4.

 すっかり暗くなった部屋で二重ラセンは目を覚ました。そろそろ時間だろうか? 寝過ぎたはずはない。バイブレーションの目覚ましもセットしてあるが、まだ動いていないはずだ。隣には裸のワタルがいて、よく眠っている。多分朝まで起きないだろう。ワタルの豊かな体に抱きついて眠っていると、女達がぬいぐるみに抱きついて眠る気持ちが分かる気がした。ワタルと出逢った自分は幸福だ。人生でただ一度の奇跡だったと言ってもいい。バイト先だった小さな印刷工場で従順に働く彼を見つけ、声をかけて付き合うようになった。自分を受け入れてくれた。彼がいなければ自分は死んでいただろう。自分は生物としてミステイクだと思っていた。どんな女を見ても何とも感じない。それだけならまだいいのだが、女は嫌な臭いがする。メスの臭いと形容していたこともあるし、生殖の臭いと形容していたこともある。要するに子孫を残そうとする本能が放つ何かが嫌だった。しかしそれが嫌なら……では自分は生物ではないのか? それなら何か? 自分はそのことを解くために科学を追いかけていたが、科学に失望し、追いかける気を失った。

 科学は明るい昼の世界だ。科学の光はものごとの全てを明るく照らす。しかし夜の世界は照らし切れない。夜の世界にうごめく人々。しかし、それは忘れられた存在ではなく、無視していい存在でもなく、確固たる何かの実体を持っている。ちょうど今の科学が照らし出せない、宇宙空間のダークマターといわれる存在のように。

 二重ラセンはベッドから抜け出し、スマートフォンの時間を見て、目覚ましを止め、服を身につける。夜の十時だ。


 繁華街の中、押しつぶされたようなビルの狭い階段を下りて地下二階の店。狭い上に客はあまりいない。糸原は先に来ていた。二重ラセンは黙って隣に座る。何の挨拶もなく、糸原は話し始めた。

「こないだの奴な、なかなか面白かったぞ。無愛想だが個性的だ。ほら、カラスって似顔絵描きな」

 甲高い声で、何を言っても小馬鹿にしたような軽い調子に聞こえる。

「協力してくれるって?」

「おう。なかなか面白いデータが取れそうだ。お前の名前を出したら、嫌な顔してたけどな」

 二重ラセンはマスターに注文する。酒を飲む気分ではないが、とりあえず水割り。糸原は何やら毒々しい赤いカクテルなんか飲んでいる。どうせ抽象的で妙な注文をしたのだろう。

「あいつと仲は悪いよ……いや、僕が一方的に嫌ってんだけどね。人の顔見ては輪郭の話をするが、妙な第六感を持っている奴だ」

「確かにあんたらの輪郭はどうたらとか言ってたな。しかし、お前の口から第六感なんて言葉を聞くとはね」

「いや、普通だよ。僕の周囲じゃみんな何かしら第六感を持っている」

「カラス君は、金をくれるなら脳のデータなど好きに持ってって構わんと言ってくれた」

 それを聞き二重ラセンは鼻で笑う。あいつらしい。

「絵描きは金に困っているからな。まあミュージシャンもだけど。しかし、本当に脳のデータから人格を再現できるのか?」

「ん? 理屈の上じゃできるよ。ただ、今の技術でデータの一部を使って人格を作ってもあっという間に崩壊する」

「どうして? 脳なんてコンピュータと同じだって、いつも言ってたじゃないか」

「脳だけあってもダメなんだよ。人格の多くは五感を統率する感覚器のデータ処理だ。つまり視覚や聴覚、触覚などの入力と、運動器官などの出力が揃ってないと。システムだけあっても正常に動かない。ほれコンピュータだって、CPUだけあっても何もできないだろ」

