[1-22] ゆっくりと帰りましょう
「宗谷、聖都に帰る準備は終わった?」
「えっ、ああ……。今日は母さんなのか」
宗谷は荷物を馬車に積み込んで、こちらを振り向いた。
「あら、悪かったわね。お母さんで」
「いや、そんなことはないよ。むしろ道中は長いからね。不機嫌なレヴィの相手をしなくて助かる」
「そうよ、それ。ちょっと聞いてよ。酷いのよレヴィアちゃんったら」
「なんだい」
ソーヤは馬車から降りると「スノー!」と馬を呼んだ。
するとあの妙に人なつっこい白くて大きな馬が、ひょこひょこと飛び跳ねながら近寄ってくる。
「あの子ね、今、マンガ描いているでしょ?」
「BLだろ。レヴィから聞いたよ。母さんのお陰でなんか全部売れたんだって? ほどほどにしてよね。あれでも彼女はフェン公爵家の当主なんだから」
「何よ。私は別に、何もしてない……と思うわよ」
そりゃ、彼女が腐道に落ちるキッカケは作ったかもしれない。
だけど、まさか、ここまで暴走するとは思わないでしょ? それに腐女子は生まれながらの属性なのよ。抗えない運命なのです。私は悪くない。
「って、そうじゃないわ。あの娘ったらね。自分はマンガの練習をしたいからって、帰りも私に押しつけたのよ。それって、どうなのよ。行きは私だったんだから、帰りはレヴィアちゃんでしょ。そしたら、遠征は自分が行ったから、ですって」
「ん〜、どうなのかな〜」
「何よ。ああ、そうなの。宗谷はやっぱりお母さんよりもレヴィアちゃんの味方なの」
「え〜、なんか面倒くさいなぁ」
「ひどっ」
ぐぬぬ、おのれ宗谷め。
はやくも嫁の味方か。そんなんだったら、もうご飯つくってあげないぞ。嫁いびりもするぞ。ちょっと味付けが濃すぎるのではないかしら? レヴィアちゃん? ウチは昔から白味噌と決まってるんです!
「僕は母さんのほうが助かるからね」
「むぅ」
「まぁまぁ、機嫌を直してよ。そうだ、スノーに乗ってみないかい? 乗ってみたいって言ってたじゃないか。行きと違って急ぐわけじゃないし、乗馬の練習でもしながらゆっくり帰ろうよ」
「えっ、本当?」
「ああ、スノーは大人しくて乗りやすいから初心者にはうってつけだ。聖都につく頃には、多少は乗れるようになるんじゃないかな。ウィスさんたちは先に帰ったし、道中の護衛はフェン家の人たちだから気兼ねしないで済むし」
「やったー」
いや〜。実は乗ってみたかったのよ。馬。
しかも白馬ですよ。ふふ、これで私も白馬の王子様になれる。
「ソーヤ」
私がさっそくスノーちゃんの美しい毛並みをなでていると、向こうからこちらに近づいてくる一団があった。クヴァルさんとカーラさんだ。
「クヴァル様、それにカーラ様まで」
「もう、聖都に戻るのか」
「調査の続きもありますので」
「そうだったな。何か糸口は?」
「いいえ。まずはミハエル王子の派閥として潜入はしましたが」と宗谷は声を潜めた。「少なくとも、ミハエル王子は違うと思います。あそこにはヴァン様もおられますし」
「だろうな。……お前には苦労をかける。お嬢の相手もしなければならぬというのに。すまないが、引き続き頼めるか」
「はい」
ん〜。何やら二人で思わせぶりなヒソヒソ話してる。
宗谷はこちらの視線に気がついたのか、声色を明るくした。
「それに、学院はレヴィに必要なことだと思います。彼女、友人が少ないですから」
「ふっ。まぁ、そうかもな」
いえ、レヴィアちゃん、学院では全然よ。孤高を自ら貫くぼっちよ。陰口をたくさん叩かれているんだから。
