第2話 晩餐会

時は明治、欧州の文化が一気に入り東京駅や様々な洋風建築が建設された日本は一気に変わろうとしていた。


特に女性はドレスという新たな服飾に戸惑っており、そうそれは彼女も例外ではなかった。


「くっ苦しい.....。ねぇ、本当にこれで合っているの??」


「はい、三姫さんき様、間違いございません」


三姫こと秋本 礼子あきもとれいこと呼ばれた少女は、腹巻きに紐がついたような『コルセット』というウエストを無理やり細くする下着に苦しめられていた。


「いえ....でも.....うっ....」


三姫はコルセットを着けるのを手伝う女性に苦しそうに話しかける。


「我慢なさりませ!欧米人にバカにされないように、しっかりと締め上げますよ!!」


何故かウエストが細ければ細いほど良いらしく、私はもういいのでは?と思っても敬子さんはやめてくれない。腰が細くなるだけではなく、このままだと窒息するわ.....


「敬子さんの気持ちはわかるけど......うっ....」


何度目かの唸り声をあげたところで三姫付きの召使いの敬子は締め上げるのをやめた。


「はぁはぁ.....死ぬかと思ったわ」


休む間もなく次は別の下着を装着し、日本人にして珍しく少しウェーブがかかった黒髪をハーフアップにすると最後に薄いピンク色をメインとしたフリルが沢山ついたドレスを着て完成させる。


「ドレスはかわいいわ。でもまさか、着るまでこんなにも大変だったなんて....」


三姫がぐったりするが敬子はうっとりとした目をし、「お美しいです!ドレスの色が黒いお瞳を輝かせますわね!さあさあ、晩さん会へ行きましょう!!忠司さまもお待ちかねですよ」と嬉しそうに言う。


三姫は自分の兄である忠司と敬子と共に晩餐会が行われる、椿伯爵家へと向かった。


椿伯爵家は洋風の屋敷に住み、眉目秀麗の息子が三人おり、今日本で1,2位を争う大金持ちの家柄でもある。


三姫は椿家に降り立つと思わず何時ものように感嘆の声をあげた。


「わ~すごい!」


洋風建築で有名な建築家を使って建てられた椿家はそれはそれは豪華だけれど派手すぎず洗練された豪邸である。 噴水のある広い庭には手入れが行き届いた様々な花が咲き乱れており、見る者を楽しませる。


「それでは忠司さまと三姫さま、私は待機所でお待ちしております。」


敬子はそのまま召使専用の待機所へと向かった。


三姫は招待状を椿家の召使に渡すと自分の名前が呼ばれるまではホールで他の招待者と一緒に列に並んで待機する。


「ふ~ん、女性はみんなウェストを細くしているのね」


周りを見渡すと洋装をした紳士や貴婦人であふれており、婦人たちのウエストは確かに細かった。


ファッションの答え合わせに時間を使っていると三姫たちは列の一番前に立っていた。


椿家の執事が三姫たちの名前を晩餐会が行われている部屋に向かって読み上げる


「秋本家ご令息忠司様及びご令嬢礼子様」


その瞬間、周りの人たち..特に女性がざわつく


三姫はその様子に思わず苦笑いする。


「あ~やっぱりこうなるのね.....」


何を隠そう忠司はイケメン・高身長・高学歴・お金持ちの四拍子という社交界に集う令嬢たちのあこがれの的!、その妹である三姫は兄に全く似ず十人並みの容姿の為「兄妹」と思われず、知らない人からは忠司の恋人と勘違いされてしまう程である。


三姫が晩餐会の主催者の元へ歩くなか女性から冷たい視線を送られる。


秋本家の令嬢って紹介されてるけどみんなお兄様の顔を先に見て夢中になるから、耳が聞こえなくなるのね....。いつものことだけど嫌だわ...。


「ごきげんよう、忠司、三姫」


「「ごきげんよう、悠仁(様)」」


ようやく今回の晩餐会の主催者である椿 悠仁つばきゆうじんに挨拶を済ますと悠仁はクスクスと三姫に向かって苦笑する。


「ふふふっほんっとう三姫は....毎回女性からの視線に関してお気の毒というかお可哀そうというか、まあもう少し.....」


「そうですね!もう少し私が容姿に恵まれていたら、麗しの兄妹と言われて誤解されなかったでしょうね!とおっしゃいたいのでしょう?」


三姫は会う度に自分の容姿をバカにする悠仁の事が苦手であった。


初めてお会いした時、背も高くかっこよくて、サラサラの黒髪が羨ましいのと何よりその優しげな焦げ茶の瞳が素敵だなと、一瞬でも思った過去の自分を殴ってやりたいわ!!


「ふんっ。悠仁様はいつご結婚されるのかしら?」


三姫は少しむきになりながら悠仁に言うと


「私の事よりも16にもなって恋文一つ届かない、三姫の方が心配だよ」


何でそんな事を知っているのよ!と思いつつ図星を突かれた三姫は喧嘩を始めようとしたところ


「ふふふ、三姫周りが見ていますよ」


その言葉に「しまった」と三姫は思った。周りの女性は、イケメン過ぎる悠仁についおどおどしてしまい、まともに会話できない中、三姫の反論する姿が更に女性からの視線をより冷たくする。


三姫はまだ始まったばかりの晩餐会にすでに憂鬱になった。


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