第6話 それでもあがく


 小説は書けないくせに、つぎつぎとアイディアは浮かびます。それをノートに書き込み、いくつもの作品、ただしアイディア止まりの、題名と登場人物しか書かれていないノートが増えていきました。

 小説を書く、それ以前に、お話を作ることが出来なくなっていたのです。

 以前小説が自由に書けていた時、あのとき勝手にぐるぐる回っていた物語は、いまはまるで固く凍ったレンガのように重たくて、書きだした小説は創作の海にぼちゃんと落ちて沈んでゆくばかりです。


 なにをどうすれば、キャラクターたちが動いたり、言葉が自然に紡がれたりしてゆくのか? どうすれば、あの時みたいに、勝手に筆が進んでゆくのか?

 ぼくにはもう、皆目見当もつかなくなっていました。



 あらすじを書き込んだノートばかりが増え、たまに思い立って原稿用紙に向かうのですが、すべての話を中絶させていました。


 書けなかった。ぼくは、翼を失ってしまったのです。



 そのときにぼくがとった選択肢は、それでも書く、でした。


 書きました。無理にでも書きました。

 決して何か考えがあってのことではありません。ただ単に、捨てられなかったのです。あのときの体験を。あのときの高揚感を。名作を書いたという自分の過去を。

 ぼくはいつまでも抱きしめていました。すでに中身は空っぽで、なにも入っていない宝箱を、後生大事に抱きしめていたのです。


 やめてしまうことができなかった。捨ててしまうことができなかった。


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