友達なら、むしろBL界隈のほうでつくったりしてるわよ。前に勝手にライバル宣言した森沼さんと、いつの間にかTwitterでフォローしあってたし。
「それにしても……そのお嬢のことだが、」
クヴァルさんがこちらを向く。
「今は母さんです」
「ああ、そうでしたか。正式にご挨拶するのは初めてです。カーラから詳細は聞いております。ソーヤのお母様。フェン公爵家、家宰をしておりますクヴァルと申します」
あら、クヴァルさんの腰がやけに低い。
「こちらこそ、宗谷の母です。息子がお世話になっております」
「いえ、そんな事はありません。むしろこちらこそ、恥ずかしながら公爵家は彼に助けられています家宰として不甲斐ないことですが、何せ当主が難しい性格をしておりますので」
レヴィアちゃん相手でなければ、クヴァルさんは随分と印象が違うのね。
もしかしたら、あの意地悪な態度はレヴィアちゃんに対してだけのもので、普段はちゃんとした人なのかもしれない。ごめんね。勝手に鬼畜眼鏡って呼んじゃって。
「いえいえ、わざわざお見送り頂きありがとうございます」
せっかく覚えたのだから、内心では使いたくてたまらなかった会釈をする。
「カーラさんもお見送りありがとう」
「ええ、これからもレヴィア様をよろしくお願いします」
「ええ」
よろしくと言われましても、彼女はBLマンガなんぞ描いてますが……。
「それと、ソーヤ」
鬼畜眼鏡、もとい、クヴァルさんが表情をあらためて宗谷に向き直った。
「渡したいものがある」
「はい」
「まずはこれだ」
クヴァルさんは腰に下げていた剣を鞘ごと取り出すと、それを宗谷に差し出した。
「これは? 長剣ですか」
「私の魔術工房が鍛冶を得意としているのは知ってるな」
「というと、これはスヴェロ家の剣ですか?」
「ああ、実は俺自身の作だ。新作ではあるが、スヴェロの当主が打ち鍛えた剣だ。聖都でも名を知られた工房のつもりだ。お前の腰に下げても見劣りをするまい」
「そんな、大変なものを頂きました。大切に使わせて頂きます」
「ああ」
おお、なになに? 伝説の剣? 伝説の剣の入手イベント発生?
それにしても鬼畜眼鏡め、ウチの息子に自分の剣をプレゼントするなんて油断のならぬ奴じゃないか。ねぇ、深い意味はないよね。剣と鞘の意味深な関係性なんて、含んでないわよね。ねぇ、そこらへん大丈夫かしら?
「私からはこれを」と、今度はカーラさんからだ。
「これは……鈴ですか」
あっ可愛いー。いいなー。
カーラさんが宗谷に渡したのは、細かい意匠が施された銀製のハンドベルだ。ものすごく素敵で、手渡された拍子に、リン、と涼やかな音が寒空に駆け抜ける。
めっちゃ、素敵じゃん。
流石は女を極めたカーラさん。贈り物もセンスが違うわー。憧れちゃうなー。
「ええ、フェン家の銀細工に私が趣味としている音響魔術を組み合わせたものです。これを打ち鳴らせば、催眠や洗脳、そういった類の魔術をうち破る効果があります」
「そんな貴重なものを」
「本当はレヴィア様に贈呈したかったのですけど、受け取ってくれないでしょう? ですから、ソーヤが側にいてあの子が間違った時に振り鳴らしてやってください」
「かしこまりました。頂きます」
宗谷はその鈴を両手で頂き、腰のポーチに大切にしまった。
うう、なんか、ものすごく羨ましいなぁ。私も何か欲しいな〜。魔法のアイテムとか薬とか。ねぇ、なんかないの?
