第5話「違法強化薬」
壁を破って現れた巨怪。
そいつは、不気味な唸り声をあげてザラディンに迫る。
「へえ、第二ラウンドかい?」
ザラディンの言葉を受けてニタリと笑う顔はベリアスのものだ。
しかし、見た目がさっきとは随分違う。
はち切れんばかりの筋肉。
パンパンに膨れ上がった両足に
顔だけは元のままで、肩の筋肉に飲み込まれそうになっている。
『ぐははははははは! どうやったかは知らんが、お前は間違いなくザラディンだな。生意気なところが、まるで生き写しだッ』
「そうだ。僕はザラディンだ」
ポンと胸に手をあてて誇示してみせると、ベリアスもシィィと凶悪に笑う。
そして、ザラディンと相対せんとばかり、ズンッと大きく一歩。それだけで城の床が抜けそうになった。
『大賢者め……
「いや、それでもお前には十分にすぎる──ただの脳筋が領主とはね。なんてまぁ~民が哀れなこと」
明らかに異常な様子のベリアスを見ても一歩も引かないザラディン。彼女は少しも慌てず、ダラリと剣を構える。
『グハハハハ。哀れだなザラディン。──昔のお前ならいざ知らず……その体では従前の力を発揮できまい』
ベリアスは、先ほどの僅かな剣戟の末に、腕を斬られたとはいえザラディンの本質を見抜いていた。
かつて、勇者と呼ばれた若者の体とは比べるべくもない程、非力な少女のものだ。
「そうだ……この体は見ての通り、女の子の
それでも引かぬザラディン。
「そして、今の非力な僕じゃあ……
『そうだとも! ただの
そう言ってペッと吐きだすのは、部屋に転がっていた少女の残骸。
「魔王軍の……? ははッ、墜ちたな──ベリアス」
『ぬかせ、ザラディぃぃぃン! その首ネジ切ってから犯しつくしてやるわッ』
「まだ女を
『そうとも! ……次は、お前だぁぁっぁ!!』
ブンッと大振りのスイング。
肥大化した体でも
高速で繰り出す拳に対処できるものなど、ほとんどいないだろう。
だが──。
ガキィン!
『ぬ!』
「ほっ……硬いなッ」
受け流す様にして、カウンターを放つザラディンの技──勇者剣技『川流し』。
それは、拳を受け流してのカウンターだったが、その剣が皮膚を切り裂けず弾かれる。
さらには、
『グハハハハハ! 俺の勝ちだなッ』
「おやまぁ……この安物じゃ、その体に見合わない様だね」
『ぬかせッ!』
振り抜いた拳を手刀に切り替えて、ザラディンごと壁を薙ぐ。
ボゴォォン!
砕かれた壁と共にザラディンの剣が折れ飛んだ。
その余波は彼女の着ている警備兵の鎧も切り裂いた。
バラバラと舞い散る瓦礫と鎧の破片。
元のローブ姿になったザラディンは、口の端から血を一筋垂らす。
「ぺッ、──まったく……生まれ変わったら女の子だよ? 非力すぎて嫌になるね」
『グハハハハハ。丸腰で何を余裕ぶるか!
ベロリと舌を出して獣欲をむき出しにしたベリアス。
「ホントにお前は性欲だけのクズ野郎だな」
『だったらなんだ! カサンドラのように責め殺してやる』
呆れたとばかりに、ザラディンが肩をすくめる。
「──僕はね。……昔と同じように剣を扱うことは諦めたんだ。女の子の体と勇者の体じゃ、同じようには戦えない」
そう言って両手を振り上げてローブをバサリと払いのける。
『貴様ッ! それは──!』
「僕のことはどうでもいい。だけど!──カサンドラの無念……今こそ晴らさせてもらうッ」
払い上げたザラディンのローブの下。
そこには、ガーダーベルトのような革のツナギ。
それを拘束具のように覆っているのは、種々様々なホルスター。
そう大量の銃を納めたホルスターが体中にあった──。
それらは、体の動きを阻害しないように、ベルトやサスペンダーとして縦横に走っていた。
胸、腹、腰、脚にと無数に連なるホルスター。
そこに、ズラァぁぁぁ──と並んだ多数の拳銃。
その姿はまるで、かつての女銃士……。
そう、
『か、カサン──』
ブワリッと、ベリアスの全身が寒気に包まれる。
非力な少女の姿をしたザラディンが、スバッッッと銃を構えるその姿が──!
「「死ねよッ! ゲスが!!」」
か、カサンドラの、
──バァァァアン!!
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