第3話『決着の光』
俺は剣を構えて攻撃に備えた。グッピネルはこっちを見ながら恐ろしい声で叫んだ。
「グルルゥ!ギャッォォ!」
その瞬間、グッピネルの右手が高速で振り上げられ、すぐさま青年に振り下ろされる。
「くるぞ!」
青年は魔物の腕を剣で防御し、すぐさま構え直し、大きく横に飛び出す。
そして、剣を構えたまま魔物の懐に跳び込み、剣で斬撃を与える。
「ウグァ!ギュルルゥ!」
魔物はまた叫ぶ、よだれが口からはみ出て今にも飛び散りそうだ。
俺はその様子を見て、魔物の後ろに回り込み、
背を大きく切り裂いた。
「うおりゃぁ!」
よほど痛かったのか、標的が一瞬にして俺に変わったようだ、グッピネルは左手の拳を握りしめて、後ろにいる俺に攻撃するよう、スピンをする。
それに俺は反応できなかったみたいだ。
「ぐはッ!」
俺の体は魔物の拳で吹っ飛ばされた、剣も離れたところに落ちてしまった。
「大丈夫か!」
青年はそう言いながらグッピネルに剣を突き刺し、それに魔物が痛がっている間に俺のもとに駆けつける。
「すまん…ここまでみたいだな。」
『ロフヒール!』
青年はその声をかき消すほどの声でそう言った。
どうやら俺の体力は復活したようだ。
「危ない!避けるんだ!」
グッピネルがこっちに来ていることがわかった俺はそう言った。
しかし大きく振りかぶった攻撃が、青年の体に直撃する。
鎧が重いせいか青年は吹っ飛ばずいた。
「うぐっ…」
青年は力が抜けて地に伏せてしまった。
魔物が青年を掴み持ち上げた。
「やめろ!」
このままでは青年がグッピネルに殺されてしまう。剣もないので、魔法を使うしかない、
幸い今は魔物が青年を持ち上げており、その腹が丸出しだ。
「今しかない!!」
『ファイア!』
腕を伸ばしながらそう言った。
魔法は発動し、大きな火柱が魔物の腹にえぐりこむ。
「ギュヒュジィィィ!」
魔物の肉は溶け始め、青年がそのまま下に落ちる。
「たっ助かった、ヒールを覚えておいて正解だったよ。」
魔物はその火の魔法を受けてまだ叫んでいる。俺はこの魔法をキープし続けている。
しかしそろそろ限界が来そうだ。
「すまん、この魔法はあと十秒と持たないんだ、
あの剣を拾ってこの間に奴にとどめを刺してくれないか?」
俺は右手を魔物に向けたまま左手でライトニングソードを指差す。
「わかった、恩にきるよ」
青年はそう言って光の剣を取りに行く。
「もっもうだめだ、魔法が解除される!」
体力の限界が来て、炎が弱くなり始めてしまった、幸いにも魔物はまだ足止めできている。
そして…
「これで最後だ!」
青年が魔物に斬りかかる、それと同時に俺の魔法が、完全に解除された。
「なっなんでだ!?」
その光の剣は魔物に食い込み、胴体を切断する寸前で壊れてしまった。
冷静に物が考えられなくなった青年は震えながらピッグネスを見つめる。
「グルルルルゥ…」
グッピネスも大分弱っているのか、弱々しいながらも鋭い攻撃を青年に食らわした。
バキッ!
聞こえてはいけない音が聞こえてしまった。
俺は次は自分の番かと思うと、怖くなった。
どうにかしてこの状況を打開しなければ…
「冒険者の兄さん…これを使ってくれ…!」
この状況下であったので周りを見渡していなかったが、青年たちの仲間が傷だらけで離れたところで待機していたのだ。
その中でも傷の浅いモブ顔の男が俺に剣を投げて渡してきた。
「ああわかった、どうせ死ぬならあがいてから死んでやる。」
俺は魔物に斬りかかる、その攻撃はかわされたが、魔物が俺にやってきたように俺もスピンをして剣撃を食らわせる。
「やった!」
その巨体にもう一本、剣が刺さった。
しかしながら、その魔物は生きている。
そして叫んだ。
「グアアアアッァウウゥゥ!!」
この生物はどうなっているんだ…
二本の剣が体に刺さり、血があちこちから吹き出でながらも、俺にとどめを刺そうとして前進してくる。
「万事休すか…」———————
『ライトニングアロウ!』
突然、グッピネスの背中に黄金の矢が突き刺さる、そして…
『ライトオブセットルメント!!!』
決着の光…か?
