第29話; カナダのクリスマス
クリスマスが近づいてきた。
サレー市の街並みもすっかりクリスマスだ。赤と緑の電飾が町中に飾られ、彼氏のいる私にとっては素敵なシーズンの到来だ。
12月に入るとマッケイファミリーの家でもクリスマスのデコレーションが始まった。
土曜日の朝、ホストパパとママに、今日は美紅にお手伝いをお願いしたいことがあるから一緒に出かけようと誘われ、どこから借りてきたのかパパがトラックで出かける準備をしていた。トラックにホストママと私を乗せてホストパパが向かった先には、沢山のクリスマスツリー(生木)が並べられている農場に到着した。
パパは
「今年は、美紅が好きなツリーを選べば良い」
と言ってくれたが、私は
「えっクリスマスツリーって、家で組み立てるんじゃないの?」
と聞くと、
ママは
「今年は美紅がいるから、特別に生木のクリスマスツリーを飾ることにしたのよ」
と言ってくれた。
私は一人っ子なので、子供の頃に日本のパパとママが私のためにクリスマスツリーを買ってくれて、毎年家でもクリスマツスリーを組み立てて飾ってきたけれど、生木のモミの木を見るのは初めての経験だった。だからホストパパはどこかから、生木を運ぶためにトラックを借りてきた理由に納得した。
今の私は、マッケイファミリーの一人娘なのだ。私は大はしゃぎしながら、農場内を歩きまわって、形が良くて出来るだけ大きなモミの木を探して歩いた。
私が選んだモミの木を見て、ホストパパが家に入るかなと心配したけれど、ママは
「入らなかったら、上を切れば良いわ。美紅が選んだのですから、これにしましょう」
と言って、パパと店員2名が必死になってモミの木をトラックの荷台に積み込んだ。
家に帰ると、まだベースメントで寝ていたデイビットが叩き起こされて、パパと一緒にモミの木をリビングに運び入れた。
マッケイファミリーの家のリビングはハイシーリング(吹き抜け)になっているので、相当に大きなモミの木でも収まると想像していたのだけれど、もう少しで天井にモミの木のてっぺんがぶつかりそうだった。
私とデイビッドは、ホストママに頼まれて、ベースメントからクリスマスオーナメント(クリスマス用の装飾品)と書かれた幾つものダンボール箱を1階に運んだ。
一つずつダンボール箱を開封して、クリスマツツリーにクリスマスオーナメントを飾るのが私の仕事となった。
ダンボールの中にしまわれているクリスマスオーナメントの数はもの凄く多かった。
あまりに素敵で、飾る前に一つずつ見ていると、サンタさんがSeattle、New York、 Las Vegas と書かれたサインを持っていたりするので、
「これはどういう意味?」
とホストママに聞くと、ホストママは
「あーこれね。私の趣味なの。アメリカもカナダもクリスマスオーナメントの専門店があるから、旅行に出かけたら、クリスマスオーナメントのお店を探して、その土地の名前が書いてあるオーナメントを思い出として買うのよ」
と説明してくれた。
なんて素敵なのだろうと思い、私もマネをして、これから訪れる旅先では必ず、その土地の地名が書かれたクリスマスオーナメントを購入しようと思った。
パパがベースメントからもってきた脚立に乗り、オーナメントを飾っていると、子供の写真が入っているオーナメントも沢山あったので、
「これデイビット?」
とホストママに聞くと、
「北米では、子供の写真を入れために、その年の年号が入ったオーナメントが毎年売られるのよ。親はそれを買って自分の子供の写真を飾るの」
と教えてくれた。
キャ~、なんて素敵なの。私も将来、子供が生まれたら、毎年子供の成長を記念に残せるクリスマスオーナメントを買いたいと思ったけれど、日本で買えるかしらなんて考えながら、色々なことを夢見て、ダンボール箱3個にもなるオーナメント全てをクリスマスツリーに飾った。
ホストママは、北米のクリスマスの過ごし方を色々と教えてくれた。
クリスマスには、家族一同が集うらしいが、クリスマスデイナーは24日に食べる家もあれば、25日に食べる家もあるそうだ。親戚一同が集まるから、みんなの都合を調整すると、その年によって24日に集まる時もあれば25日に集まる時もあるそうだ。
マッケイファミリーの家では、今年は25日に親戚一同がこのマッケイファミリーの家に集まることになっていると言う。
24日のクリスマスイブを迎え、私はホストママの買い物に同行した。明日のクリスマスデイナーの食材の買い物に行くらしい。到着した店はCOSTCO。
「あーコストコだ。日本にもあります」
と私がホストママに言うと、
「コストコ? ここは、コスコよ」
と言われ、私は
「えー、コストコはコストコじゃないの?」と目を丸くしていると、
ママは、
「コストよ。Tは発音しないの」
と教えてくれた。
日本のCOSTCOも大型商品店には違いないが、カナダのCOSTCOは、化け物店だ。
ホストマザーはカートを押しているが、「美紅も別のカートを持ってきて」と言われて、私達は2つのカートを押しながら、これでもかと大きな食材を山ほどカートの中に積み上げていった。
私がホストママに
「これ何?」
と聞くと、
ホストママは
「えー美紅、10月のサンクスギビングでも食べたでしょう。これはターキーよ」
と教えてくれた。私はポケットに入れているアイフォンを使いターキーと検索すると、七面鳥と翻訳語が映し出された。
「えー七面鳥って、こんなに大きいの?」
「普通のサイズよ。北米では、クリスマスとサンクスギビングには、必ず七面鳥を食べるのよ。ターキーがないクリスマスなんて、クリスマスじゃないわね」
と教えてくれた、こんな大きい鶏肉、どうやって焼くのかしらとそれが気になり始めた。
確かに、私は10月のサンクスリビングにはカナダにいたけれど、夕食に呼ばれて食卓に出た物を食べたけれど、すでに食べやすい様に切って盛られていた鶏肉、あれがターキーだったのかと今気が付いた。
家に帰り、ホストママの夕食の準備をお手伝いした。明日はクリスマスで親戚がみんな集まると聞いているから、今日のイブは簡単な夕食かと思っていたら、今日はクリスマスイブだからローストハムを焼きましょうと、今まで見たことのない程のどでかいハムの塊が出てきた。
北米の家では、ストーブと呼ばれる大型コンロの下に大きなオーブンが内蔵されている。ストーブを開けると、パン屋さんが使用するくらいの大きなオーブンが顔を出す。このオーブンで一度に何十個もパンが焼けそうだ。ホストママはそのオーブンに、大きなポットにハムを入れて放り込んだ。2時間後にキッチンアイランドに並んだお料理のメニューは、焼き立てのハム。お父さんが電動のこぎりの様なキッチン用工具でハムをスライスして大皿に綺麗に並べている。マッシュドポテト、バターコーン、シーザスサラダ、アプリコットソースにグレイビーソースが並べられた。
北米では、お客さんが来ると、キッチンアイランドにお料理を並べて、個人の皿に食べたい量だけ取って、ダイニングテーブルに運んで食べる。
生まれて初めて食べるローストハムはもの凄く美味しく、アプリコットソースが絶妙なアクセントになって、明日の夕食はこれ以上に豪華と聞き、私にとって、夢の様なクリスマスの時間となった。
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