第4部 この先に続くもの
第43話 喜びと哀しみの連続攻撃(ラグス目線)
「国境地域へ、ですか」
「ああ。数年は王都への帰還が難しくなると思う。それでも、お前たち、二番隊に任せたい」
ー 『二番隊に任せたい』
パウロ団長の言葉に、胸の奥が熱くなる。
「ついでに言っておくとね。パウロと僕、数年後には新国王の近衛団へ異動になるんだ」
「え?」
「はい?」
感動が胸の中を駆け巡った直後、それ以上の衝撃が、俺とマノンをに襲いかかった。
「…………聞いてない……」
「そりゃあそうでしょうな。極秘事項だもん」
「……本当かよ……」
「本当だねぇ」
内示書類を見ながら、マノンがそう答える。
「まあ聞かずとも、だけど、打撃を受けているのはパウロ団長が騎士団から居なくなることだよね?」
「他に何がある」
「いや、数年の派遣ってことは、なかなかアリスちゃんに会えなくなるわけじゃん? だから、そっちかなぁ? とも思ったんだけど」
「…………なんであえて口に出すよ……」
「あ、やっぱりそっちも大打撃だったのか」
イスに座ったまま、頭を抱え込む俺を見て、マノンが「ごめんごめん」と謝る。
「それにしても……驚きだねぇ……」
「……もう……どこから驚いたらいいのかすら分からねぇ」
「まあ……うん、なんていうか……うん」
お互いに、パウロ団長とノルベルト副団長から言われた言葉の衝撃をなかなかに受け止めきれずに、半ば放心状態になりかけている。
ふと。
「入るよー、ってああ、やっぱり」
俺たちと同じく、団長室に呼ばれていたオストとスプシアが、二番隊執務室へと足を踏み入れた。
「にしても……思った以上の驚き、というか衝撃というか……」
「うん。だいぶ」
「ああ、そうだ。新団長、おめでとうオスト」
「いや、マノン? まだだよ?」
「ああ、そうだったな、おめでとうオスト」
「ラグス? 君も話を聞いていたかい?」
扉をしめたオストに、マノンと俺とで次々に昇進祝いを告げれば、オストは思い切り困った顔をしながら言葉を返す。
「それに、ボクのことを言うのなら、ラグス、マノン。君たちだって次期 副団長就任が決まったじゃないか」
「俺たちの場合は、仮の仮の仮ぐらいの話だろ」
「そんな不確定な話を団長たちがすると思うかい?」
「…………」
オストの言葉に思わず黙り込めば、オストは困ったように笑う。
「団長のもとで働けなくなることが辛いのはよく分かるよ。けど、その団長たちが君たちを副団長に任命したんだ。その意味は分かるだろう?」
「……分かっては、いる」
すんなりと頷けなかった俺に、団長がほんの少しだけ困ったように笑っていたのも、気づいている。
貴方の下で、働きたかったのだ、と言った俺を、団長は覚えてくれている。
「ボクでは、役不足かも知れないけど」
「んな事はないだろ」
「どうだろう。でなければ補佐役が増えたりしないと思うけど」
「……オスト、それはむしろ、今まで居なかったことが不思議というやつでは無いでしょうか?」
オストの言葉に、スプシアが困ったような表情を浮かべながら口を開く。
「あのお二人は、歴代の団長、副団長の中でも就任歴が長かった方々です。いくら前団長、副団長が不慮の事故だった、とはいえ、かなり若い年齢で就任されて、とても苦労をなさった、と聞いています」
「それはオレも聞いたな」
「俺も」
「ええ。ですから、オストの実力が無い、なんてことではなく、次を担う世代が同じ苦労をしなくてもいいように、というパウロ団長とノルベルト副団長の心遣いでは無いでしょうか?」
スプシアの、ゆっくりと語る言葉に、オストの肩が少し下がったのが見て取れる。
「そもそも、パウロ団長とノルベルト副団長がそういった方だというのは、オスト、貴方も傍で見てきているでしょう?」
「…………そうですねぇ……」
机によりかかりながら、息をはいたオストに、スプシアが小さくため息をはく。
「ラグスとマノンもですよ。貴方たちだって、団長たちがどういうおつもりで二人を任命したのか。それくらい分かっているでしょう?」
「……一応」
「そうだね」
そうは言うものの、先行きの不安しかない状況に、はっきりと答える自身など、皆無に等しい。
そんな俺たちを見て、スプシアは大きくため息をついたあと、スッ、と背筋を伸ばし、両腕を背中へまわす。
「それならば、三人とも、いい加減、腹をくくりなさい!」
キリッ、と前を見据えたままのスプシアに、俺とマノン、オストの視線が集まる。
「貴方たちの背中に預けられたものは、何ですか。仲間の命そのものでしょう? 貴方たちに部下の命を預ける器量がある。パウロ団長とノルベルト副団長はそう判断した。ただそれだけのこと。それを、なんです? ウジウジぐじぐじと。そんなに覚悟が決まらないなら、今すぐ辞退してきたらどうです? 団長たちの思いごと、踏みにじってきたらどうです?」
一人一人を見ながら言い切ったスプシアの言葉に、少し遅れて衝撃が走るものの、次の瞬間には「ははっ、流石だね、スプシアは」とオストの声が聞こえる。
「うん、目が覚めたよ。すまなかった」
「……俺もだな」
「オレも」
雪解けのキンキンに冷えた冷水でも、頭からかぶったかのように、一気に視界が鮮明になっていく。
そんな俺たちを見て、スプシアは大きなため息をついたあと、ほんの少し頬を赤くして顔をそむける。
その瞳が、少し潤んでいたように見えたのは、ここだけの話。
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