第30話; クリスマスバケーション
夕食を終えると、ホストパパはクリスマスライトツアーに行こうと、私を連れ出してくれた。日本でも近年、自分の家をクリスマスライトで飾り付ける家々が増えてきたが、私が今日目にした北米の家々のクリスマスデイスプレイは、今まで目にしたことがない代物で、まるでディズニーランドのクリスマスパレードを見ている様だった。
家に帰ると早々にホストパパが、このビデオを一緒に見ようと持ってきたのが、Christmas Vacationとう映画だった。ホストママ曰く、必ず毎年クリスマスシーズンには、家族と一緒にこの映画を観るそうだ。Christmas Vacationのストーリーのあらすじは、中流家庭の良き父親のクラークが、理想的なクリスマスを迎えるために奔走する様を描いたコメディタッチな物語だ。
私は映画が始まって、主演の男優を見るや否や、
「あ、この俳優知っている。ニコラスケイジでしょ」
とホストパパとママ、デイビッドに言ったら、3人が大笑いを始めた。
デイビットに至っては、喋ろうとしても笑い声が先に漏れてしまう様で、泣き笑い声で
「チェビー・ジョョイスだよ。ニコラスケイジに似てないと思うけど。美紅は面白すぎる」と、お腹を抱えて笑われてしまった。
私の勘違いから大笑いで始まったChristmas Vacationは、映像から古い映画であることは分かったが、家族がテーマのクリスマス映画なので、古さなど全く感じないとても面白い映画だ。英語力がそれほど高くない私でも、映像からストーリーは十分に理解が出来た。映画の中で、父親のクラークが自分の家にクリスマスライトを飾り付けるのだが、それはまるで、ついさっきホストパパに連れて行ってもらったクリスマスライトツアーで見た家々を思い出させてくれた。映画を観終えた私達に、ホストパパが
「今年は高校生の美紅がいるから、美紅のために、今夜は我が家にもサンタクロースが来てくれるかもしれないから、暖炉にサンタさんのためのクッキーとミルクを、トナカイのために人参を置いておこうね」
と、私に手伝ってくれる様にと言った。
デイビッドは
「僕が子供の頃、クリスマスイブの夜には、家族でこうやって、サンタさんのためにクッキートミルクを、トナカイのために人参を準備して、暖炉の前に置いてからベッドに行ったんだよ。そうしたら、煙突からサンタさんが下りてきて、暖炉に吊ったクリスマス・ストッキングの中にプレゼントを入れてくれた後に、クッキーを食べてミルクを飲んで帰るんだ。そして、トナカイのために人参を持って帰るのも忘れないのさ。明日の朝にはクッキーも人参もなくなっているから不思議だったんだよね」
と教えてくれた。
「え? サンタさんはクリスマスツリーの下にギフトを置いていくんじゃないの?」
「違うよ。ほらツリーの下には既にクリスマスギフトで一杯だろ。あれは、パパやママ、友達や親戚からもらったギフトを並べるところだよ。サンタさんは、暖炉に吊るされたストッキングの中にギフトを入れて帰るんだよ」と教えてくれた。
確かに暖炉には、真っ赤な大きな靴下が4つ吊られている。それぞれの靴下には名前が書かれている。読んでみると、一つの靴下にはDad そしてMom David と、家族の名前が刺繍されている。私は本当の家族ではないので、私のソックスはもちろんないはずなのだが、ハリポッターのハーマイオニーの顔が刺繍されたストッキングにMikuと書いた紙が貼られて、きっと昔は長男のトラビスのソックスが掛けてあったろうと思われるフックに掛けられていた。
「あ、これごめんね。美紅のソックスがないから、僕が中学生だった頃に、僕がハーマイオニーの大ファンだったからお父さんに頼んで買ってもらったクリスマス・ストッキングが出てきたから、美紅のストッキングにしたんだよ」
と言ってくれた。
北米のクリスマスって、なんて素敵なのだろうか。私にいつか子供が生まれたら、こんなクリスマスを是非演出したいと思い、明日のクリスマスに胸を膨らませてベッドに入った。
クリスマスの朝、私は早く目を覚ましたが、今日は祝日、まだ誰も起きていないのか一階からは何の物音も聞こえてこない。私は自分の部屋で誰かが声をかけてくれるのを待つことにした。そうすると、10時頃になってやっとホストママが、
「美紅起きている? オープンギフトするわよ」
と声をかけてくれた。
私は待っていましたとベッドの上から飛び出し、一階に下りて行き、まず暖炉の前に行くと、確かにクッキーの食べかすがパラパラとお皿の上に残っていて、ミルクを入れたマグは空っぽ、人参は影も形もなくなっていた。暖炉に吊るされたストッキングは形が変形するほどに膨らんでいる。
ホストママが、
「何しているの? 早くしなさい。リビングのツリーの前にみんながもう集まっているわよ」
と、私は手を引っ張られ連れていかれた。
ツリーの前には、ホストパパとデイビッドが私達を待ちかねていた。
ホストパパがオープンギフトを仕切っている様で、ツリーの下に山盛りになっているギフトを一つずつ手に取り、ギフトに貼られたネームタグに書かれているプレゼントを受け取る人の名前を呼んで、その人に渡し、受け取った人がギフトのラッピングを開封して、中身をみんなに披露した。
