第20話 お参り
三姫の父の顔色が悪くなってから、何も進展もなく数ヶ月が過ぎた頃、悠仁からエドワードの日本観光の為、お寺にでも行こうと誘われた。
三姫の家族は誰も外に出たがらず、かと言って令嬢が1人で出掛けるにもいかずでストレスが溜まっていた。なので悠仁の誘いを喜んで応じて浅草にきていた。
三姫を真ん中に右に悠仁、左をエドワードと並び3人はお寺に向けて歩いていた。場所柄もあってかエドワード以外の2人は和装で出向いていた。
「三姫さまの父上が、何も言わないのは気になりますね」
エドワードは心配しながら三姫に話しかける。
「私のお父様は何かと秘密主義で.....過去にも何かで悩まれても、解決した後に話す人なのです。」
「男はそういうもんだよね」
困った顔をする三姫に悠仁がフォローする。
「でも、何かあったら言ってくださいね」
エドワードは優しい声で三姫を気遣う。
エドワード様は相変わらずお優しい。あまりご心配をおかけしたくないから、明るく振る舞いたいけど.... やっぱりとても心配で胸が苦しい.....。でも、待つしかないわね.......。
考えてばかりは仕方ない!と割切ろうとするが、不安の波が戻ってきては、無意識に悠仁の袖を握る。それに気づいた悠仁は前を向きつつ、さりげなく三姫の手を優しく包む。
(ただ手を握られているだけなに心臓がドキドキするわ。あと、顔が熱くなる...)
三姫の心は様々な感情で入り乱れながらも、ようやくお寺がみえてきた。
「あっ!お寺だわ!!」
三姫はそう言うやいなや、2人を残して一直線に駆け出す。
「あれが淑女?」
悠仁は呆れたかのようように額に手を置き首を左右に振る。反面エドワードは「可愛らしいですね」と微笑む。
三姫はお賽銭箱に硬貨を入れて鈴を鳴らし、パンッパンッ と両手で手を叩く。
「どうかお父様がよくなりますように」
悠仁は表向きエドワードの観光目的で浅草を選んだことにしてるが、本当は三姫が父の事を祈れる様に思案したことであった。相変わらず細かい気配りをする。
「悠仁は本当に気が利きますね」
「三姫は気付かないよ」
残された2人もようやくお寺の前に辿りつく。
「あれは鈍感だからね」
悠仁は少し意地悪な顔をしながら言うと宗教上の理由で仏像の元へ行けないエドワードを残して三姫と同じ事を祈る為、階段を登っていった。
2人が祈る姿を見たエドワードも自分の信じる神様に祈る。
神頼みを終えた3人は浅草を堪能すると、エドワードは用があると言っては2人の元を離れた。
2人っきりになった、三姫と悠仁はあちこちの仏閣を巡っては、祈りを捧げていると、気付いたら辺りは暗くなってきて夜がおどすれていた。
街灯には明かりがつき、ロマンチックな雰囲気になる。
いつもなら、もう帰ろうか?と言う悠仁だが、今日は中々そう言わない。
未婚の令嬢がこの時間帯まで、恋人といえど異性と出歩くのはよろしくない。が、仮に知り合いに見かけられたとしても、一緒にいる相手は名家椿家の悠仁。身分が高いだけではなく紳士であると認められているので、周りは何も言わない。
それだけではなく、普段の悠仁は饒舌で三姫を楽しませてくれるのだが、ずっと口を開かない。
沈黙の中2人は夜道を歩いているとまた、街灯が見えてきた。
すると悠仁は深刻な顔をし、いきなり三姫の手首を掴み、その街灯の下に引き寄せる。
何かしら?私、失礼な事をしたかしら?ま、まさか、別れようと言われるのかしら!?
「ねぇ、三姫?」
「は、はい!」
悠仁は、それ以上中々、口を開こうとせず、じっと三姫の目を見つめる。
心臓がバクバクする。悠仁さまと別れるなんて、嫌よ! だって、こんなにも好きなのだもの!!
「三姫......」
三姫は何を言われるのか不安でいっぱいになり、思わず目を閉じ、身体をこわばせる。
「三姫.....いや.....秋本礼子さん.....」
名字と名前を同時に言われると、より緊張感が増すわ。お願い、早く仰って!!!
「私と結婚してくれませんか?」
予想と反した悠仁からの言葉に、三姫の脳は停止し、目を大きく見開いたまま、身体は硬直し、2人の間は時が止まったかのような空間になった。
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