「それと」とクヴァルさんが咳払いをして言う。「これは、ソーヤが受け入れるのであれば、なのだがな」と妙に口調が堅い。
「なんでしょうか」
「いや、うん。まぁ、なんだ。よく考えればだ、貴族ではないお前が、聖都では肩身の狭い思いをしているのではないか、とな。そこに気がついたのだよ」
どうにも歯切れが悪い物言いだ。
それを横で聞いていたカーラさんが、くすり、と笑って説明を引き継いだ。
「学院で、レヴィアの従者としてでは何かと不都合でしょう?」
「ああ、なるほど。大丈夫ですよ。それに、魔術が使えない僕ではどうしようも」
「そんな事はありません。確かに、魔術科は無理でしょう。しかし、魔術が使えずとも文官、武官を問わずこれを養成するのも学院の責務です。例えば、今の騎士団長であるヴァン様も魔術は使えませんが、聖王国の要職を担っているでしょう」
「はぁ」
「まぁ、ヴァンの奴は一兵卒からの叩きあげゆえ、学院の騎士科を出ているわけではないがな」
クヴァルさんが横から口を挟んだのを、カーラさんは肩をすくめて無視した。
「ただ、魔力のない者が学院に編入するにはしかるべき貴族からの推薦が必要になります。これまで、その配慮がなかったことを謝罪させてください」
頭を下げたカーラさんに、ウチの息子は大げさに手を振った。
あの宗谷の慌て振り。やっぱりか。
宗谷の初恋は小学校の先生だったもんねー。それも保健室の先生。あの時の感じにそっくりだ。年上のお姉さんに弱いんだから、まったく。でも、レヴィアちゃんはどうするのよ、ねぇ。
「いえ、そんな。実際、聖都では結構忙しかったですから。暇があれば、ヴァン様から手ほどきをつけて頂きましたし」
「ふふ、騎士団長の訓示を得られるようなら、あなたこそ学院の授業は不要かもしれません。しかし、どうでしょう。受け入れて貰えませんか」
カーラ様がそういって、手の平にのせて見せたのは二つの指輪だ。銀糸で精巧に編まれた綾取りの指輪。
「一応だが、私も用意した」
クヴァルさんも慌てた様子で差し出した。そこにも綾取りの指輪が一組のせられている。
「学院の騎士課程に入るためには、貴族との綾取りが必要となります。本来は、村の優秀な若者を留学させ、その土地の貴族が召し上げるための制度なのですが……。まぁ、私たちの爵位であれば多少の例外も大丈夫でしょう」
「そ、そんな」
宗谷は恐縮して縮こまってしまった。
ん〜、えーと、これって凄くない? 凄いよね。
カーラ様はフェン公爵家の筆頭貴族で、クヴァルさんは家宰だ。そんな二人から綾取りの指輪を交わすなんて、それなんて大貴族?
「私は小指の指輪を、クヴァルは親指を用意しました。目の前にお母様がいて恐縮ではありますが、この相指(あいし)はそれぞれが親代わりであることを意味します。これで、誰もソーヤの身分に難癖をつけることは出来なくなるでしょう。私としてはこの小指はレヴィア様と交わしたいところなのですが、彼女はご存じのとおり恥ずかしがりなので」
そういう法螺を堂々といってのけるところが、まさにカーラさんだわ。
「ソーヤ。受け取ってくれるか」
ん〜。クヴァルさん、なんか乙女チックになってない? えっ、鬼畜眼鏡なのに受けなの? ちょっとキャラがブレてない?
「お二人とも、ありがとうございます」
宗谷は、しかし、流石は我が息子です。
まさに天然たらしの総受けだ。無邪気にクヴァルさんの指輪をつまみあげると、それを完全にメスの顔になった鬼畜眼鏡の親指にはめる。
その瞬間、ぱぁ、とクヴァルさんの表情がはなやいだ。
その後、彼は慌てて宗谷の親指に指輪をはめ返した。
ちなみに、カーラさんの方は流石でした。
優雅に宗谷の指を絡めて、まるで前戯のような艶めしい手つきで指輪を交換してました。今度は、宗谷のほうが顔を真っ赤にしていた。
ちょっと、反則じゃない?
