第18話 前兆
「カレーというものは、恐ろしい食べ物でございますね」
敬子は一晩経っても治らない三姫の胃痛の様子を知るとそう言い放ち、白湯を持ってくる為に台所へ向かう。
時刻はまもなくお昼をつげようとしていた。
「また、悠仁様にからかわれちゃったわ」
はあ.......。
三姫がため息をつくのと同時に何やら外からバタバタと足音が聞こえてくる。
何かしら?
部屋のふすまがゆっくりとすーっと開くと敬子が入って来てはやや早口で話し出す。
「悠仁様とエドワード様が三姫様のお見舞いにいらしゃいましたが...どうしましょうか?」
「悠仁様にこの姿は見せたくないけど......エドワード様もいらしてるならお通して。」
三姫は適当な上着を羽織ると彼らが来るのを待つ。
「三姫さま大丈夫ですか?これをどうぞ。」
エドワードは三姫の部屋に入るとすぐさまに胃痛を和らげる薬を渡した。
「ありがとうございます。不思議な香りがする粉薬ですね。」
三姫は粉薬の匂いを少し嗅いで白湯と一緒に流し込むと、胃がすーっとなるのを感じた。
少し胃痛が和らぐような気がするわ。
「カレーでの胃痛ぐらい放っておいても治るけどね。」
三姫の顔色が少し和らいだのをみると悠仁は大した事ないとでも言うような声で言うと出されたお茶をすする。
「私の忠告を聞けばよかったのにね。」
エドワードに嫉妬したのかやや冷たい声色で言い放つ。
「悠仁、そんな冷たい事を言わなくてもいいではないですか?カレーが刺激物なのを知らないのは日本人なら仕方ないですよね。」
と優しく三姫をフォローする。
「そうそう、三姫様、またお庭を見てもいいでしょうか?」
エドワードは三姫の自宅に以前来た時に見た庭が気に入っていたらしく、もう一度見せてもらえないかと三姫に頼んだ。
特に断る理由もないので、敬子に庭へと案内するよう指示すると、そのままエドワードは部屋を出ていった。
「エドワードが気を使ってくれたみたいだね。」
「どういう意味ですか?」
「私たちを二人っきりにさせてくれたんだよ。全く鈍いんだから。」
その言葉にややカチンときた三姫は頬を少し膨らます。
「どうせ私は鈍いですわ~」
そっぽを向くが首を無理やり悠仁の方に向かされると、おでこに「ちゅっ」と軽くキスをされた。
「胃薬を飲むより早く治る。」
突然の行為に三姫の顔は顔が真っ赤になり、「何をするのですか!?」と悠仁をポカポカと叩いた。悠仁は叩かれながらも思いっきりぎゅっと抱きしめ、三姫もそのまま悠仁に抱きつく。
二人はお互いの愛情を確認しあうかのように、ぴったりとくっついていた。
「それにしても、エドワードはまだ庭を見ているのか?」
エドワードが庭を見に部屋を出てから数刻は立っていた。 庭を見に行ったわりには、えらく時間がかかっている。不思議に二人は思っていると噂の本人が戻って来た。
「エドワード、随分時間をかけたんだね。」
「庭を散策していると偶然にも三姫様の父君の秋本家当主に会いまして、お話しをしていました。」
三姫はその話を聞くと顔を輝かせると嬉しそうにほほ笑んだ。
「エドワードさま、ありがとうございます。お父様は最近...塞ぎ気味なので...きっと良い気晴らしになったと思います。」
自分以外の他の男に微笑むのが面白くないと感じた悠仁は二人を引き離すかのように、力を込めてエドワードの肩に手を置き、「充分お見舞いしたよね」と告げるのを聞いた三姫は見送りの為、一緒に玄関まで歩いた。
「体調は、もうよいのか?」
「はい、お父様にもご心配をおかけしました。」
見送りを終えた三姫の後ろに父親の秋本家当主がひっそりと立っていた。
「椿家の次期当主であられる悠仁さまとはうまくいっているのか?」
「はい!私は幸せ者です。」
「そうか」
それだけ一言呟くと、当主は目を閉じ、床をしっかりと踏みながら自室へと足を運ぶ。まるで何かを一大決心したかのような雰囲気をかもしていた。
前回は父の様子を軽く捉えていたが、「違う!何かが、お父様の身に起きている」とそう確信したのである。
「お父様......一体何が起きているの?」
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