「じゃあバーチャルリアリティの中に人間を出現させるのは?」

「まだ無理ってことだ。仮想の感覚器なんてとても作れやしない……が、まあ、いずれできるだろう。今はまずデータ収集だ」

「できないなんて言ったら、君の仕事がなくなるもんな」

「可能性はなくならないさ。テストもちゃんとやるぞ。もう計画だって立ててある」

 糸原は低く笑った。何かとニヤニヤ笑いでヒヒヒヒと声を立てる。マンガみたいな男だ。

「あーところで、お前からもらった例の物は、乾って奴に渡しといた。ほら、トリなんとかっていうライフゲームな。乾の研究所がスパコンを持っている」

「解けそうか?」

「チョロいだろ。八ビットコンピュータでも動かせるチャチなプログラムだろ? 答えなんかあっと言う間に出る」

 糸原は気軽な調子で言うが、二重ラセンの表情は明るくない。

「あのライフゲームは三色使っていて、そのルールはほぼ無限だ。その中からたった一つ生まれた奴だ。僕も走らせてみたが、どうも画面を見ていて変な気配がする」

 糸原はまた低く笑う。

「お前らしくない。俺は別に何とも思わなかったね。お前さんは高円寺とやらでクスリのやりすぎじゃないのか?」

「クスリはやってない」

「あのライフゲームの作者連れて来いよ」

「死んだ」

「死んだぁ? なんでぇ?」

 トリメロースと名付けられた三色ライフゲームの説明を聞こうと緑川にメールを出したものの、その返事が一向に来なかった。リルカに頼んで、緑川を連れてきた小野という彼の会社の同僚の女に訊いてみたら、彼は死んだなどと言う。

「へえ、じゃ、なに? あのライフゲームを見ていると、体内に凶悪ウィルスが発生するとか?」

 そんな小説を読んだ気がするが、いちいち思い出していられない。

「自殺らしい」

「ほほぅ、事件ですな」

「いや……まあノイローゼみたいなものらしいな。自殺の前には会社に来たり来なかったりしていたらしい」

「なるほど……それであのライフゲームに何かあると」

「例の現象が気になる。ある移動体が増殖し、その後全部消えてしまうって。それで、今度はその……渡したヤツにも会えるのか?」

「乾か? 多分ね……まあ、俺と同じように引きこもって機械に囲まれて研究ばかりしているヤツだからさ、気が向いたら来るぐらいだろう」

 何か手がかりでもいい、つかんでほしいものだ……二重ラセンは期待したが、答えが何となく怖くもある。例の現象が出ないか、二重ラセンも何度もトリメロースを走らせてみたが、そんなことは一度として起きなかった。手がかりを見つけるのは容易じゃないだろう。


 妃紗の目の前にいるカラスは、さっきから黙ったまま真剣な表情で描いている。上野公園で初めて目を留め、似顔絵を描いてもらおうとしたが、風呂に入ってこいなどと言われた。そのことを二ヶ月経って思い出し、自宅の風呂場で久しぶりにシャワーを浴びたところ、体を流す水がどす黒く汚れていた。石鹸を使って洗うが、洗っても洗っても水が黒い。これには驚くと同時に血の気が引くような気分になった。こんなに自分は汚れていたのか。自分に対しては嗅覚が完全に麻痺している。やっと体がきれいになり、多少いい服を引っぱり出して、それを着てカラスの前に来た。今日上野に来た目的はそれだけだった。カラスは黙って描き始めた。

 妙に余裕のない、真剣な目をしていると妃紗は思った。やっぱり画家はこういう目をするものだ。美術部も真剣だったが次元が違うと思った。自分の目は自分で見れないので分からない。

「忘れたかと思ってた」

「忘れてました。思い出したんで来ました。確か、人に会わせてくれるんですよね」

「ああ、そうだったな……運良くちょうど今日ライブがあるよ」

「ライブ?」

「そいつは音楽をやっている。男女のユニットだが、問題は男のほう。女は俺から見れば普通だ」

「その男の人が、多世界とか分裂とか」

「最近はライフゲームがどうたら言ってるが……俺にはさっぱり分からない。相手してみてくれ」

 話すのは苦手だと妃紗は思った。ただ、どんな人かは少し興味がある。

「できた」

 カラスは画用紙を画板から外し、妃紗に渡した。妃紗はやや驚く。黒い線で輪郭を描いた似顔だったが、線がはっきりと二重になっている。まるで自分が分裂しているかのようだ。

