第6話「連撃のカサンドラ」
ブシュ!
──その音と鈍痛のあと、ベリアスの視界は真っ暗闇に包まれる。
『ぐぁああああああああ!!』
「うまいもんだろ? 10年近く練習したんだ」
硝煙棚引く拳銃片手に不敵に笑う少女。
ザラディンは生まれ変わってから、自分が少女であると自覚すると、すぐに元の剣技を扱う事を諦めた。
いや、正確には記憶と魂に刻み込まれた経験が、すぐにその剣技と冴えを思い出させたのだが……。
ただ、体は非力な少女のままだ。
どうしても力や
だから、そんなとき。
ふと、カサンドラの言葉を思い出した──。
カサンドラは言った。
銃こそが非力な女子供のための武器だと、そう言っていたのだ。
「力持ちだろうが、歴戦の兵士だろうが、女子供だろうが撃った弾の威力は変わりゃしないよ」と──。
「銃を持てて、引き金をひけて、弾が撃てれば──それだけで人が殺せる……身を護れる」そう言ったのだ。
だから脳裏に残る彼女の
そして、ザラディン自身の剣技と合わせて進化させた。
『み、見えん! 見えんぞおぉ!』
「往生際が悪いぞ、ベリアス」
腕を振り回しめちゃくちゃに暴れるベリアス。
しかし、そこにザラディンはいない。
盲目状態で暴れまわっても牽制にもならないようだ。
『──な、なめるなよ! ザラディン!!』
床に転がっているカサンドラの死体を探り当てると、ブチィ──と、その頭部を食いちぎるベリアス。
そのまま咀嚼すると──。
「呆れた回復力だな……片方は直らないみたいだが」
シュウシュウと煙を立てて回復していく片目の傷。
『ぐははははははははは!!』
ポイっと死体を投げ捨てると、
『オレは最強だ──』
「お前は最低だ──」
ジャキっと、二手に拳銃を構えたザラディンは冷たく言い放つと──月の光を受けて、銃口がギラリと輝く。
「さぁ、……何発耐えれるかな?」
『カサンドラぁぁぁぁぁぁ!』
思わず叫んだベリアスに、無慈悲な指が引き金を引く。
バァン!
──そして、絶叫。
『ぐおおおおおおお! ……そんなチンケな弾がぁぁぁ!』
剣を弾くとは言え、筋肉が鉄になったわけではない。
当然ながら、高速で飛ぶ弾は跳ね返せずに体にめり込む。
『いてぇぇぇ! くそぉ──テメェェェエエ!!』
しかし、肥大化したベリアスには致命傷とはならない。
シュウシュウと徐々に回復する視界に、ザラディンの姿を捉らえたベリアス。
彼は、開いた視界の先に銃を構えた彼女を見る。
その姿は一種美しく、まるで月が如く。
そして、洗練されていた。
「──幕にしようか……」
『一発くらいでいい気になるなぁ!』
「カサンドラの汚名は返上──彼女は卑怯者なんかじゃない、」
そうだ。
勇敢な彼女は、魔王の討伐に尽力した。
卑怯者は、
「……一番卑怯なのは、僕──」
そして、
『くらぇえええ!!』
ベリアスの両手を組んでのハンマー打撃!!
「──次にお前らだよ」
ズガァァァァン!!
ベリアスの一撃が城を揺るがす。
だが、打撃の下にザラディンはいない。
彼女は羽のようにフワリと舞うと、
「カサンドラの──彼女の二つ名を覚えているかい、ベリアス?」
トン、と──ベリアスの手に乗り、
「──その美しい銃捌きをみて、人は呼んだ、」
女銃士カサンドラ──その、銃捌き。
絶大な威力を誇るも、単発でしかない銃を操り、魔王を倒した真の英雄のひとり──。
──見せてやる!
彼女の二つ名の由来をッ!
ザラディンの腕が、二手が────動く、
『ふざ』
バァンバァンバァンバンバンバンバンバンバンバババババババババババンッ!
凄まじい轟音が城を満たし、硝煙が立ち込める。
『げふッ…………れ、連撃────?』
「──そうだ、彼女は連撃のカサンドラ」
ドスゥゥンと倒れたベリアスの心臓に無数の弾痕が集中。
大穴が開き、真っ黒な血が溢れ出ていた。
ベリアスが倒れるのと前後して、ガチャガチャガチャと、ザラディンが空に放り投げて交換しまくった銃が、今更ながら床に転がって金属音を立てる。
その数20丁余──。
「さようなら、ベリアス……」
そして、事切れたらしいベリアスがシュウウぅぅ……と煙に包まれ元の大きさになった。
「……まずは一人」
その銃を拾わずに、ザラディンはカサンドラの亡骸から銃を回収すると、ホルスターに納めていく。
それは
最後の一丁を拾いあげ、額にコツンとあてる。
「おかえり……カサンドラ」
すぅ──と、銃身に口付けし、名残惜しむのうに、ホルスターへ納めると、
「残り4人……」
その呟きを最後に、少女の姿は霞のように消え失せた。
そして、城は静寂に包まれる……。
翌朝、昏倒した兵が見たのは変わり果てた姿の領主と、
あとは勝手な噂が独り歩きし、拳闘王は忍び込んだ賊と相打ちになったらしいと、そんな風にささやかれるのみ。
誰も怪しい少女の姿など知らず、街で装備を奪われた間抜けな兵士が後々兵士長に大目玉を喰らったという話があるだけだ。
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