第28話; 人生で初めて受ける国籍差別

 高級住宅街にあるフレイザーハイツ高校は、アジア系のカナダ人も多くいる。

特に留学生は韓国人が多い。キャンパスで韓国人の女子に囲まれているKENの姿を目にすることがよくあった。KENが韓国人の女子たちと話をしている時は韓国語で話しているので、今まで意識したことはなかったけど、KENは韓国人なのだと、この高校に来て初めてそれを意識する様になった。

カナダに来るまで、韓国人の彼氏を作りたいなんて思ったことがあっただろうか?私はなぜ、パパとママに韓国人の彼氏が出来たことを未だに伝えることが出来ないのだろうか? 

KENに対して、初めて外国人と言う感情が芽生え始めた。それは私にとって、どこにも持っていきようがない感情だった。

この感情が私に芽生えさせる事件がESLの教室で起こったからだ。


 バンクーバーサポート校のオフィスがあるサレー市の語学学校では、日本人生徒たちが多くいたし、ジュニアESLのクラスには多国籍の高校生たちがいたので、私は差別をされたことはなかった。フレイザーハイツ高校のESLクラスには、日本人は私1人、ベトナム人が1人、台湾人が1人、中国人が3人、9人が韓国人だった。そんな環境で、私は数名の韓国人から

「日本人として、日本が韓国にしてきた歴史を美紅はどう思っているの?」

と聞かれた。

おそらく彼女たちは私を苛めようとしたわけではないのだろう。ただ、私が日本人ということで、韓国人感情を表に出して、私に日本人を代表して韓国人に対して謝罪を求めたかったのかもしれない。

当時17才だった私に、中学にも行っていない私に、日本と韓国の歴史など何一つ知っていることなどあるはずがなかった。

この韓国人9名からしたら、私は反日感情をぶつけるのに最適なターゲットだったのかもしれない、小学生の時に読んだはだしのゲンの物語を思い出した。主人公のゲンの近所に住む朝鮮人の朴さんは、日本人に差別をされながら必死に戦渦を生き抜いていた。ゲンの家族だけが、そんな朴さんに同情して手を差し伸べるシーンが私の頭を回顧した。それと比べると、私がされていることは比較にならないほどに小さなものではあったけれど、人生で初めて受ける国籍差別だった。

私は、韓国人の彼氏のKENにはこのことについてだけは相談ができなかった。


 放課後に陽子さんに会いに行った。

陽子さんは

「私もカナダの大学に留学した時に美紅と同じこと経験をしたわ。美紅だけではなく、世界中に留学している日本人が同じ経験をしているはずよ。その相手は、おそらく韓国人か中国人だと思うわ。

私だったら、日本人が過去に犯した歴史的過ちを日本人としてどう思うかと尋ねられたら、『とても悲しいことだと思うけれど、私の世代の日本人が犯したことでないので、私がコメントするのは難しい』と思うからその通り、『I feel sorry to hear about it, however my generation of Japanese people did not commit it, so I can`t say anything. 』と返事をするかな」

と、アドバイスをしてくれた。

「そして、今を生きるgeneration of Japaneseとして、どの様に海外で暮らすべきか、美紅自身で考えてみることが大切だと思うの。そのことについて話し合いましょう。」

と言ってくれた。

日本で暮らす高校生が、自分は日本人として日本で何をすべきかなど考えて生活している人などいないであろう。しかし、海外に出ると、I am Japanese . と向き合い、自分は日本人であると考える機会は意外にも多い。

陽子さんは

「カナダでの暮らしの中で、小さな日の丸を背負って生きてきたつもりでいる」

と言う。

「私が嘘つきだと、私と接したカナダ人は、日本人は嘘つきな人種だと思うでしょう。私が時間にルーズに暮らしていると、私を知るカナダ人は、日本人は時間にルーズな人種だと思うでしょう。美紅と友達になった韓国人(または中国人)が、あなたと付き合ったことで、『日本人のことを今まで嫌ってきたけれども、美紅みたいに良い日本人もいるのね。これからは、日本人だから嫌いという先入観は持たない様にするわ』などと言ってくれたら、それは最高の褒め言葉だと思わない? 美紅の生き方が、例えば日本と韓国の、例えば日本と中国の友好の懸け橋となったのだから。美紅、あなたのボーイフレンドのKENは韓国人だよね。韓国人のクラスメートに心無い言葉を浴びせられたから、もう韓国人のKENを好きでいられない?」

と陽子さんに聞かれた。

私は、思わず首を横に振りながら、

「やっぱりKENが好き」

「そうだよね。美紅はKENが大好きだものね」

「うん。大好きだよ」

「それでいいのよ。美紅はKENが好き。KENは美紅が好き。海外に留学して、大好きな人、大好きな友達が他国に出来ることが、何よりもこの世界を平和に保てる方法だと私は思っているの。実は、私は留学に行く前までは、アジアで最も先進国は日本だと思い込み、カナダで出会うアジア諸国の人たちをどこかで見下していたわ。だけど、カナダに移住しアジア諸国からカナダに移住した人達と友人になると、私よりも良い暮らしをしている人が一杯いて、私よりも学歴が高い人も一杯いて、とても魅力的なアジア諸国から移住した友達ができたことで、韓国も中国も、友達の祖国だと思うと、敵意などまったく感じることなく暮らしてこられたの。私と韓国の友人が政治家となり、私達が日本と韓国の問題に取り組んだならば、『竹島は日本の領土だ』『独島は韓国の領土だ』などと主張するかしら? もちろん政治家として自国の利益を考えなければいけないけれど、同じアジア人として、そして大好きな友人の国を全く顧みないで話し合いの場には立たないと思うの。韓国人の私の友達も、私の祖国への思いやりを忘れないでいてくれると信じているわ。

美紅、海外で日本人としてどう暮らしていくか、今一度考えてみましょう。相手に対して、へりくだる必要などはないし、反対に傲慢になる必要もない。ただ、小さな日の丸の旗を背負っていることさえ忘れなければ、おのずと、自然に振る舞えるはずだから」

陽子さんの経験を聞いて、そして陽子さんが私達若き留学生に何を期待しているかが良く理解ができた。

私は改めて、日本人の私をガールフレンドに選んでくれたKENが大好きになり、クラスメートの韓国人にも積極的に友達になりたくて話をする様になり、外国で生活する私自身の姿勢が大きく変わった。

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