第5話「見参」
突如、部屋に響き渡る声。
「ぬ!? 何奴────」
「曲者だとッ!?」
スラン──と刀を抜いた二人が背中合わせになり、互いに構える。
一子乱れぬ動作は、まるで図っていたかのよう。
それは、修業時代から積んでいるコンビネーションで、随分と久しぶりに構えたというのに、二人は様になっていた。
「あははは。相変わらず仲が良いね。──お前らは、それでようやく一人前だよ」
その声が響く場所──……。
「上だ!」
「応よ!」
スパパンッ! 二人の冴えわたる剣技がそれぞれ半円を描き、天井に新円の穴を
途端に、ズウゥゥンと降ってくる天井の構造材。
そこに──……。
「貴様がッ!?」
「子供──……?!」
そう、赤い髪の美少女───ザラディンが敢然と立っていた。
「久しぶりだね。まさか二人同時に会えるなんて、僕はついてるよ」
「誰だ、貴様は?」
ザラディンを正面に据えると油断なく構える神殿騎士。一方、聖騎士は顔をチラリと向けるも、相棒に背中を預けたまま、まだ周囲を警戒している。
「死角なしのコンビネーション……オーウェンもそれだけは褒めていたね。───自分にはできない、と」
「オーウェンだと? 貴様ぁ……。奴の縁者かッ」
「ははは、縁者……か。そうだね。……ともに王都で技を磨き、魔王を討伐した後で──最後は、同じ食事をしたなー」
その言葉にギョッとした顔の神殿騎士は、
「魔王を……討伐、だと」
「ん? 君たちは、」
───もう、忘れたのかい?
そんな風な表情で、少女は首を傾げる。
所作は愛らしい少女の物だが……。
「エルラン……君は、僕にワインを注いでくれたね」
「なッ!」
驚愕の表情をした
「そして、ゴドワン……君の焼いてくれた串焼きは本当に美味しかったよ。一口目はね」
「うッ!」
思わず連携を崩して振り向く
「「な、何故それを!?」」
声を合わせて驚愕する二人に、
ふふふふ。
「帰って来たよ───エルラン。そして、ゴドワン」
「ま、まさか……!」
「ば、ばかな……!」
「猊下ッ! 聖騎士殿!」
バンと! 大きな音を立てて部屋に駆け込んで来た兵が一名。
彼は、先ほど報告に来た士官で、ついさっきまで近くの部屋に連絡係として詰めていたのだ。
「おや……失敗したね。この本殿の最上階──そこの階段は、ぶっ壊しておいたんだけどな」
最上階へ続く螺旋階段。
その階段に細工をして登れないように破壊工作を施したザラディン。
その上での登場だったのだが、なるほど……同じ階に兵がまだいたらしい。
「貴様ッ!……報告にあった賊だな! 御二方はお下がりください」
シュラン……。
剣を抜いた士官はジリジリとザラディンににじり寄るが、エルランとゴドワンはそれでも剣を納めず警戒を解かない。
───いや、それどころか。
「馬鹿者! 引けッ、応援を呼んで来い」
「ただものではないぞ! お前如きではかなわんッ!」
その忠告もむなしく───。
「サァァァァァァ!」
逆袈裟気味に斬りかかる士官。
動きも素早く狙いも正確。剣先が床に当たってギャリリンと火花を散らす。そしてザラディンに──。
「優秀な部下だね」
バサァと、簡易ローブを脱ぎ捨てたザラディンはソレをクルクルクルと素早く巻き取ると、手首のスナップを利かせて士官に投擲気味に振り抜く。
「ぐぁ!」
「だけど、邪魔をしないでくれるかな?」
顔を
そして、あっという間に動きを絡めとられると、そのまま引き絞られた。
「剣だけ借りるね」
絞られた拍子に剣がすっぽ抜け、ザラディンの手に収まる。
あとは勢いのまま、剣の柄頭で強かに後頭部を撃たれ昏倒。
「ぐあッ!」
士官は蹴り飛ばされ、意識の無い状態で廊下に転がり出た。
「さぁ、思い出したかな? 僕はあの日の──」
硬直したままの二人に、ダラリと剣を構えて見せる。
その様子、
そして、その仕草にビクリと震える。
「───復讐に来た」
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