第19話 家族

「絶対に何かがおかしい!」


お母様もお兄様もお父様の変化に気づいていらっしゃるけど、原因はわからないなんて.......。


兄と母は静観するだけで具体的に動くことはなかった。



木々が紅く染まる秋、悠仁から紅葉観賞に誘われた三姫は悠仁に相談に乗ってもらうことにした。


2人は大きめの木の下に座るとピクニックを始める。 三姫は持っていたバスケットからサンドイッチを取り出し、悠仁に渡す。


「確かに前回お会いした時、元気が無さそうだったね」


話を聞いた悠仁はサンドイッチを一口含み飲み込み、うーんと言いながら珍しく悩みだす。


「特に噂は聞いては......ないね」


社交界の情報通でもある悠仁様ですら、何も知ないとなると他の誰に聞いても同じ答えが返ってくると思った三姫は半分諦めモードに入る。


「安心なさい、三姫には私がいるのだからね。」

悠仁にギュッと抱きしめられると

三姫は胸をドキッとさせた。


「はいっ!」


更に悠仁は三姫の心配を取り除く為に頭を撫でながら、

「明日、気晴らしに蒸気機関車にでも乗りに行かない?まだ、乗った事はなかったよね?」と尋ねる。


「まだです!是非、乗ってみたいわ!!」


相変わらず欧州物が好きな三姫は悠仁の提案に飛び乗る。


三姫を家まで送り届けると、「じゃ、明日また東京駅で。」と言いそのまま徒歩で帰っていった。


(悠仁様がいるなら私は大丈夫...大丈夫...)


悠仁の後ろ姿を見届けながらそう胸の中で呟く。



「ゴホッゴホッゲホッ」


日が静まり鈴虫の鳴き声が響く時間、秋本家当主は一人自室にて咳の音が響かないように布を何枚も重ねた手作りのハンカチを口元にあてていた。


「礼子.....。」


考えるのは愛しい娘。やっと娘と付き合う男が現れ、しかもその相手は椿家の次期当主。誰もが羨むこの状況に頭を悩ませていた。


「私が.... しなければ...ウグッゲホゲホッ」


再び咳き込むといきなり部屋の中に光が入り込んできた。


「もう見てはいられませんわ!どうしたのですか?」


三姫の母が駆け寄っては背中をさする。


「どこが悪いのですか?」


再び質問をすると三姫の父は観念し、小さな声で説明する。その話を耳元で聞いた三姫の母はどうしたらいいのかわからなくなり、静かに泣き出す。


泣きだした妻を慰めるかのように、更に耳元でひそひそと囁いた。


「本当でございますか?それで、助かるのですか?」

頷くと妻は肩にもたれかかりながら


「それで、助かるのでしたら...」


と消えそうな声で言った。


普段は心地が良い鈴虫の声だが、今の2人には悲しそうに聞こえた。

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