第4話「卑怯者と呼ばれた女銃士」


「帰って来たよ──ベリアス」



 サッと剣を構えると、ベリアスにトドメの一撃を、

「君が最初の一人だ。残り4人もじきに送ってやる」


 無慈悲に掲げられる剣がベリアスに叩き込まれんとする。


「──ふ、ふざけんなよ、ガキぃ!」


 お、俺を誰だと思っている!!

 領主だぞ!

 拳闘王だぞ!!


 女風情が俺を殺せるものかよぉ!!


「か、カサンドラぁぁぁぁぁ!」

はいヤーご主人様マイマスター


 スッ、と闇から進み出た女が一人。

 女銃士カサンドラこと、今代のカサンドラだ。


 少女はその姿に驚いたように目を剥くが、

「ははッ。君がカサンドラだって?」


「ええ、私がカサンドラよ。───お嬢ちゃん」


 片足を引いて一礼。

 優雅に答えてみせたカサンドラ。


 そして、何気なく──チャキっ、と緩~い動作で拳銃を構えてみせる。

 流れるような銃さばは、余りにも予備動作がないものだから、普通の人間なら誰もが反応が遅れてしまうだろう。


 ──そう……普通の人間ならば、だ。


「カサンドラの名に恥じぬほどの───」

 早撃ちファストショットよ!!


 バァン!──キィン!


「な?!」

 会話の合間にさりげないしぐさでの奇襲───……のつもりであった。

 だが、カサンドラの思惑は外れ、あっさりと銃弾は跳ね返されてしまう。


「う、うそ……」

 呆然としたカサンドラにユラリと立ち塞がる少女。


「はぁ……」

 ───ふざけた話はよしてくれ。

 そういって、ニイ……と口角を上げる。

「笑わせる。──君がカサンドラだったら、僕はとっくに撃ち抜かれているよ」


「……い、今、どうやったの?」


 驚いた顔のカサンドラは、拳銃に弾丸を再装填リロードをすることすら忘れているようだ。


「なにも。──ただ、剣で銃弾を滑らせただけさ……そんな欠伸あくびが出るほど遅い銃捌きじゃ、僕は殺せないよ」


 ニコリと、美しく笑う少女。

 銃と剣の圧倒的不利にも、まったく動じない。


「だけど、君のその銃……それだけは・・・・・本物だね」

「ッ! わ、私がカサンドラだ! 銃も、人も──本物だよ!」


 アハハ。


 それを笑い飛ばす少女……──いや、少女ではない。

 彼女の名はザラディン。

 かつて仲間に騙され、首を落とされ、命を落とした勇者ザラディンだ。


「ぐぬ……!」

「おや、ベリアス。化粧直しかい? ……すぐ行く。──せいぜい首を洗って待ってろ」

 彼女は、カサンドラにかばわれてコソコソと逃げていくベリアスを見ていた。

「ほ、ほざけ!! やれ! やるんだカサンドラぁぁあ!」

「や、ヤー!!」

 ハッとしたカサンドラが拳銃に手を伸ばす。

「あはは! 女の尻に隠れるのかい? 実にいい領主だね」

「……はッ! 行かせるわけはないでしょう?──死になさいッ。お嬢ちゃん!」


 撃ち尽くした拳銃を放り捨てると、カサンドラは闇を纏っていたような黒い服を脱ぎ捨てる。


 ブワァサ! と広がるゆったりとした服の内側は銃がびっしり──。


 腰に何丁も、

 そして、サスペンダー状のホルスターに何丁も。


「私はカサンドラ。……世界の裏切り者。そして、『卑怯な銃士カサンドラ』──。い~え、元の二つ名は、」


「──連撃のカサンドラ」


 ッッ!


「こ、子どもが何故その二つ名を!? お、お前は一体!──な、何者だ!」


「その銃の持ち主の──親友だよ」


 その言葉に、

「し、しんゆ……? ──お、お前なんか知らない! わ、わわ、私がカサンドラだぁぁぁ!」


 ズハァ──! と両手をクロスにし、腰から銃を抜き出し二手に構える。


 バ、バァン! キ、キィィン!


「言っただろ。欠伸が出るって──なんて鈍い弾だい。ははッ、それじゃ蝿が止まるよ」


 異なる弾道で発射されたはずの銃弾も一刀で弾いて見せる。


「ぐッ! ば、ばかな──」

「僕はね、彼女とは何度も模擬戦をしたんだ。──どうやったら銃を相手に剣で勝てるかってね」


 バン、バァン! カ、キィン!


「結論は一つ──」


 バン────カキュン!

 銃丸をことごとくはじきつつも、ゆらりと接近したザラディン。


 目の前で発砲されたそれすら、カキン! と銃弾を滑らせ受け流す。


「そ、そんな!? 剣が銃に勝てるはずが───」

「そうかい? 簡単な話だと思うけどね」


 黙れぇぇぇえええ!!


 カサンドラは銃を次々に抜き放って少女を狙う!!

「私がカサンドラだぁぁあああああ!!」


 ババン、ババン!!

 銃を撃っては。抜いて新しい銃に持ち替え撃ちまくる。

 そして、また抜く! 打つ!! 当てる!!


「うわぁぁぁあああああああああああ!!」


 ババン、ババン、ババン、ババン!!


 ───き、キィン! 


「ははっ。遅い遅い───」

 そんな銃裁きガンスタイルじゃ。

「……蠅が止まるよ」

 最後の銃弾をスルリと回避し、その状態で剣を水平に構えるといった。


 ───簡単だろ?


「……当たらなければどうということはないッ!」



 ズンッ。



「グブッ…………」

 つつー……と口から血を滴らせたカサンドラが、今のは何事かと自らの腹を見れば。──剣が深々と突き立っていた。


「───ゲブ……ば、ばかな」


 ズボッと引き抜かれた拍子に、バシャバシャと血と内臓が零れ落ちる。


「当たったら、こうなるけどね」


 ヒュパンと血振りし、剣を肩に置く。

「銃は返してもらうよ。それはカサンドラの物だ」

「ち、違う……私がカサン、ドラ、だ」


 ドサリ──最後にそう言って事切れた哀れな女。


「……違うよ、君は似ているだけのまがい物・・・・さ」


 ベリアスの奴……まだカサンドラに執着しているのか。


 目があれじゃあ、わからなくもないが。


「君もある意味ベリアスの犠牲者なのかもね……だけど、無辜むこの民を苦しめたんだ、自業自得さ」


 そう言って銃を拾い上げようとしたが、ザラディンは何かに気付いてすぐにその場を飛び去る。


「ちっ」


 ──直後。


 ドガァァァン!!


 壁が崩れて濛々と煙が巻き起こる。

 その煙の中、のっそりと立ち上がるのは巨躯の男──……。




「……おやおや、ベリアス──これまた大きく出たね」


『グルルルル……ザぁラぁディぃぃン』

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