第16話
栗毛の
集落の入口である門の前には、警備兵らしき翼の民が二人立っている。彼らはハルエナを見て片手を上げた。
「おかえりハルエナ。……その人たちは?」
「リュッコに乗ってオルシャン島へ行きたいんだって」
ハルエナの言葉を聞いた警備兵らの視線が、好奇心旺盛な眼差しからみるみる険しいものへと変化していく。
「また財宝目当ての奴らか!」
「財宝?」ロンがおうむ返しに訊くと、警備兵は憤然たる様子で腰に手を当てた。
「そうだ。これまでも山脈に忍び込んじゃあリュッコでオルシャン島に渡ろうとした奴が大勢いる。オルシャン島には財宝が眠ってるなんて嘘っぱちの情報信じちゃってさ。お前らもどうせ財宝狙いのロクでもねえ奴らなんだろ!?」
警備兵の言葉に、ロンは咄嗟に反論しようとしたが、クオリスの怒鳴り声がそれを遮った。
「財宝など知らない!私は竜族の故郷に行くための手段を探しているのだ」
クオリスは不機嫌そうに目を吊り上げた。大人しく頭巾の中に収まっていた彼女の二枚のひれも、いらついたようにうねる。
急にひれを動かし、頭巾を押さえていなかったため、クオリスの頭を覆う頭巾がすぽりと抜け落ちた。警備兵はぎょっと目を剥いた後、「へぇそうかい」と言って、ややばつが悪そうに顔を正面から背けた。
「一体何事です」
涼やかな声が、警備兵らの後ろから聞こえた。見れば、そこには簡素な衣を纏った美女がいた。薄青の髪を後ろで一つに束ねていて、声と同じく涼しげな顔である。彼女の、女の証である豊かな盛り上がりを強調するかのように胸元を開けているその服装に、ロンは赤面した。女はクオリスの側頭部から伸びる長く美しいひれに驚いた素振りを見せたが、すぐに落ち着いた表情に戻った。彼女は、ロンとクオリスを見て口を開いた。
「私はフュレン。翼の部族の長の娘です。今不在の長に代わり、民たちの指揮を執っています」
女――フュレンが名乗り終えると、警備兵の片割れが彼女に簡潔に事情を説明する。
警備兵の話を聞き終えた女は、しばらく考える素振りを見せたが、ややあって顔を上げ、警備兵らの方へ顔を向ける。
「そちらの彼女は竜族の方と見えます。それに、この少女たちが財宝など求めていないことはわかるでしょう」
フュレンがたしなめるような口調で警備兵二人を黙らせた。先頭に立って歩き出したフュレンを追い、ロン、クオリス、ハルエナの三人も集落の門をくぐった。
「ご無礼を。長が戻るまでの辛抱です」
集落の中をしばらく歩くと、フュレンが苦しげに目を伏せ、片手を上げた。その途端、住居の陰から五、六人の男の翼の民が飛び出してきて、ロンとクオリスを取り囲んだ。ロンとクオリスの背に緊張が走った。互いに背中合わせにして、周囲を警戒する。
「ここは神獣リュッコの住まう神聖な地。故に、部外者に勝手な行動は許されておりません。非常に申し訳ないのですが、長が戻るまでのおよそ一日、拘束させてもらいます」
「フュレン……!」ハルエナが抗議の声を上げたが、フュレンはそれに構うことなく、その細い指でロンの腕を掴み、強く引いた。ロンはバランスを崩し、フュレンの胸に倒れ込むような形になった。
「貴様……!」目をぎらつかせて睨むクオリスの視線を受けながらも、フュレンはどこからか取り出した縄で手際よくロンの両手首を縛った。
「私も、本来ならばこのようなことはしたくないのです。後で縄は解きます。決して手荒な真似はしません」
「縄で縛るのが既に手荒な真似というものだ」クオリスはそう文句を言ったが、自分が竜に
手首の自由を奪われたロンとクオリスが連行されたのは、民の住居のうちの一つであった。そこは寝台と床に敷いてある草で編んだ敷物以外は何もなく、殺風景だった。
フュレンは、慣れた手つきで二人の縄を解いた。
「集落内を動く時は、民を同行させてください。不便があればその都度、言っていただければ」
彼女の言葉に一応頷いたものの、拘束されるというのはあまり気分のいいものではない。やむを得ない事情があるとはいえ、何だか罪人になったような気分になる。
二人が大人しくしているのを確認すると、フュレンは「申し訳ありません」と頭を下げてから退室した。
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