第10話 二人っきりの晩御飯

不本意ながらも椿家で晩御飯をご馳走になることになった三姫は、イブニングドレスを着てない事を恥ずかしく思いながら食堂へと続く客間に着くとその不安は一気に吹き飛ぶ。


「晩御飯食べるのって悠仁さまと私だけ?」


客間にある椅子には悠仁ただ一人が座っていた。


「そうだよ。親は旅行中だし弟たちは友達の家に滞在中。エドワードは...知っての通りだと思うけど?」


「他の方々の事は知らなかったわ。」


洋風屋敷へ行くといつもある自信がとたんになくなる三姫はほっとため息をはく。


「正装していないから不安になった?」


椅子の横にある小さめの机に頬杖をつきながら悠仁は少しニヤニヤする。


「当たり前です!洋装を完璧に着こなしていると言われている椿伯爵夫人にこの訪問用ドレスのままでお会いになると思うと、礼儀を知らないのかしら?と思われかねないですもの。」


三姫は悠仁の家が洋風なので訪問する時はいつも洋装を着ていた。


「それは悪い事をしたね。」


「あっいえ、大丈夫です」


悠仁様に謝られると調子が狂うわ~。


ドレスの着方は合っているかどうかの不安やヒールが痛いなどの愚痴を食堂へ案内されるまで聞いてくれた。


「悠仁様...ひょっとして寂しくて私をお誘いになられたの?」


食堂は長いテーブルが一つあり二人だけなのが少し寂しい気分を感じさせる。これが一人だとより寂しいのでは?と三姫は思い気遣うように訪ねる。


「まさか!そんな思いにはならないよ。そうか!三姫だと寂しく思うのか~。子供だね~。」


何時もの様にからかいはじめたので少しでも可哀そうと思った三姫は自分に腹がった。


「むっ!あっ、そういえば!椿家は何故ここまで洋風にこだわられるの?」


大人なら多少のからかいくらいかわせなくちゃ!話題を逸らしてみましょう!


当たり前だが元々椿家も三姫と同じ和風屋敷に住んでおりわざわざここまで欧米化しなくともいいのではないかと前から疑問に感じていた。


「その答えなら、さっき三姫が言った中にあるよ?」


「ひょっとして礼儀を知らないと言われない為ですか?」


「そうそれ。日本人でもちゃんとできると証明したいと父が言い出してね。試行錯誤の結果、慣れるには日常生活に取り入れるしかないと結論を出されたのだよ。」


話している間に前菜が運ばれてくる。洋食を見た三姫は今まで言えなかった事をつい口にしてしまった。


「そうなのですね。私も洋食に慣れようとしたいけれどお家で出されるのは和食。だから前回の晩餐会の後は、胃が気持ち悪くてお肉を食べたくないと思ってしまったの。」


三姫は手を胃に当てながら照れ笑いをする。


「その気持ちわかるよ。私は留学で慣れたけれど最初は胃がもたれて痩せてしまったよ。そんな時に限って日本での食事を思い出しては帰国したくなったね。」


悠仁はふふと思い出し笑いをしながらも、次に出されたスープを上品に飲む。


何時もの悠仁からは想像ができない、むしろ対照的な体験を聞いた三姫は意外と思うのと同時に悠仁さまも人間なのねと本人が知ったら怒られるような事を心に刻む。


前菜を終わったばかりで主菜はまだきていない。夜はまだまだこれから。2人の時間が続く。

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