光の柱がグサグサと魔物を突き刺し、その生命活動を休止させた。
——————-
「その声は…助けにきてくれたのか。」
俺は細々しい声で言った。
声の主は言うまでもなくクレアだった、
クレアは怖さのあまり、顔が固まっている。
「ありがとう。クレアがいなけりゃ今頃あの世だったよ」
クレアは俺の無事を確認して安心したのか感情を解放させて言った。
「うああああああ、アオトォォ怖かったよおお。」
頰を赤くして、涙を目に貯めながら俺に抱きついてくる。
「うわッっちょやめてくれ、クレア!」
こんな状況で青年のことを思い出す。
青年から聞こえた、あの音が脳裏をよぎる。
「くっクレア、ヒールの魔法って使えるか?」
抱きつかれながら、俺はそう言う。
一刻も早くヒールをかけなければ一つの命が消えることになってしまう。
「使えるわ!あの赤髪の青年ね!」
クレアは状況をまた冷静に考え始めたのか、涙を手で拭い、俺から離れ、青年の前に寄って『プロヒール』と魔法をかけた。
青年は起き上がり俺の方を向いた。
「ありがとうございます。このご恩はどうやって返したらいいものやら…」
「いやいや、あなたがモンスターの情報を教えてくれなければ、俺はこいつに襲われてたかもしれないし。」
「そうですか…私の名前はレンドと言います、あなたは?」
「俺の名前はアオト。レベルは3…いや今5になった。」
意識していなかったがレベルがあがっていた。
もう辺りはすっかり夜だ。
「アオトさん、このご恩はまたいつか必ず返します、では先に私はノアに仲間と帰ります、
このグッピネルの素材はあなたに譲りますよ。」
「ありがとう、けどグッピネルは二人で狩ったものなんだし、せっかくだから半分にしようぜ」
「わかりました!ではまたどこかで。」
青年はそう言うと魔物の遺体の前に立って、
『ストレージ』と言った。
魔物の素材になりそうな半分の部分だけ亜空間のようなところに吸収されていく。
「なあクレア、俺たちはあれできないのか?」
「何言ってるんの。私が今どこかにアクアボールの翼を持ってるって思うの?」
そういえばスライムのゼリーもあの翼も全部クレアに渡していた。
「じゃあ使えるんだな!すまんがよろしく頼む。」
「私の魔力ももうちょっとしかないんだけどね…」
『ストレージ』
渋々ながらもクレアはそう唱えた。
その後のことは疲れ切ってよく覚えてない、歩いてテレポート圏内までクレアと移動し、無事ノアについたところで、体力が切れて俺は倒れてしまったらしい。
気づいて目を覚ますと、シンプルな模様がいくつも書かれた白い天井が見えた。
ここはどこなのだろうか。
「アオト様、目を覚まされましたか?」
落ち着いた老人の声が聞こえる、声の先を起き上がり確認すると執事のような格好をした白髪のおじいさんが一人、その隣にメイド服を着た黒髪で青い目をしたショートヘアの小柄な少女が見える。
この状況を確認するために俺は質問する。
「ここはどこなんだ?」
「アオト様、ここはネオフィール家の屋敷でございます。貴方様が昨日の夜、倒れてしまったところをクレア様がここにお運びになりました。」
丁寧な言葉で執事のような人に返答をもらった。
「そうだったのか…」
ネオフィール家っておそらくクレアの家のことだよな?それなら執事、メイド付きのお屋敷住まいとは、ずいぶん高い身分なんだろうか。そもそもどうやってここまで運んだんだよ。複雑な話を処理する力がまだ戻っていない。
「グウゥゥ…」
俺の腹の中から音が聞こえてしまう。
そういえばこの世界に来て飲み食いしたものがシュプライトだけでとてもお腹が空いていた。
「プフッ」
メイドさん今笑ったよね!絶対俺の腹の音で笑ったよね!初対面がこんなのとか恥ずかしすぎる!
