撃波を生み出す必殺技。
「いや、エルランが正しいよ───」
ス、と半身に構えただけでその衝撃波を受け流すと──。
「忘れたのかい? ふふふ。───当たらなければ、どうということはないッってね!」
バカァァン! と、壁を大きくえぐった一撃だが、目の前の少女には傷一つない。
「おやおや、良く気付いたね、エルラン──カウンターで仕留めるつもりだったんだけど」
「あの動きは!? ま、まさか、……ザラディンの……剣技『川流し』なのか──?」
「ご名答」、そう言って美しく微笑む少女。
「しかし、どうしたんだい? まるでなっちゃいない。冴えもなければ勢いもないよ──なまったかい?」
「黙れぇ!」
「よせッ、ゴドワン!」
振り抜いた剣を引き戻しざまに、横薙ぎへと強引に変更し、ザラディンの細い胴を断とうとするが、
「本当に鈍ったな───ハエが止まるぞ」
ヒョイと飛び上がったザラディンが予備動作無しで、刀の腹に乗る。
そして、振り抜く刀にあわせて遠心力を得ると───、
「残念だ、ゴドワン」
遠心力を楽しむように振り回されつつ、一歩前へ。
そして、ゴドワンの刀の上を歩き、何気ない動作で、パシリ! と頭を掴むと、
「おさらいだ。……ほら、勇者剣技『猿回し』」
力を込めずに剣を首に当てる。
そこは、防具でカードされてはいたものの、遠心力を得た刃が強引に隙間をこじ開けていく。
そのまま体ごと回ったザラディンは、剣を使い、梃子の原理で防具をえぐり取る。
「ぐああああ!!」
僅かに防具の隙間から中に入った剣がゴドワンの喉を切り裂くと、ドクドクと血が溢れる。
「
だが、その瞬間彼の体を眩い光が包んで見る見るうちに傷を癒していった。
「あぁ、そうだった──回復魔法。あはは。面倒だなおまえらは」
スタッと危なげなく降り立ったザラディンはニッコリとほほ笑み、それでもなお余裕を崩さない。
「迂闊だぞゴドワン!」
「すまん……油断した」
素直に謝ると二人して頷き合い剣を構えなおす。その姿がまるで生き写しの様になり二人で一人の構え。
「ははッ! そーーーこなくちゃな! いいぞ、いいぞ!──二人で二刀流。そうだ、それがオーウェンの褒めていたお前らの
「黙れ! オーウェンがなんだッ」
「拙者は、あの男を越えた」
その言葉に、終始
「本気で言ってるのか?」
スーーーーーと、部屋の気温が下がる気配。そして、ザラディンの剣が怪しく踊る。
「そう思うなら─────止めて見せろッ」
ギャン──! とザラディンの姿がブレたと思った瞬間、一瞬で二人の前に現れる。
そして剣は一直線に天へと伸びて──振り下ろす!
「勇者剣技『
「エルラン! 構えろッ」
咄嗟の動きでゴドワンが動く、そして抜群のコンビネーションでエルランが合わせる。
二刀を交差し、剣戟を防ぐと同時に、目にも止まらぬ速さでカウンターを繰り出す!
無頼剣豪流──『滝落とし』。
ガツン! と凄まじい衝撃が二人を襲うが──耐えきれる。
あとは、カウンター!
「ははは! 勝ったぞ、ザラディン! 非力になったな」
「老いた拙者らを馬鹿にするとは、笑止千万! 貴様とてか弱い少女ではないかッ」
鋭い切れ味の二刀がザラディンの剣を押し返し──。
それは、彼女の剣を意図も容易くバキャァァァンと砕き、腕ごと吹き飛ばした。
あとは、カウンター!
「「これが無頼剣豪流だッ」」
死ねッ、ザラディン──!
『滝落とし』────……。
……ん、なッ!?
さぞ驚愕しているだろうと、カウンターを繰り出す刹那の時に、二人がザラディンの顔を見れば、────全くの平静。
それどころか、剣すら握っていない。
コンマで流れる世界で、ザラディンの声が響く。
「やればできるじゃないか?……ようやく、オーウェンの足元に届いたんじゃないか?」
スーーーーー、チャキリ。
刹那の世界で、なぜかザラディンの動きだけ滑らかだ。
エルランもゴドワンも視線こそ動けど、まるでスローモーションでも掛かったかのようにゆっくりと動いている世界。
「だけど、今日でおしまい。お前らはあの世でオーウェンに詫びて来なッ。あいつなら笑って許すだろうけどね」
二手に持った拳銃。
け、
拳銃ッ?!
「ザ」
「ラ」
「見ての通り、非力な少女だよ────剣はもうやめたんだ……たまには使うけどな」
パクパクとエルランもゴドワンも口を動かしている。
驚愕の表情は見て取れる。
もしかして、卑怯だとか言っているのかもしれないけど……。
「ははは、何を今さら。お前らが言ったんだろ? わざわざ世界中に広めたんじゃないか──僕たち『3人』が卑怯者だってね…………アバヨ」
バ、バン!
同時発射の二発。
それは狙い違わず二人の眉間を撃ち抜く。
だが、それで終わらない。
高速で動く銃捌きは、すぐに別の銃を取り出し再び二手に──。
バ、バァン!
鼻に大穴。
バン、バン!
口に大穴。
バンバンバンバンバンバン
喉、首、胸、腹、股、〇、
バンバンバンバンババババンッ──!
右腿左腿右膝左膝足甲指ツメッ──!
そして、動き出す時間。
余りの早撃ちに、急所を撃たれてなお意識のあった二人だが──バラバラバラガシャンと銃が地面に転がる音を聞いたのを最後に……──事切れた。
「……これで3人」
ユラユラと漂う硝煙に、ようやく騒がしくなり始めた階下。
今さら気付いたようだが……もう遅い。
ザラディンは、二人の亡骸から二刀を取り上げると、一度黙礼してから鞘に戻し背に担った。
「おかえり……オーウェン」
愛おし気に二刀を撫でると、
「残り二人……」
その呟きを最後に、教会本殿は兵士の喧騒だけがいつまでもいつまでも響いていた。
この日を境に、赤髪の暗殺者の噂が王国を席巻する。
しかし、要としてその姿は掴めず。
各地では賞金首として似顔絵が出回るが似た容姿の者は居れど、大量の銃を持った少女など見つかるはずもなかった。
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