ホストパパからもママからも、デイビットからも私へのプレゼントがクリスマスツリーの下に置いてくれていた。私は、日本のママから家族3人分のクリスマスプレゼントを送ってもらっていたので、今日手渡そうと思っていたけれど、ギフトはクリスマスツリーの下に置くと昨日教えてもらったので、夜中に起きてこっそり3つのギフトをツリーの下に並べて置いた。
そして夕方になると、続々とマッケイファミリーの親戚が家にやってきた。
ホストパパとママのお父さん、お母さん、おじさんおばさん、いとこたちも来て、マッケイファミリーは大所帯だ。
来る人、来る人に私は紹介されたが、もう誰が誰だか分からない。
ホストパパのお父さん、つまりデイビットのお爺さんは(グレートグランパー)、マッケイファミリーの家に来ているひ孫を一人ずつ抱き上げては、子供達の小さな唇にチュッとバードキス(鳥のくちばしの様に口を尖らせて素早くキツツキの様にするキス)をして、ひ孫たちにクリスマスの挨拶をしている。
おじいちゃんに呼ばれたひ孫たちは、グレートグランパーと呼んでおじいちゃんに抱きついている。すると、なんと私の名前も呼ばれた。
おじいちゃんなりに気を使ってくれたのだろうけれど、17才の私にもグレートグランパーが唇を尖らせてバードキスをしようとするので、「えー唇だけは止めて」と心の中で叫んだら、
その叫びが聞こえたのか、ホストママが私達二人の間に割り込み、
「美紅はベイビーじゃないわよ!」
と私を救ってくれた。
キッチンアイランドには、あの巨大な七面鳥がきれいにスライスされて、大皿に盛り付けられている。スタッフィング、クランベリーソース、マッシュドポテト、グレイビーソース、コーン、サラダ、数えきれない品数の中には、ホストママに頼まれて私が初めて作った、カリフォルニアロール(アボカドとかにかまが入った巻きずし)も並んでいる。
私が作ったカリフォルニアロールは好評で、あっという間に売り切れてしまった。
夕食の後には、ゲストが持参した山ほどのフルーツやデザートのパッケージが開けられ、新しいメニューに品替えされた様にキッチアイランドに並べられた。
食事を終えると、毎年恒例だと言う、ギフトエクスチャンジ(プレゼント交換)のゲームが始まった。今日のクリスマスパーティに参加する人は各自10ドル分(約1,000円)のギフトを購入してこなければならない。数字が書かれた紙切れは数字が見えない様に折りたたまれボールに入れられる。参加者一人一人がボールから紙を一枚選んで取り出す。
続いて、若い数字1から順番に読み上げられていく。
1番の紙を引いた人は、並べられた全員が持ってきたギフトから1つ選ぶことが出来る。みんなの前でギフトは開封し、取りあえずそれは1番の紙を引いた人がもらえるギフトとして収まる。
次に2を引いた人は残っているギフトから選んでもいいし、先ほど1を引いた人が開封したギフトが欲しければ、その人からギフトを奪っても構わないルールだ。ギフトを奪われた人は、次の番号の人がギフトを選ぶ前に残ったギフトから新たにギフトを選ぶことになる。
私は、ギルフォードモールを隅から隅まで回って、私なりにベストな10ドルのギフトを探した。私が選んだのは、クリスタルのチェスボードのセットだ。ラッキーなことにセールで在庫限定の品だったので10ドルで売り出されていた。このクリスタルのチェスボードは人気を博し、沢山の人が新しいギフトを選択する道を放棄して、このチェスボードを持っている人から奪い取っていった。
ギフトエクスチェンジが終わると、本来は誰がどのギフトを持参したかは公開しないらしいのだが、ホストママが
「このチェスを持ってきたのは美紅なのよ」と発表してくれた。
すると「Good Choice Miku!」と沢山のゲストに言ってもらえたので嬉しかった。
私がギルフォードモールで、このチェスを見つけた時に、どこかで見たことがあることに気が付いた。どこで見たことがあるのかと記憶の隅々に神経を集中したら思い出した。ママが大好きなTVドラマ相棒で、特命係のオフィスの中のデスクの上に置かれている杉下右京が使っているチェス盤と同じ代物だったのだ。
家の外では、誰が鳴らしているのか分からないが、打ち上げ花火の音が聞こえた。
「えっクリスマスに花火?」
と思っていると。
ホストママが
「カナダでは個人で花火をすることが禁じられているのだけれど、花火をしても良いという日があるのよ。それは、ハロウィン、クリスマス、ニューイヤーは、個人で花火をしても構わないのよ。ご近所さんの誰かが、打ち上げ花火を買ってきて、花火を楽しんでいるのだわ」
と教えてくれたので。リビングの大きな窓のカーテンを開けてみたら、ここからでも打ち上げ花火を見ることが出来た。
こんな幸せな時間をカナダで過ごしている私は、日本にいるリサの顔が浮かんだ。きっとリサのママは年末の稼ぎ時なので、お店に出ていることだろう。りサもお店に出ているといいけどな。リサがアパートに一人で過ごしていないことだけを祈った。
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