執事が続けた。
「アオト様、お食事の用意ができております。今は午前8時ですので朝食の時間より少し遅れています。冷めないうちにどうぞお召し上がりくだい」
今度はメイドさんが口を開きこう言った。
「アオト様、こちらへどうぞ」
その誘導についていき、屋敷のあちこちを見回す。
執事さんは、その誘導とは逆の方向に進んでいく。
廊下を見るとよく手入れされており、塵ひとつも落ちていない。前に住んでいた世界の俺の部屋とは大違いだ。
赤いカーペットが轢かれていて所々に魔法の火で点火されているランタンが設置されている。
ある程度の間隔で特に意味もなく絵画が飾られていて、なんか高級ホテルの廊下みたいだ。
一番驚いたのは、こんなに広い屋敷なのにこの二人以外の人間を歩いているうちに見かけなかったことだ。もっとたくさん人はいないのだろうか?
「この屋敷には、執事さんと君の二人しかいないのか?」
「いいえ、ここには私の兄とクレア様もいらっしゃいます。たまに客人もお越しになります」
さすがメイドと言ったところ、俺の腹の音には笑っていたが、丁寧な口調は板についているというところだ。
そんな事を考えながら歩いていると一つの部屋に案内された。ドアを開けると白色の長いテーブルが縦に置いてあるのが見え、そこに高級感ただよう白の椅子がセットで置いてある。
テーブルの上には火の消えたキャンドルが一定間隔でおいてあり、高級そうなお茶のパックと水を沸かすためのものと思われる魔道具、そしてのその上に乗った急須がテーブルの端においてある。
「食事をお持ちいたしますので、少々お待ち下さい。」
小柄な少女は俺に深々と礼をして、厨房室に入っていく。
クレアはどこにいるのだろうか?やはり魔法使いらしく朝から魔術の研究でもしているのだろうか?
俺もこの世界では何かしら努力をしないと生きていける気がしない。
昨日のグッピネルには本当に手を焼いた。クレアがいなければあの青年…レンドも俺もこの世からはいなくなっていたことだろう。
考えているうちに食事をメイドさんが持ってきてくれた。
「おお、これはおいしそうだ!」
メイドさんが持ってきた料理は、鮭のような魚にチーズとバジルがトッピングされた西洋風の高貴なメイン料理と、コンソメスープっぽいもの、平たい皿にもられたライスだった。
俺はパンが嫌いだから、この世界の主食は日本と同じ、ご飯でとても安心した。
パンは食べられないわけではないが、口がパサパサするので朝ごはんにはあまり食べていなかった。
俺はその料理を見るやすぐさま食べ始める。メイドさんはそんな俺を見ながら、こう言った。
「お味はどうですか?少しお塩を入れすぎたのですが…」
「全然大丈夫!おいしいよ。そんなに塩辛くないし、俺は味は濃いほうが好きだから。」
俺がそう伝えると、少女は少し嬉しそうに微笑んで、下を向く。
ちょっと恥ずかしかったんだろう。
「あっそうだ、クレアに改めて礼が言いたいんだが、この朝食を終えたらクレアのところに案内してくれないか?」
「わかりました、アオト様。」
彼女は嬉しそうにしながら俺が食べ終わるのを待っている。
それにしてもこの料理は美味しい、俺のお母さんの朝ごはんはそれはまあ悲惨なものだったから
朝から高級料理を食べて、新鮮な気持ちになっている。
「さあ食べ終わった!行こうか。」
「少々お待ちください、今口直しのお茶を淹れますので。」
「ああごめん自分で淹れるよ、そんな動かないで。」
俺はそう言ってテーブルの橋まで移動し、お茶を淹れる準備をする。
あぁあ、なんて素晴らしい朝なんだろう、可愛いメイドさんの美味しい料理を食べ、高級感漂う
お茶を淹れる――――
「いや!アオトさん!それお客さん用のお茶パックなんですけどぉぉ!」
メイドさんが涙目になりながら、俺のもとに駆けつける。よほど余裕がないのか俺の呼び方が変わっている。
――そんな彼女の努力もむなしくお茶パックはすでに、お湯に浸かりきっていた。
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