あの人、存在自体が18禁なんだけど……。あんなエロい仕草で指輪交換とか思春期の男子にさせちゃいけませんよ。レヴィアちゃんが可哀想。
……そんな感じで私たちはフェン公爵家を後にした。
約束どおり、スノーちゃんに乗せてもらって、宗谷は最初の内は並足で慣れるべきだといって、スノーちゃんの轡(くつわ)を手に街道をゆっくりと歩いていく。
そんな感じで、揺られること15分くらい。乗っているだけなのに、乗馬って疲れるのね、などと思い始めたころだ。
「ソーヤ!」
上から声が聞こえてきてビックリした。
首紐をぎゅっと掴んで上を向くと、ど、どら、ドラゴン!?
「ヘイティか?」
すると、一人の男の子がドラゴンから飛び降りて目の前に着地する。
「おいおい、俺に挨拶もなく帰ろうったぁ、薄情なやつだな」
「商館には何度も顔を出したさ。だが、お前はずっと留守だった。何でも、仕事を放りだして飛竜を乗り回しているらしいじゃないか」
「おうよ。オレは今、こいつに夢中でよ」
その野性的な感じのする男の子の側に、青いドラゴンが降りてきて鼻を鳴らした。
お、おお〜。これが飛竜ね。確かにドラゴンだわ。
「また、行っちまうのかよ」
「ああ」
「ふん。なんだいなんだい。俺たちは貧民街の最強コンビだったろう」
「別にそれは変わらないさ」
「あったりまえだ!」
ふっ、と宗谷が笑った。
「また会えるさ」
「ああ」
あ〜。そうか。
この人がヘイティ君なんだ。ソーヤのお友達だと聞いている。ふふ、いかにも噂通りの男の子ねぇ。悪くないわ。可愛い顔だちしてるし。
「ほう、ワガママお嬢様も一緒かい? ちょうど良かった」
ヘイティ君は、こちらを覗き込んでくる。
「あ〜、いや、なんていうかな」
「なんだなんだ。別に会うのが初めてってわけじゃねぇだろ。それに、オレはテメェのお嬢様のこと実は気に入ってんだ。おっと、勘違いするな、テメェが妬くような意味じゃねぇ。ただよ。貴族にしては話が分かる女だってぇ意味だ」
「ああ、まぁ、そうなんだが。今のレヴィは、な」
「なんだよ。まごまごしやがって」
ソーヤがこちらを見て、問いかけるように首傾げた。
悩んでいるならいいんじゃないかしら? と首を縦にふってあげる。どうせ、カーラさんとクヴァルさんにはバレたんだし。お友達に隠し事ができるような宗谷じゃないしね。
「実は、今のレヴィはレヴィじゃないんだ」
「ああ? そいつはなんて謎かけだ」
「謎かけじゃなんだ。今のレヴィは他の人格と入れ替わってる。その、僕の母さんに」
「……おいおい。ママのおっぱいが切れて、頭がおかしくなったか?」
「正気だよ」
よいしょっ、とスノーちゃんから飛び降りて、地面に立つ。
あ〜、やっぱ若い娘の体はええのぅ。こんな高いところから飛び降りても、どこも痛くない。これがおばさんの体だったら、膝に致命的なダメージが入ってるわ。
「ヘイティ君、だったかしら」
「へいてぃ、くん?」
と、ヘイティ君は苦い薬を口にいれたような表情でこちらを見る。
「うちの宗谷がいつもお世話になっています。色々聞いてるわ。とっても頼りにしている友達なんだって。宗谷が言ってたわ。マブダチだって」
「って、おい。これって」
呆然と口をあけて、ヘイティ君が宗谷を見る。
「本当だ。僕の母さん。魔術で入れ替わってる。時々な」
「……マジかよ」
「マジだ」
「あ〜、えーと。お母さまでございまするか」
ふふ、これは確かに面白い子だわ。
「はい。これからもソーヤと仲良くしてあげてください」
「はぁ。まぁ、ソーヤとはずっとダチなんで」
「お願いします」
頭をさげると、ぎこちない様子でヘイティ君も会釈を返してくれた。
「あっ、ってぇ事は……困ったな。オレはワガママお嬢様のほうに用事があったんだ」
