第9話 憧れ
あのお茶会以降、三姫とエドワードはとても仲良くなり、本当は直接会って話したいが、嫁入り前の娘が何度も男性を招くのはよろしくない風潮ゆえ、文通を交わしていた。
三姫は敬子に、「お手紙きてる??」とたずねる日々を送っている中、ようやくお待ちかねのものが届く。
嬉しい三姫はすぐに開けて読むと、瞼を軽くつむると長い睫毛が重なる。 普段は令嬢らしくないと言われるが、こういうふとした表情は育ちの良さをうかがわす。
返信内容は椿家を離れて様々な旅館を巡る為、今までのように頻繁に文通が出来なくなると書かれてあった。手紙の最後に、旅行先から絵葉書を送ると書かれている事に三姫は少し安堵する。
「よかった、一瞬嫌われているのでは?と思ってしまったわ」
日本に遊びにきていると言っていたのと自分も英国へ行ったら同じことをするだろと納得し、絵葉書が届くのを楽しみにすることにした。
しかし、イギリスの話を聞けば聞くほど、三姫は英国への憧れが強くなり、いつしか本当に行ってみたいとすら思うようになっていた。
そう思う中、他にも英国の話ができそうな人いないかな?と親に聞いても、「知らない」と言われ、兄に聞くと、「悠仁に聞けばいい」と言われたて即却下した。
「いやいやいや、悠仁さまだけは無いと思ってたけれども....他にいないわね....」
悩みに悩む事、2週間・・・
「やあ、ごきげんよう、三姫」
「ご、ごきげんよう、悠仁さま」
三姫は椿家の前に立っていた。
玄関へと続く階段が数段あり、階段を登ると玄関の屋根を支える、柱が両側に一つづあり、玄関の扉は、自分の身長以上に高かった。
「椿家、次期当主がわざわざ、玄関まで出向いていただけるとは思わなかったわ。」
晩餐会など特別な用事がない限り、一般的には執事が出迎えて、用意された客間に案内される。
「暇だったからね~」
これが、高い身分の人ゆえの余裕なのか、悠仁は全く気にしない様子で、椿家の中で一番良い景色が見える、客間に案内した。
三姫はドレスを踏まないように、着物と違って歩幅を大きくして歩きながら、客間に入った。
「わぁ~全部洋風調、素敵~」
「ありがとう。何度も来てるのに、初めてほめてくれたね」
三姫はそうだったかしら?と苦笑いしながら、誤魔化した。
「あー、うーん、まあ、いいよ。どうぞ、座って」
三姫はどこかおどおどした感じで座るのと、対照に悠仁は優雅に余裕のある心持ちで座った。
珍しく大人しい三姫を心の中でからかいつつ、先に悠仁が口を開いた
「で、何の用?」
「えーっとですね、悠仁さまに・・・そのー・・・」
「あ~、愛の告白か~、うん、いいよ」
「ち、違います!!」
おや?違うのかいと言いたげな顔で、三姫を見つめる
「その、悠仁さまが英国で暮らしていた時のお話を聞きたくて・・・」
「つ・ま・り、それは...私への強い興味があるって事だね!」
「だから、違いますってば!!」
思わず三姫は立ち上がり、座っていた椅子が倒れた
「あ~やっぱりおもしろい。他の令嬢だと、適当に理由をつけて帰ってしまうところを向き合ってくれるから、からかいがいがあるよ。」
「っもう!からかわないでください。私、16になったのですよ!」
「淑女なら異性を自宅へ招いてお茶会なんてしないと思うけど?」
「ちゃんと、両親の許可を得ました!」
悠仁はこれまた優雅に、「だからと言って....ねぇ」と言いながら紅茶を一口含んだ。
何だか癪にくる仕草と言い方ね。
「では、今この状況は淑女らしくないと言うのですか?」
「これは、いいんだよ。だって学友の忠司の妹で、三姫を赤子の頃から知っている仲だから、許されるんだよ。」
そう言われるとそんな感じもすると思い、倒した椅子を元に戻しながら、三姫は一息ついてから本題に入った。
「ふ~ん、なるほどね~、日本人からみた英国か~。何かの論文みたいな事を聞くのだね」
「論文?論文って何ですか?」
「なんでもない。英国はだね」
と切り出した悠仁は、三姫に聞かれた事を丁寧に説明した。
午後から始めたお茶会は、気づいたら夜になっており、街頭にはガス灯が灯りだしていた。 玄関ホールから ぼ~ん と時間を知らせる音も鳴った。
「あっいけない、そろそろ帰らないと」
「晩御飯を食べてから、帰ったら?」
「えっ、でも」
「うん、決まりだね。」
三姫の「もう、強引なんだから~」という声を無視して、悠仁は立ち上がると、紐式タイプの呼び鈴で、執事を呼ぶと晩御飯を食べる人数が一人増えたと伝えた。
「わ~、あの紐を引っ張ると人を呼べるのね~。便利ね~」
きゃっきゃっと喜ぶ三姫を横に
「(本当に感情というか表情がコロコロと変わるね。まっ、そこがいいんだけどね)」
と悠仁は一人心の中思う。
初めての二人っきりでするお茶会に満足すると同時にエドワードの事が気にかかる悠仁であった。
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