第21話 神の悪戯

「私と結婚してくれませんか?」

「………わ………私ですか?」

悠仁から突然の求婚を受けた三姫は目を見開き戸惑いを隠せないでいた。まるで信じられないというように声が少し震える。


「他に誰か?」


悠仁は思わず「ぷっ」っと笑いを堪えるがわずかに顔に出る。何時ならここで「もう!また、バカにして」と言ってくる三姫の声が聞こえるのだが、それに気付く事ないくらいに三姫の頭は混乱している。


「い…いないですけど……その…いざ言われると、えーと、あの、その………」


珍しくもじもじする三姫に業を煮やさせられた悠仁はそのまま片方の手で三姫の手首を掴みつつ、空いたもう1つの手を三姫の後ろにある壁に手をつけると2人の身体が密着しかかる程に距離を縮めた。

「へ・ん・じ・は?」


悠仁は猫を可愛がるかのような優しい声で三姫の顔を覗きこむ。


「はっ、はい!私でよければ....」

「ふふふ、よかった」

悠仁は懐から小さな箱を出して三姫の前で開けるとそこにはキラリと光る指輪が納められていた。指輪は大きな一粒のダイヤを中心とし、左右に小さなダイヤが一粒づつ配置されている飽きの来ないデザインであった。


「指輪···?」

「そう指輪。欧州ではね、結婚相手に指輪を渡すのが習慣でちょっと取り入れてみたんだ。あっ本当は片膝を地面につきながら差し出すんだけど···こういう時に注目は浴びたくないからね。」

悠仁は優しく、でもしっかりと三姫の右手を手に取ると指輪を薬指にはめる。

「素敵!!煌いていて綺麗だわ! 」

指輪は街灯の明かりでキラキラ三姫の指の上で輝く。


--------



悠仁は何時ものように三姫を家まで送り届け終えると近いうちに三姫の両親へ挨拶に行くと伝えると帰宅した。


そんな三姫達から少し離れたところに人影が1つ気付かれないように、2人の様子を隠れながら見ていた。


その人影は、ほくそ笑むとその場から姿を消した。



悠仁からの求婚を報告する為に三姫は家族全員が集まっている部屋へと向かっていた。


悠仁様とお付き合いについて、お父様は1度も喜ばなかったわ。 確かに我が家と椿家が釣り合わないのはわかっているわ......。


でも......あそこまで落胆するかしら?


釣り合わないと言っても



ほどでもないわ。


三姫の足取りは喜びで羽のように軽くはなくむしろ、大きな重りがついたかのような感覚だった。


家族がいる部屋に入ると、何故か張りつめた空気が漂っていた。


何かしらこの雰囲気......?

でも、結婚の事を言えばみんな明るくなるかもしれない。これを喜ばない家族はいないもの!


「あ、あの.......、お父様.... お母様とお兄様にお話し、したい事があるの。」


3人は顔を三姫に向けるが、どことなくよそよそしい。


「礼子なんだ?」


三姫の父がいつもより低めで、気だるそうな声で返答する。相変わらず、顔色はよくない。


「私、悠仁さまに求婚されました。」


三姫の吉報に歓喜がわくどころか、より一層暗くなり、お葬式のようになってしまった。


様子がおかしいわ。なんで、喜んでくれないの?


兄の忠司は無言で俯いたまま、三姫の母はすすり泣き出した。


秋本家当主は、三姫の方を見るのやめ、前を向き、たった一言








「結婚は諦めてくれ」




とより一段憂鬱な声で呟いた。


「お父様......?」


三姫の父が、視線を横にずらしたので、三姫もつられて、同じようにすると、目線の先には、新聞が置かれていた。


「明日の朝、売り出すそうだ」


三姫が新聞を手に取り、目を通すと「何これ!?」、と手を震えさせながら叫んだ。



それもそのはず、新聞の表紙には大きく






【秋本家破産!!】




と記載されていたからである。



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