第22話; KENと同じ高校に行きたい
KENと付き合い始めて、私は初めて人を愛することを知った。
ある日、陽子さんは私とKENを呼んで3人で話しをしましょうと言ってきた。
「何、二人付き合っているんだって? いいじゃない、私は二人を応援するわよ」
KENと私が揃ってスタッフルームに入ると、陽子さんは、KENが韓国人なので、私達には英語で話かけてきた。
私は陽子さんのことを信頼しているが、いったい何を言い出すのか、もしかして付き合うことを反対されるのかしらと急に不安になった。
陽子さんは、私達二人に分かる様に、ゆっくりと、私達が理解しているか確認する様に英語で話かけてくれた。
「あなた達が付き合うことは認めましょう。但し、どこからもクレームが入らない付き合い方をすること。それならば、今後何も言いません。美紅、あなたの門限は何時ですか?」
「冬時間は9時半、夏時間は10時です」
「そうだよね。例えば、KENが美紅をホームスティ先に9時半までに送っていきました、これは正解じゃないよ。美紅をホームスティ先まで送り届けたいとKENが思うならば、美紅の門限は8時半です。彼女を送り届けたKENは自分のホームスティ先に門限までに帰宅しなければいけません。美紅はKENに送ってもらいたいと思うなら、KENが門限に間に合う様に、早めに帰宅する様に気遣いをすること。あなたたちのホストファミリーは、あなたたちが門限を守れないと、私たちスタッフに必ず報告の電話を入れてこられます。あなたたちがお互いのホストファミリーの家に遊びに行くならば、自分の部屋に二人きりでこもってはいけません。必ず私にホストファミリーからクレームの電話が入ります。どのホストファミリーも、ホームスティスチューデント(留学生)が自分の家のゲストルームでエッチなんかして欲しくないのよ。分かるよね?
もう一つ、君たちが夜遅くまで長電話をしていて就寝が遅くなって朝起きられなくて遅刻が続くと、ホストファミリーもしくは担任の先生から私が呼び出され注意を受けることになります。そんな付き合い方が続く様ならば、もう一度二人を呼び出し、付き合い方が間違っていると厳しく指摘するし、今後一切の応援をしません。誰からもクレームが入らない付き合い方が出来るのであれば、お付き合いをしても構いません。
改めて言うけど、性交渉が発覚したら即刻帰国ですからね。保護者に性交渉の事実も報告するわよ。嫌なら性交渉は慎みなさい。とはっきりと伝えます」
と言われた。
会話は英語だったけれど、陽子さんが何を私達に伝えたいか大体理解することが出来た。
KENの横顔をそっと覗き込むと、KENは真っすぐに陽子さんの目を見て、話を聞いている。
陽子さんの話が終わると、KENは
「I understand what you want to say. I promise, we won’t make you disappointed.
言いたいことは分かります。僕たちは期待を裏切らない交際をすると約束します」
と返事をした。
えええ? 何勝手に約束しているのよと思ったけれど、私達は17歳になったばかりだ。それでも、KENがとてもたくましく思えて、彼を信じてついて行くことにした。
私達の付き合いは、学校で毎日会える。
私が放課後に通信制高校のレポートをやる必要がある時は、KENは近くのコミュニティセンターでバスケットボールをしながら私が来るのを待っている。
それ以外はほぼ毎日、平日はGuildford Libraryギルフォードライブラリーに行き勉強をした。ギルフォードライブラリーはとても綺麗な図書館なので、ただ勉強しているだけなのに、私にとっては最高のデートスポットだった。
KENは今年の9月からカナダの高校に行くことが決まっている。私の様なお気軽留学ではないので、彼の頑張りは本物だった。
KENは良く自分の未来について話てくれた。17才の私達にとって、未来を語ることは夢を語ることと同じだ。KENには溢れるほどの夢があることを知った。私には何一つ夢などない。KENにそう言うと、
「これから夢を持てばいいじゃないか」
と言う。
こんな私でも夢を持っていいのだろうか?
そんな風に思って生きてきたけれど、KENの夢を聞いていると、それが私の夢の様にも聞こえてきた。
まず、私が初めて持った夢は、KENと同じ高校に行きたいという思いだった。その夢を叶えるために出来ることは、もっと英語の力を伸ばすことしか思いつかなかったので、図書館デートは幸せだった。
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