「これは……どういうこと?」

「俺がききたい……君のすぐ隣にある世界を君はしっかりと抱え込んでいる。だから二重になる。俺にはそう見える」

 カラスは画材を片づけ始めた。妃紗は言葉もなくカラスを見ている。隣にあるが、行けない世界。それは母に愛され、光が灯ったはずの世界だ。その存在は確信しているが……それをカラスが見抜いたというのだろうか。

「もう一人の私がいるの?」

「いや……どっちも君自身だ」

「分からない……今の自分じゃない自分が、どこかにいるとは分かっているけど」

「つまりそれも自分ってわけさ。大丈夫。うまくやっていける……じゃあ行くか」

「どこに?」

「さっき言ったろ。ちょうどいい機会だ。会わせるよ」

 カラスは立ち上がった。


 命流れ狂う 苦しき

 命流れ狂う 苦しき

 赤き命引き裂かれしのち

 赤き命引き裂かれしのち

 見よ樹状の命を

 君の目に焼きつけしのち

 霧となりて消ゆ


 涙流れ狂う 苦しき

 涙流れ狂う 苦しき

 愛し君引き裂かれしのち

 愛し君引き裂かれしのち

 見よ樹状の命を

 去りゆく君の幸願いしのち

 屍となりて消ゆ


 打ち込みの電子爆音の中で、絶叫ともつかないリルカのヴォーカルに妃紗は見とれていた。左腕に幾筋もの血を流し、まるで今夜で命が尽きるかのように叫んでいる。振り回した腕から飛び散った血の滴が妃紗の顔にもかかった。カラスは彼女は普通の子だと言ったが、全く普通ではなかった。無表情でキーボードの演奏している二重ラセンのほうがよほど普通に見える。

 持ち時間が終わると同時にリルカは倒れ、ファンともスタッフとも分からない人達に抱えられて、並べた椅子に寝かされた。手早く腕に包帯が巻かれる。あらかじめ用意してあったらしい。爆音は終わり、店内は静かな感じのジャズがBGMで流れ始めた。妃紗はまだ呆然としていた。

 樹状の命……自分の幻覚もまさにそれだと思った。命は樹のように育ち、枝分かれをしていく。時々光を灯しながら生きるが、自分が知るのはたった一つの枝で、あとは別世界に生きる別の自分が無数に存在するのだ。今の自分より幸せかもしれないし、不幸かもしれない。でもそれは確かにあるはずだ。ただリルカの歌うのは、手に伝っていく自分の血のことらしい。ライブハウスも初めてなら、人々の前で本当にリストカットする人間を見るのも初めてだった。

 妃紗はここに連れてきてくれたカラスを探した。カラスは誰かと話していたが、妃紗に気づいて近づいてきた。

「どうだ?」

「どうだって……なんかすごい」

 そうとしか形容ができない。

「あのキーボードが二重ラセンってヤツだ。しょっちゅう多世界だの宇宙の始まりだのと言ってる」

「それより、ヴォーカルがすごいよ。本当に腕切ってんだもん」

 カラスは苦笑した。

「うーん、まあ初めて見るヤツは驚くよな。前もあれ見て気絶した男がいたし。うん、そうだ、そいつも面白い輪郭持ってたんだが。最近見ないな。まあそれより、ああいう病んでいるのはこの辺じゃ珍しくない」

