第5話 翼を失う


 なにがどう悪いのかは、ぼくには分かりません。分かれば直せます。


 が、たちの悪いことに、自分で書いた感触は「AG」と新「AG」には雲泥の差があり、それが作品のクオリティーに直結していること。そして、ぼく自身には、ふたたび「AG」のような作品を書くことは、不可能であること。以上のことが、ぼくには痛いほど分かっていました。自分で分かっていたのです。

 そう。ぼくには、作品のなにが悪いかは分からなかったのですが、「AG」のような作品は、もう二度と書けないことだけは、はっきりと分かっていたのです。


 もしかしたら、最初の原稿を改稿して短くし、それを出版してもらい、プロの作家になるという選択肢もあったのかもしれません。

 が、これだけは確実に言い切れます。


 ぼくは絶対に、次の作品を書くことができなかったろう、と。


 「AG」出版の話は立ち消えました。というより、ぼくが原稿を書けなければそれ以上は先に進みません。一度か二度、担当の編集者の方からうちの留守電にメッセージが入っていましたが、ぼくはとくに連絡も入れませんでした。


 そのあとぼくは、どこかの新人賞に何度か応募したと思います。よく覚えてないですが、せいぜい二度か、多くて三度でしょう。

 一次選考も通らなかったと思います。


 が、それ以前に、ぼく自身が、うまく小説を書けなくなってしまったことが苦しかった。

 すでに作家になりたいとかは、考えていなかったのではないでしょうか? ただ、あのとき、そう、あの「AG」を書いていた時のような、奇跡の瞬間を追体験したい、それだけだったと思います。

 あの、素晴らしい小説との一体感を……。

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