第21話; 変えられない人生の法則
日本では、中学・高校だけでなく、大学に入ってまでも海外留学は個人で行かせるよりも、学校からグループで送り出すことが多い。
それ故なのか、こんなこともあった。
提携している通信制高校からグループでこの語学学校に入校生が到着した時のことだ。
ノンちゃんという女生徒が入校数日後から学校に来なくなった。
もともと不登校気味の生徒であったらしい。それで、陽子さんはノンちゃんのために特別にホストファミリーを日本語が通じる日系のホストファミリーを手配したそうだ。
オフィスで働く陽子さんに、日本から国際電話が入った。
電話の主はノンちゃんのお母さんだ。
お母さんは陽子さんに、
「岡村先生、ノンとは毎日スカイプで顔を見ながら(TV電話)会話をしております。入校初日に英語能力試験があったそうですね。それで、翌日にクラス分けがあったと娘から聞きました。A高校から一緒に留学に行った〇〇ちゃんとは別のクラスになってしまったそうですね。娘が入ったクラスにも、A高校から来た女子生徒はいるそうですが、仲良くなれそうな子がいないそうなのです。それで娘は登校できないと言っています。急ぎ、娘を〇〇ちゃんのクラスに変えて下さい」
と言われたそうだ。
ノンちゃんのお母さんが特別な訳ではなく、ケースは異なるけれども、何か子供にあると過剰反応をされる保護者が凄く多いと聞いた。
私のママも、私がノンちゃんの様になっていたら、間違いなくカナダまで電話をかけてきたことだろう。
陽子さんは、お母さんに
「英語のクラス分けは、英語の成績だけで決めているのではなく、国籍の比率、男女の比率も計算して、クラス分けがなされていますので、ノンちゃんをAクラスに移すということは、Aクラスから他の日本人生徒をBクラスに移す必要が出てくるので、ノンちゃんのクラスの移動は出来ません」
と返答した。
すると、陽子さんの返答が信じられないと思われたお母さんは、何度も
「クラスを変更さえ下されば、娘は登校が出来る」
と懇願を続けられた。
陽子さんは、
「私は決して、ノンちゃんが学校に来られない状況は仕方がないと思っている訳ではなく、クラスを変える以外の方法を検討してみます」
とノンちゃんのお母さんに約束をしたそうだ。
陽子さんが取った行動は、ノンちゃんと一緒に渡航したA高校の女子生徒全員を集めて、ノンちゃんのお母さんから電話がかかってきたことは公言せずに、こんな話を始めた。
「ねえみんな、ノンちゃんが学校を数日欠席しているじゃない。ノンちゃんは学校に登校するために、ほんの少しの勇気が必要らしいの。私は放課後に、ノンちゃんのホームスティ先に行ってみようと思うのだけれど、一緒にノンちゃんに会いに行きたい子がいれば連れていくけど、どうかしら?」
と、陽子さんがノンちゃんと同じ日に来加した生徒たちに聞いている。
生徒全員の手があがる。
陽子さんは、全員を連れて、ノンちゃんのホームスティ先を訪問すると言うので、私にも何かできるかもしれないと思い、ついて行くことにした。
ノンちゃんのホームスティ先に到着すると、和菓子をアジア系のスーパーに買い出しに行って下さったのか、日系のホストママはノンちゃんの実の母の様に、生徒全員をもてなして下さった。
ノンちゃんを目の前にして、女子生徒たちは、
「ノンちゃん、明日学校で一緒にランチ食べようよ」
「明日、私がノンちゃんのバス停まで迎えに行くから、一緒に登校しよう!」
「ノンちゃんが休んだ分のノート持ってきたから、貸してあげるね。解らないところがあったら一緒に復習しようね」
などと、生徒たち全員が、ノンちゃんが登校できる様にと、思い思いに自分の出来ることを考え、発言している。
翌日からノンちゃんは帰国日まで欠席することなく登校をした。
この様に、ノンちゃんを励まし助けてくれる優しい女生徒も、ノリカを完全無視する女生徒も、ノブに聞こえる様に悪口を言う女生徒も何の違いもない普通の女子高校生なのだ。どちら側の人間になるかは、ただトランプのカードをめくる順番が違うだけのことで、この様な出来事は、日本のどこの高校でも繰り広げられている。今も昔も同じで、これからも永遠に変わることはないだろう。誰もが、優しい良い子にもなれれば、意地悪な嫌な子にもなるのだ。
陽子さんは、私にこんなことを話してくれた。
「この法則が永遠に変わらないのであれば、これからも生徒たちに伝え続けるしかないでしょう。何かを得たら必ず何かを失うことになる。その代わり、何かを失しなっても必ず何かを得ることが出来る、この人生の法則は誰にも変えることはできないのだから。
例えば、クラスの友達みんなが自分から離れてしまったとしましょう。クラスメートみんなが自分を無視する。そんな中、去年同じクラスだった友達が自分を気にかけてくれて、休み時間に自分の教室に来てくれたりする。沢山の友達は失いクラスでは一人ぼっちだけど、一生付き合える本当の友達を見つけることが出来たのではないかしら。
例えば、両親が離婚して自分は兄と一緒に母に付いて行くことになったとしましょう。父親に捨てられた感があってとても心が傷ついたけれども、兄妹喧嘩ばかりしていた兄を心から頼れる気持ちが生まれた。そして、今までは夕食は常に友達とファミレスで食べていた少女が、一人ぼっちで夕食を食べる母が可哀そうに思えて、家で夕食を食べる様になり、会話がなかった我が家に食卓を通して話ができる様になったことは、凄いことではないかしら。
例えば、全日制高校を中退して人生が終わったと思ったとしましょう。オンライン・ハイスクールに転校したお陰でカナダ留学に行けて、身に付けた英語力でAO受験をし、有名大学に合格することが出来た。今では、きっとあの時にオンライン・ハイスクールに転校できたことを好機に思えるのではないかしら。
死にたいほどつらいことがあっても、必ず代わりに得た物があることを忘れてはいけないわ。何を得たかを探してみることが大切なのよ」
と教えてくれた。
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