「レヴィに?」
「ああ、スマホの術だよ。あの指輪と鏡の作り方をよ、ファーの奴に教えてくれって頼んでんだ」
「ファー?」
「あの村から助けた田舎貴族の女だよ。ファーヴェ」
「お前、相手は貴族だぞ」
「うっせぇな。オレにそんなの関係ねぇって分かってんだろ。大体、アイツはもう家無しじゃねぇか。ますます関係ねぇ」
面倒くさそうに顔を歪めたヘイティ君に、宗谷はにじり寄った。
「お前、あの子にひどいことしてないよな」
「はぁ、なんだよ。身寄りがねぇからオレのところで預かってやってんだ。人が、親切にしてやってんのによ」
「お前には色々と前科があるからな」
ふむ、どうやら女遊びがひどい子のようね。
まぁ、可愛い顔もしているし、熱をあげてしまう娘も多いのでしょうね。宗谷が眉をひそめるような、事もあったのかもしれない。う〜ん、まぁ、私としては女を弄ぶ遊び人キャラが、男同士の関係に真実の愛を見つける展開は大好物だから別にいいけど。
それにしても、そのファーヴェって子には思い当たる節がある。確か……。
「それって、もしかしてレヴィアちゃんが言ってた貴族の娘さんね。大人しい感じの」
「そう、多分それだよ。あのワガママ嬢ちゃんは、偉大なる我らの母上が選びし者にしかあの秘術は明かさぬ、とかなんとか言ってやがった」
あ〜。だったらあの子ね。
「大丈夫よ。あの子はレヴィアちゃんに認められました」
「認められた?」
「ほら、この黒い糸の指輪」
左手の手袋を外して、人差し指を掲げて見せた。
その指には宗谷の白い糸の指輪と対を成す、黒い糸の指輪がはめられている。
「これと同じ指輪があの子にもはめられているわ」
「ほう」
「これで遠くからでも、あの子に魔道具の作り方を教えてあげられるってレヴィアちゃんが言ってたわ」
「そ、そうか。やった!」
そんなこんなで。
ひとしきりはしゃぎ回ったヘイティ君は、しばらくソーヤとおしゃべりをしていた。それを横で眺めていた私は、宗谷がこちらの世界でも友達を作っていたことが分かって、とても満足な気持ちになる。
そして、しばらくするとヘイティ君は飛竜に乗ってどこかに行ってしまった。
そんなこんなで、長かった私たちの旅は終わり。
私とソーヤはようやく聖都への帰路についた。私はスノーちゃんの背中の上で、ソーヤはその横に並んで歩きながら、雪道の街道をザックザックと歩いて行く。
「こっち世界でも、友達がいっぱい出来たのね」
「ん?」
「ヘイティ君に、クヴァルさんとカーラさん」
「クヴァル様とカーラ様は友達じゃないよ」
「あと、スノーちゃんも」
「スノーとは友達かな。ねぇ、母さん」
「なに?」
「スノーは実はレヴィの馬なんだ。レヴィが誕生日の時にお父さんからプレゼントされた馬。実はかなりの名馬なんだよ」
「へぇ〜。それがどうして宗谷の馬に?」
「レヴィが乗らないからさ。それでね、ヘイティと初めて会った時さ、あいつ、スノーを馬小屋から盗もうとしてたんだ」
「まぁ、それで」
「それでね……」
雪が降り積もる街道を、私たちはおしゃべりしながら進んでいく。
すっかり逞しくなった息子の背中は、私が想像していた以上に大変な経験をつんでいた。もう大人になったんだな〜、と思うとちょっと切ない気持ちになる。
だけど、お母さんは安心しました。
あんなに良い人たちに巡り合えたのなら、きっと宗谷は大丈夫でしょう。
目の前に広がる雪原は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
——1章:終了
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