第2話「無頼の剣豪」

(回想───)



 ガキィィン───!


 王都の練兵場にて、激しい剣戟の音が鳴り響く。

 複数の見物人が見守る中、広い空間を存分に使い二人の剣士が切り結んでいた。


 刃は潰してあるとはいえ鉄の塊を全力で振り抜いているのだから、頭にでも当たったら命にかかわりかねない。


「やるな少年!」

「子供じゃない! もう14だ!」


 ──それを子供と言うんだ!

 そう言って振り抜く剣は二刀。

 同時に降り抜くそれは一本で防ぐには少々手数が足りない。


 だが、


「ぬ! どこだ!」

「ははは、オーウェン! まだまだ甘いよッ。僕はカサンドラとも組み手をしてるんだよ」


 ──それがどうした!


 気合の一閃をオーウェンは放つ。

 二刀で、別軌道からの同時斬撃ッ。


 ───これは防げまい!


「あははははは! カサンドラは言ってたよ──」


 ──当たらなければ、どうということはないッ!


 そう言ってヒラリと躱す少年こと、若き日のザラディン。


「クッ! ピョンピョン飛びおって! ずるいぞッ」

「そっちだって、二本も剣をもってるじゃん!」


「───これは流派だ!」


 サッと懐に飛び込んできたザラディンの動きに、目が追い付かず焦るオーウェン。


「は、はやいな少年ッ!」

「もらったよ!」──ガキィィン!


 しかし、その一撃を刀を交差させることで盾を作り防いで見せる。

 さらに、

「貰ったのは俺の方だ!」


 無頼剣豪流──『滝落とし』ッ!


 攻防一体技──防御からのカウンターだ!

「あははは! それは前に見たよ──こうやって、」


 ザラディンの剣技──『川流し』……!


「ぬわッ」

 ズバンと、腕に感じる斬撃の痛み。


「そこまで、一本! ザラディンの勝利ッ」


 サッと手旗を上げてザラディンの勝利を告げるのはゆったりとしたローブに身を包んだ青年。


 流麗な剣を佩き、錫杖しゃくじょうをもった大賢者アッカーマンだ。


「ぬぐぐ……ザラディン! ──おまえ俺の技をパクっただろう!」

「あはは、──改良してモノにしたって言って欲しいね」


 口調こそ激しいが、オーウェンとザラディンは楽しげに笑っている。

 どちらにも深い信頼関係があるらしい。


「流石はザラディンだね。天才的な剣技と身体能力──いやはや、これはじきに『勇者』の称号を得るかもしれないな」


 パチパチパチと、拍手しながら慈愛に満ちた目でザラディンを見つめる大賢者。

 照れくさそうに頭をかく彼の肩を優しく叩き、その手を取ると勝利宣言。


 観客に示す。


 疎らな観客は驚いてはいたものの、軽い拍手でもって答えた。


 女性二名のうち一名は走り出て、ザラディンに抱き着くと全身で彼に甘えだす。


 同世代の中でも飛び抜けた癒しの才をもつ聖なる巫女──聖女メサイアだ。


 そして、もう一名の女性は褐色肌に豊満な体を持つ女傑、カサンドラ。

 カサンドラに話しかけるのは筋骨粒々の偉丈夫、ベリアス。


「お前あんなこと言ったの?『当たらなければ、どうということはないッ』……って」

「う、うるさいわね……組み手してると熱くなるのよ!」


 ザラディンのどや顔を真似するベリアスが、凄まじくうざい。


 そして、敗北したオーウェンは照れくさそうに、大賢者から離れると二人の剣士──聖騎士と神殿騎士の下へ歩み寄った。


「いや~メンゴ、メンゴ。負けちった」

「いえ! 師匠の剣技冴えておりましたぞ」

「いかにも、傭兵団の子息だかなんだか知りませんが、あんなポッと出のガキの勝ちなどまぐれでしょう」


 プンスカ、プンスカ! と擬音が聞こえそうなくらいザラディンの勝ちに不満顔。


「はっはっは。いやいや、あのガキはすげーぞ。最初は俺が勝ちまくっていたけど、アイツはその都度、俺の剣技をうまく吸収しやがる」


 ありゃ天賦の才だな、と。一人ウンウンと頷く。


「し、師匠は悔しくないのですか?」

「そ、そうです我は悔しいですぞ!」


「…………なんで?」


 「??」と、疑問顔のまま、あっけらかんというオーウェンに、一瞬ポカンとする聖騎士と神殿騎士の二人。


「そ、それは拙者どもの師でありますし……その、」

「あのガキはまだまだ若いというのに……その、」


 その説明に、ようやく合点がいったというオーウェンは手をポンと叩き、


「アーホー。そもそも負けるのが惜しいなら、あのガキもお前らも、そもそも鍛えてねぇよ。一人で孤高やってるっつの」


 オーウェン曰く、

 自分を越えてもらうために鍛えているのだと……剣の道は、強者に出会う事と強者を育てることだと、そう言うのだ。


「お前らも早く俺やら、あのガキを追い越すんだな。……才能なんて、クソ食らえよ」


 そう言って二人から、それぞれ自分の刀を受け取ると、意気揚々と練兵場を出ていった。


「師匠……」

「恩師よ……」


 オーウェンから預かっていた刀の重さが消えたとき、聖騎士と神殿騎士は自らの限界を見た気がした。


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