「病んでいるの? それで歌っているの?」

「君だって病んでて絵を描いてるじゃないか」

「えっ……私は別に……」

 病んでないと言いたかったが、何かよく分からない。何日も風呂に入らなくて平気なのは、病んでいるからかもしれない。

「なんだカラス、来てたんだー!」

 いきなりそばで大きな声がするので、見るとリルカがすぐ隣に来ていた。寝かされていたが、もう起きあがってきたらしい。カラスと知り合いのようだ。妃紗はやや緊張する。リルカは声を出し過ぎたのか、かなりかすれている。

「俺はいつだって来ているよ」

 妃紗はリルカに、何か話しかけたいと思った。

「あの、腕、大丈夫なんですか?」

 リルカはそれを聞いて、面白そうな顔でカラスと妃紗を交互を見た。

「ああ、彼女。上野で知り合ったんで連れてきた。多分二重ラセンと話が合うよ」

「あの学者と? あんたもしかして頭いいの?」

「い、いいえ……」

「ちなみに彼は女に興味ないからね。引っかけようったって無駄よ」

「この子は絵描きだ。上野の美術館で絵が出てた。ほら、サリーが隅っこの方に出てたやつ。同じのに出てたんだ。はっきり言って、この子の方がうまい。才能がある」

 さらっとそんな比較をされ、少し浮ついた気分になる。

「うそ……もしかしてあの賞取ったの?」

「いえ、賞は取ってないです」

「何の絵だろう……あたしも行ったんだよ。うちらのアルバムジャケット描いてくれたサリーってのがいるんだけど、それが出てたんだ。あんたの絵どんなだったの?」

「ええと……樹がたくさん並んでいます」

 それを聞いてリルカは喜んだ。

「ああ、それ知ってる! そうなんだーあれすごいよね。超細かくて衝撃だったよ。よく覚えてる」

「あれがまさに無限の分裂だ。二重ラセンの口癖だもんな」

「ラセンも見に行ってるから覚えてるんじゃない?」

 妃紗が二重ラセンを探すと、キーボードを片づけ終わり、部屋の隅の方に座っていたが、傍らに太った男がいて何やら近寄りがたい。ついその男のほうを観察してしまう。

「あ、隣の子はワタル君ね。ラセンの彼氏。おとなしい子だから大丈夫だよ」

 妃紗が何に注目しているかに気づいて、カラスがそんなことを言う。


 今日の演奏は手抜きだった。二重ラセンはワタルにもたれながらぼんやりと考える。演奏どころではなかった。もっとも、楽曲はほとんど打ち込みなので、自分はキーボードを弾いている振りだけしていても一向に構わない。

 昨日、例の店でまた糸原に会った。約束通り、乾を連れてきた。あのトリメロースの秘密がもう解けたという。

「だからチョロいって言ったろ」

 糸原はそう言ってまたイヒイヒ笑ったが。二重ラセンはどう解析できたのか聞くまでは納得できない。緑川はトリメロースができて以来、精神が壊れていき、命まで落とした。いや、トリメロースのせいかどうか正確には分からないが、何か一度だけ衝撃的なものを見たことは確かだ。

「まず、まずですね、これを見てほしいのです」

 乾は、ボソボソした声で言う。同じような研究職でありながら、糸原は商社の営業でもおかしくないような軽さがあるが、乾は対照的に、いかにも地下に潜って秘かに研究をしている怪しい男の雰囲気だ。乾は大きめのタブレットコンピュータを持っていた。操作すると、早速トリメロースの画面が現れた。赤い核を持つアメーバのような移動体がうごめく世界。

「これが、あなたからもらったライフゲーム、トリメロースです」

「そうだな。この感じはいつも見ている」

「さてしかし、これでどうでしょう」

 乾が指先で画面内を操作すると、赤と黄色のドットで構成されたあるパターンが現れた。乾の指先に従って動いている。

「これを、この辺に置いてみますね」

 乾がパターンを配置した。それは置かれるとすぐに斜めに移動していく。これも移動体だ。そしてアメーバ風の移動体にぶつかった。すると、それらは混ざり合い、しばらく乱れた状態になるが、やがてアメーバ風のものは消え、乾の移動パターンが再び現れた。斜めに移動しているが、さっきとは方向が違う。パターンが九十度回転しているようだ。あるパターンが場を支配したという、緑川からの報告を思い出す。

「見つけたのか?」

「多分ね……今にもっと面白いことになりますよ」

 パターンは何かにぶつかると、大抵は相手を吸収し、方向を変えるが、ある場面では二つに分裂した。そしてまた何かを探し回るように動いていく。不思議なことに消えることがない。場がルールに支配されているはずの、セルオートマトンを見ている雰囲気ではなかった。乾のパターンは分裂を続け、増殖し、画面内を埋めていく。そして画面全体が埋め尽くされるその時、その最後の点を中心に円形に全てが消滅していき、やがて何もなくなった。緑川の報告の通りだ、あるパターンが支配し、世界を消滅させた。二重ラセンは呆然とする。

「確かにこれだ……緑川から聞いたことそのままだ。よく見つけたな」

 二重ラセンは感心するが、乾はあまり表情を変えない。

「んーまあ難しくはないですよ。あるパターンって話でしょ。最後に全部消滅するって話でしょ。パターンってぐらいだから、まあ縦横十二ドットぐらいまでですかね。ダメなら増やせばいいしね。十二かける十二ドットの全部の組み合わせパターンを一から試すわけです。適当な大きさのトリメロースのフィールド内にランダムに点を置いて、パターンを置いて走らせて、まあ一万ステップぐらいかな。で、画面内に生命体が全部なくなったヤツをピックアップ」

 二重ラセンは目を丸くする。

「一から試すって……膨大じゃないか」

「スパコンですし。並列処理もできるし。いちいち画面に映さなくてもいいし。時間はかかりません……と言ったらさすがに嘘になるけど、まあ一週間ぐらいで答えが出ました」

「だからラセン君よ、チョロいって言ったろ。お前の頭は十年遅れてるんだよ」

 糸原がからかうように言う。二重ラセンはまじめな表情を崩せない。

「それで……それで、あなたとしては、このパターンは何だと思う? 生命現象だと思うか?」

 生命現象とは、自分でも意外な言葉が出た。

「んー……」

 乾はしばらく考えていた。分からないというより、どうやって伝えようかという顔だ。

「不思議な現象ですが、生命ではないでしょう。これは恐らく『エデンの園』配列と思われます」

「エデンの園配列?」

「知りませんか? ライフゲームの用語ですがね。意図的に配置する以外に、出現し得ないパターン。つまり、このパターンの直前のステップというのは存在しないんです。決して到達できないエデンの園のようなものなんで、そんな用語になっています」

「なぜこれがエデンの園配列だと言える?」

「解析はしてないですがね、いや、めんどくさいからやんないけど、とにかく一度も起きてないんですよ。あのパターンが出ると消えないで増殖して最後には全部を消滅させるでしょ。あのライフゲームを累計何億何兆ステップって走らせてるけど、あのパターンを意図的に置いた場合以外、一度も全消滅は起きていない。つまりまあ、確率の点から言って、あれはエデンの園配列だと思うんです」

 二重ラセンは考える。緑川は何て言った? この世界がセルオートマトンじゃないかと思っている。いや、彼の友達が言ったことだっけ。エデンの園によりもたらされ、分裂し、最後は消滅する。

「これがこの世界を象徴していると思うか?」

「はぁ?」

「いや、僕に依頼してきた人が、そんなことを言ってた」

「はあ、まあ、ありえんでしょう」

 乾はあっけなく言う。

「単純すぎます。これは単に計算上こうなっているというだけのものです。それに、これが世界の象徴だとしても、だから何だと言うのです?」

 乾は関心がなさそうだった。そしてそれは糸原も同じだった。

「もっと有意義なスパコンの使い方を提案してほしいよなあラセン君よ」

 二重ラセンは黙っているだけだった。納得はしたが、何か気に入らない。

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